儀式の形
お茶会は楽しくお喋りするのが一番だからと、アリサは亜璃珠に色々なことを話してくれた。やはり今時の娘だからなのか、恋愛話やら流行りのことを主に話す。
「そろそろお開きかな?」
楽しい時間というのは、本当にあっという間なんだなと亜璃珠は思う。もう少しだけ話をしていたいという気になるが、片付けを済ませ、村の入り口までアリサが送ってくれた。そこで《窓口》がポケットから出した鍵を使って、ドアを出現させる。
「じゃあねー」
アリサは手を振って、三人を見送ってくれた。
「さて、亜璃珠さん」
《窓口》は思い出したように亜璃珠に話しかける。
「えと、はい」
「一旦、わたしの家に寄っていきますか?多分、七海はいたはず」
そういえば、亜璃珠は『呪力』の扱い方を七海達から教わる予定だった。今日はこの後どうかということらしい。お茶会をしていたとはいえ、携帯を見ると時間にまだ余裕はある。
「行きます」
「わかったわ」
《窓口》はドアの鍵穴に鍵を差し、回す。カチャリと音がしドアを開くと、そこも屋外のようだ。
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ドアの向こうに繋がっていたのは《窓口》の家の裏庭だった。生け垣に青い薔薇の咲く、広大だが手入れの行き届いた綺麗な庭だった。
「この裏庭ではて、よく家の子がお互いに手合わせをしてたりするの」
説明をする《窓口》はニッコリ笑っている。そして、ちょうど庭の影から、何か作業をしていたのか七海が出てきた。この間と違って巫女さんの格好ではなく、赤色のワンピースにエプロンを着けている。
「あら、お嬢」
「ただいま、七海」
「おかえりなさい、ふふっ、今日も護くん達と一緒だったのですね?」
ニコニコと笑顔を絶やさずに、七海は迎え入れてくれた。
「七海、今、手は空いているかしら?」
「えぇ、ちょうどやるべき事は終わったばかりですわ」
そして、七海は庭の少し広くなった場所に亜璃珠達を案内する。
「では亜璃珠さん、さっそくですが始めましょう」
《窓口》と護は、近くに置いてあるベンチに腰掛け、亜璃珠と七海の様子を見ていた。ニコニコとした表情は崩さずに、七海は亜璃珠に説明を始めた。
「これは『魔術』とかを使う時などでも同じなのですが」
そこで七海は言葉を切り、少しだけ何かを考えていたが、すぐにそれも終わる。
「えっと、まずは『呪力』が自分の周りにあったのは、この間わかりましたね?」
七海に聞かれて亜璃珠はただ黙って頷く。
「では、今も周りにあるのは想像できますね?」
黒い霧のようにモヤモヤしたモノ。《窓口》が見せてくれたので想像は難しくない。
「実際、今、どれくらい周りにあるかは亜璃珠さんにはわからないでしょうが、とりあえず想像するだけしてもらって」
きっとまだあっても、これくらいかな?と亜璃珠は自分の周りにあるであろう、黒い霧を想像する。
「それでは次に、今度は自分の理想とする『呪力』のない現実を想像しましょうか」
理想とする現実。亜璃珠には視えはしないが、その黒い霧が消えた時の状況を想像する。
「若干、わたし達と認識のズレはありますが、亜璃珠さんの理想と現実にはギャップがありますよね」
「・・・そうですね」
「で、そこで理想を現実にするために『呪力』と『呪文』が必要になってきます、必要になる『呪文』等は後々、教えますが」
七海はワンピースのポケットを探るが、目当ての物はなかったようだ。
「『呪術』を『使う』というよりかは、簡単に『祈る』みたいな感じで、その理想を現実にしていく感じですかね」
七海のその話だけ聞くならば、亜璃珠でも簡単そうだと思う。
「ただし、重要なのは『上辺だけの祈りではダメ』だという事です」
前言撤回、やっぱりなんだか亜璃珠には難しそうだ。
「それも、ちゃんと教えますよ」
難しそうな表情の亜璃珠に、やはりニコニコしながら七海は言う。
「なぁ、しぃ」
「何?」
亜璃珠が七海から『呪文』を教わっているのを見ながら、護は隣にいる《窓口》にポツリと話しかける。
「そういえばさ、最初の御守りの中身ってどうなったんだ?」
「・・・わたしがまだ一応、持っていますけど?」
突然なんだろうと《窓口》は思ったが、護が言わんとしている事は、なんとなく察しがつく。
「護くん、わたしがアレで何かをするとでも思ったんですか?」
「やりかねないだろ」
確かに《窓口》には、あの石でやろうとしている事はあるにはあるのだが、それは今ここで言わない方がいいだろう。どうせ、彼の事だ。それを知れば《窓口》の行動に口出しして、止めようとしてくる。
「最終的にはどうするんだ?」
護は追及の手を緩めるつもりはないらしい。こういう時の彼は非常に面倒くさい。
「最終的にですか?お祓いをして、また石は使うつもりでいますよ?」
とりあえず《窓口》は表向きはそう言っておくことにした。護は納得いっていないようだが、そうかとだけ言って黙り込む。
「わたしがアレを使って呪術師でも呪殺すると思った?」
「お前の場合は『呪詛返し』をするとき、相手がどう足掻いても返せないくらいにまで膨らませて返すだろう」
「わたしは基本的に『呪詛返し』は倍返しか、それ以上はするわね」
「それでお前は何人、呪殺した?」
《窓口》は答えない。どちらかといえば答えられないのだろう。当然、彼女は呪殺した人間の数なんて、正確に数えてなんかいないのだ。それは、今まで食べたパンの数を答えろと言っているようなものだ。
「過去にわたしがキミ達から依頼されて引き受けた『呪詛返し』は、全て呪術師達の自業自得だと思いますけど?」
その言葉には護は何も言わない。それは至極真っ当な正論だからだ。
「それに、わたしだって最初から呪殺しようとして返すわけじゃないです、結果的には何らかの形で死んでますけど」
「一人はそれに耐えられず自殺、一人は発狂してたな」
護は自分の知る限りでの、彼女が関わった事例をあげる。
「そのまま呪詛を返したところで、さらに増えて戻ってくることだってありますからね、それなら最初から向こうが返せないくらいにした方のがいいでしょう?結果として死ぬとしてもね」
《窓口》には、その時はそれが最善策だったということ。二人が死ぬ状況で一人が助かったのだから、それだけでも良かったのだと言っていた。両方とも救う道はなかったのかは、護にはわからないが。あったとしても、彼女はそれをあえて選択しないということもある。
「呪術師の方だって、生半可な覚悟では呪い代行なんかもしないのよ?例え呪いを完遂したとしても、その後が大変なんだから」
「その後?」
「前にも言ったはずだけれど、呪術師に強い精神力がなければ触れていた『呪力』の影響で神経衰弱に陥って、やっぱり最終的には発狂したりするわ」
その話を聞いて、護は過去に関わった呪術師は最初から救えなかったんだと《窓口》が言っているようにも聞こえた。
「それで、今回はどうするつもりなんだ?」
「それは、亜璃珠さん次第・・・ですかね」
それは、亜璃珠が《窓口》に呪術師への『呪詛返し』を望めば、すぐにでも行動する、ということを意味している。
「今のところは、わたしが動かずに済みそうですけど」
少しだけ安心したような表情の《窓口》に、護も、それが一番いいなと立ち上がる。ちょうど七海と亜璃珠が二人の元に歩いてきた。
「亜璃珠ちゃん、もういいのか?」
「えぇ、今、彼女に必要なことは教えましたので」
「やっぱり儀式とかって、やるのか?」
「儀式っていっても、形は色々なのですよ?護くん」
七海はまるで、子どもに言い聞かせるように返す。完全に護を子ども扱いしている。
「そんな難しい儀式は、一般人にはわからないでしょう?」
だから一番簡単で手軽なのを教えましたので、とニッコリ笑いながら七海は言う。
「それで何かあったら、またって感じか?」
「そうですね」
護は亜璃珠を送っていく、と言うので《窓口》は二人を黙って見送った。




