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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
双子の鏡
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鏡の双子

鏡花は瑞季と共に取調室にいる。別に何も悪い事はしていないのだが、なんとなく、自分が悪い事をしてしまったのではというような気がする。


「まぁまぁ、二人とも、そんな堅くならなくて大丈夫だよ?ただ、襲われた時の状況を聞くだけだから」


白髪混じりの髪で細い目の神崎警部は、笑って二人にお茶を出してくれた。笑うと細い目がさらに細くなる。護は離れた所にある机で何か書いている。多分、調書だとは思うが。


「まぁとりあえず話を聞かせていただけますか?」


目の前に座る神崎警部の言葉に二人は頷く。瑞季はまず自分の名前と襲われた場所、そしてその場所に行った理由と襲われた経緯を話す。瑞季があの通りにいたのは、学校から帰ってから待ち合わせがあって、急いではいなかったが、近道をするのに通ったらしい。なんでも、友人と遊ぶ約束をしていたのだとか。そしてあの通りに入って、ドッペルゲンガーに遭遇。たまたま鏡花はそこに居合わせたということだ。


──この『箱庭島』では、魔力を持たない人間と魔力を持つ人間や妖魔の学校はクラスや校舎が分けられているか、魔力を持たない人間が通えない魔法学校になっている場合がある。逆に普通の人間だけの通える学校もある。

そして、夢現の街の北東部は、基本的に魔力を持たない人間が多く住んでいる。それ故に、科学技術の発展や研究は凄まじいものがある。だからこそ、魔力を持たない人間の多くが通う学校はこのあたりに集中している。瑞季が通う学校は南東部に近い、魔力を持つ人間も妖魔も通う学校らしい。


「無力な人間が、狭くて人通りが少ない道を一人で通るのは、この街でもあまり推奨してないのは知っているよね?」


山や森の中などでも、ちゃんと舗装はされていなくても、指定されている道以外も、人間が通ったり入るのは推奨されてない。それは妖魔のテリトリーに入る恐れがあるからだ。いくら共存してるとはいえ、妖魔にとっての餌は時代は変われど人間なのだから。だが、町の中や公道、観光地などで知性がある妖魔から人間を襲うことは、まず、殆んど無い。これは、人間と妖魔との間の取り決めで、人間が多く集まる場所で妖魔が人間を狩ることを禁じているから。人間が妖魔を必要以上に殺さず、さらに妖魔が理由もなく人間を襲わないようにするために。それ以外でもこの世界には独特の法律があったりするが。


「しかし、昼間から街で襲うなんて相当、切羽詰まってるんじゃないかね?」

「だからと言って、禁止区域での殺人は許されませんよ」


それはそうだと鏡花も思う。自分も妖魔である以上、人間を喰わずにはいられない時がある。とはいっても、今は別に人絶対に間を喰わなくては死んでしまうというわけではないし、人間と同じ食事をしている者もいるのだ。ただ単に、人間を食べるのが妖魔達にとっては、色々と効率がいいってだけの話であって。ルールを無視してまで人を襲う気は、鏡花にはないが。


「瑞季君の事情はわかった、次に鏡花ちゃんに犯人について聞きたいんだが」

「ドッペルゲンガーだと思いますよ?彼と姿がそっくりで、さらに襲うときは、周囲に認識されないようにしてましたしぃ・・・」


あくまでもこれはあたしの予想ですが、と鏡花は最後に付け足す。


「ふむ、それが本当なら魔力を持つ人間に任せた方がいいのだが・・・」


確かに、普通に考えれば魔力を持たない無力な人間が、妖魔を相手に物理的な力で勝てるわけがない。だが、目の前にいる神崎警部も護も《異端審問官》(あくまでも通称)と呼ばれる、妖魔や魔術師を相手にする《怪奇現象捜査課》の人間だ。魔力を持っていなくても対抗手段はあるはずだし、妖魔や魔術師の相手は慣れてるだろう。それ以外にも彼等は特殊な権限も持っている。魔力を持っていても、どうにもならない時は鏡花の主の《窓口》の所に来るのだが。


「今は飛鳥君と私しか、手が空いてる人間がいなくてね」

「警部さんにも魔力はないようにあたしには感じますが」


鏡花の言葉に神崎警部は驚いたように鏡花を見る。


「いやぁ、さすがは《窓口》ちゃんの所の仕え魔さんだね」


顔は笑っているが、その細い目は笑っていない。別に神崎警部自身に鏡花への敵意はないのだが、職業病のようなものだろうか。その目に、若干の恐怖のような感情を抱くも、鏡花はそういうものだと勝手に完結させる。


「それにしても、この街で他人になりすますドッペルゲンガーも珍しいですね」


今まで鏡花達に背を向けていた護がクルリとこちらに向く。確かに、この街でドッペルゲンガーのなりすましを見るのはあまりない。というのも『島』のドッペルゲンガーは、現在では殆んど他人になりすますこと自体が稀だ。そもそも、成りすましは人間だろうと妖魔であろうと基本的に禁止されている。そうした成りすましによる事件が過去に色々とあったわけで。今回のように人間を襲うか、要人の身代わりでとかで成りすます必要がある時以外は無いと言ってもいい。人間を襲う際、相手に成りすます理由としては、本来の自分を特定できないようにするためだ。念のため、周りに認識されないようにもするが、鏡花みたいに気付く者もいるし。ただ、ドッペルゲンガーが他人に成りすますと相手の能力依存になるデメリットもあるが。


「とりあえず、今は必要なことは全部聞いたし、二人ともこれで帰っていいよ」


神崎警部が立ち上がると、同時に護も荷物をまとめながら立ち上がる。


「瑞季君は親御さんに連絡して迎えに来てもらうかい?」


瑞季は黙って頷く。また瑞季を一人で帰らせて襲われたら、大変だ。


「じゃあ、俺から連絡しておきますよ」

「ありがとうございます」


護が取調室を出ていき、鏡花と瑞季もそれに続いた。



  ✡



《窓口》はロビーの受付の近くにある椅子に座り、ぼんやりといろんな人や妖魔達が行き交うのを眺めていた。


「待ってる間は暇ですねぇ・・・」


壁に掛けてある時計を見ると5時を回っている。誰にともなくぼやきながらも、しばらく待っていると通路の奥の方から、護と瑞季、そして鏡花が歩いてくるのが見えた。


「話は終わった?」

「あぁ、終わったよ、時間を取らせて悪かったな」

「別に構わないですよ」


椅子から立ち上がり、瑞季を見て《窓口》は彼を送っていこうかと聞いたが、護は迎えは呼んだから大丈夫と笑って答える。


「何かあったら、多分そっちにも連絡がいくと思うが、大丈夫か?」

「わたし達は大丈夫ですよ、でも・・・もしもっていうこともあるだろうし、他にわたしから声をかけておきますか?」


いくら護達が何度も妖魔達を相手にしていても、彼女からしたら少し心配にはなる。


「誰かこういう時に適任な候補はいるのか?」

「一応《相談員》にいますけど?」

「なら、念のためにお願いするわ」


そう話をしているうちに、入り口から慌ただしく一人の女性が受付の近くにいる《窓口》達のところへ向かってくる。


「瑞季!!」


どうやら瑞季の母親らしい。きっと夕食の準備の途中だったのだろう、エプロンをつけたままだ。


「瑞季あんた、襲われたんだって?ケガとかはしてない?」

「大丈夫ですよ、お母さん、瑞季くんは無事です」

「あぁ、刑事さん、本当にうちの息子がご迷惑おかけしました」


瑞季にケガがないことがわかると、瑞季の母親は護に頭を下げる。


「いや、自分達はまだ何もしてませんから」


そう言って護の視線は鏡花の方に向けられる。


「彼女がいなければ、瑞季くんも無傷じゃいられなかったでしょうね、運がよかった」

「あなたが瑞季を助けて下さったのですか、本当にありがとうございました」

「たまたま、あたしも通りかかっただけですから」


そして瑞季は母親と帰って行く。


「では鏡花、わたし達も帰りましょうか」


二人を見送ってから《窓口》と鏡花は家に帰った。



  ✡



珍しく《窓口》はネロとリビングでテレビを観ている。今回の事件のニュースを観ているのである。


「それで、ネロくん」

「あの双子なら予定は空いてるみたいで、仕事があればとお出掛けになってる時に連絡がありましたよ」

「そう、それならば明日にでも会いにいきましょうか」

「わかりました、向こうにも、そう連絡をしておきます」


そしてネロは自室に戻っていった。



  ✡



とある館の一室に二人の少女がいる。彼女達は鏡に写したように瓜二つだ。


「ねぇねぇ、さっき《窓口》さんのところから連絡あったよ」

「あら、本当?」

「明日会いに来るって」

「それは良かったわ」

「ねぇ、もしかしたらさ」

「今日の事件のこと聞きにくるかな?」

「それもあるよね」

「でも《窓口》さんに言われたら」


「「協力しなきゃね♪」」

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