魔女の祝祭
亜璃珠の予定もあるだろうと、護は亜璃珠を送っていった。二人のいなくなったのを確認した後、真夜が口を開いた。
「扱い方なら、あたしでもよかったんじゃないですか?」
「でも真夜は今、仕事が他にあるでしょう?それに、猫が喋るのも、彼女には刺激が強すぎるんじゃないかしら?」
「・・・そうでした」
真夜は今、孤児院に入るまでブランシュ(ついでにリオネットも)の教育係を亜夢と共にしている。本来の仕事もしているので負担が大きいだろう。
「魔女といえば、もうすぐサバトがあるじゃないですか」
カレンダーを見たネロが、思い出したように言う。
「最初の収穫祭、ルーナサーでしたっけ」
サバトと言われると大概の人は魔女が生け贄を差し出し、悪魔を呼び出すための狂宴だと思うだろう。実際は魔女の祝祭、季節ごとの儀式で年に8回ある。そのうちのイモルグ・ベルティナ・ルーナサー・ソーウィンを大サバト、オースターラ・メイボン・リーザ・ユールを小サバトと言うらしい。ちなみに後者は春分と秋分、夏至と冬至の祝祭だとか。
「サバトは太陽のお祭りでしたっけね・・・あと、月のお祭りもあるんでしたよね、新月と満月に、一応」
ポツリと言う《窓口》にネロは静かに頷く。
「いつの間にか人の間では、サバトは悪魔を呼ぶ儀式になってるそうですけどね」
「全く、悪魔も気まぐれで出ていくから、人間達も面白がって儀式ごっこをするんですよねぇ・・・それでこちらの仕事が増えるから、たまったもんじゃないわ」
《窓口》の言葉に真夜は若干、迷惑そうにする。
「真夜さん、それは僕に言わないでほしいです・・・中には本当に儀式の時もありますから」
ネロも真夜の言葉に苦笑している。
「ところで、主は今年らルーナサーに行かれるのですか?」
「え?行かないけれど?」
「でも毎回、祝祭に仲良しの魔女の方に呼ばれていらっしゃるようですが」
「まぁ、別に参加するしないは構わないでしょう?今の時代、何かとイベントはごっちゃになってますからね」
「ソーウィンはハロウィンに、ユールはクリスマスに、オースターラはイースターに、名前を変えて親しまれてますし」
「本当に名前が変わっただけなのよねぇ、それでも最近のハロウィンは仮想パーティーにしかなってないけど」
真夜の言葉に二人もただ笑うしかなかった。
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護と別れて亜璃珠は病院へ向かう。といっても護が気を使って、病院の近くの人目に付かない場所で亜璃珠と別れたためそんなに長い距離ではないが。今日は姉の紅璃珠の仕事も休みだから、亜璃珠は少し息抜きに出掛けておいでと言われていた。それならと亜璃珠は《窓口》に会いに行った。携帯を見るとまだ午後2時だ。まだどこか行こうと思えば行けそうだが、やはり母が心配だった。病室に行くと姉と母がいる。
「あら、亜璃珠いらっしゃい」
「今日は大丈夫って言ったのに」
母と姉は楽しそうに話していた。母は一時期、昏睡状態だったが最近は顔色も良くなってきている。
「起きてて大丈夫なの?お母さん」
「最近は調子がいいのよ、亜璃珠が持ってきた御札のおかげかしらねぇ」
冗談なのかはわからないが、確かに御札を貰った日から、徐々に快方に向かっているのは事実だ。
「そういえば亜璃珠、助けてもらった人にお礼とかしなくて大丈夫なの?」
「お礼はちゃんと言ったけど」
姉達は《窓口》達に何かお礼をしたいようだ。御守りを貰ってからは周りの悪い事は少なくなり、それは亜璃珠自身も実感していた。
「もし、連絡が取れるなら連れてきてよ」
姉はそう言うが、向こうにも都合があるのではと亜璃珠はすぐには頷かなかった。きっと《窓口》達は亜璃珠の予定に合わせてくれるだろうけど。とりあえず姉の予定が空いてる日を聞き、一応連絡してみるよと亜璃珠は伝えておく。そして課題もあるので先に家に帰ることにした。
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応接室には護と《窓口》の二人がいた。
「さっき、向こうから連絡があってさ」
「うん」
「彼女の親御さんが、お礼をしたいらしいな」
「あら、別にそんなのは構わないのにね?こちらは仕事なのですから」
そんな話をしながらも《窓口》は作業の手を止めない。この作業は相談員に仕事を回すための資料をまとめているのだとか。
「それは誰に回すんだ?」
「内緒」
黙々と作業を続ける《窓口》に護は退屈そうに話しかける。
「お前の予定って、いつ空く?」
「いつでも、キミに合わせるわ」
「じゃあ、後で連絡する」
「うん」
するとガチャリと外に繋がるドアが開く。
「こんにちはー、しぃちゃん、いますー?」
そこにいたのは黒いトンガリ帽子を被り、白いブラウスに黒いスカートを履いた少女だった。
「あら、アリサじゃない」
「エヘヘ、来ちゃった♪」
アリサはニコニコしながら応接室に入ってくる。帽子の下からは蜜柑色の髪と縹色の眼が見える。
「あら?異端審問官の人もいたのかー」
少し残念そうに護を見て、アリサは《窓口》の隣に座る。アリサは生まれながらの魔女で、村の中でもかなり優秀な魔女らしい。まだ魔女としては新米の部類なのだそうだが。
「で、どうしたの?突然」
「もうすぐルーナサーだからさ、しぃちゃん予定空いてるかなって」
「ルーナサーって7月31日だったっけ?」
護の質問にアリサは頷く。《窓口》は若干困っているようだ。
「うーん・・・どうしましょう」
「もしかして忙しい?」
「少しだけね」
アリサは若干、頬を膨らませ護を見る。見るというよりは睨む、が正しいか。その目は「お前のせいか」と言われているようだ。
「アリサ、護くんはわたしが巻き込んだの・・・別に彼らからの依頼がある訳ではないわ」
宥めるように《窓口》が言う。アリサはその言葉で少し機嫌を直したようだ。というか、最初から機嫌は損ねていなかったようだが。
「しぃちゃんの仕事なら仕方ないね、じゃあ、今度のメイボンの頃にまた来るよ」
「えぇ、予定が空いてたらね」
そうしてアリサは「じゃあねー」と言って帰っていった。
「相変わらずだな、あの子も」
「毎回、祝祭の時期になると来るのよ、箒に乗ってね」
「あんな子でも立派な魔女なんだよな」
「魔女の家系だからね」
「しかし、アリサにも『しぃちゃん』って呼ばれてんのか」
「それは、キミが彼女の前でわたしを『しぃ』って呼んだからよ?」
そしてアリサの来訪で中断していた作業を《窓口》は再開する。だが、それも終わりに近かったようで、さっさとまとめた資料を大きな封筒に入れていく。
「悪かったな」
「別に構わないわ」
何度となく繰り返したやりとりをする。
「そろそろ俺も帰るか・・・じゃあ、また今度」
「ええ、またね」
護は部屋を出ていく。《窓口》はそれを黙って見送った。




