魔法使いと魔女
神社の境内を出て、すぐに《窓口》がポケットから金色のハートの鍵を出す。そういえば、護も亜璃珠と《窓口》の所に行くのに金色のクローバーの鍵を使っていたな、と亜璃珠は思い出す。そんな亜璃珠をよそに、彼女は鍵を使ってドアを出現させて、中に入っていく。
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
ドアの向こうは、神社に来るまでにいた応接室で、そこにはネロと一匹の黒猫がいた。
「あら、真夜も戻ってたのね?」
真夜はにゃあ、と短く返事をする。
「とりあえず亜璃珠さん、今後のこととかを話しましょうか」
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亜璃珠は護と共に《窓口》と対面するようにソファーに座る。ただ、さっきと違うのは《窓口》の膝の上には、身体が宵闇のように黒く、蒼い月のように輝く眼の猫がいることだけ。
「とりあえず、現時点までの亜璃珠さんの所にあった『呪力』は無くなりました」
「ですが、このままだとまた溜まっていくことが考えられます」
そこまで確認するように言って、彼女はネロが新たに入れてくれていた飲み物を飲む。
「じゃあ、これからどうすんだ?」
「今は少しずつ、亜璃珠さんに『呪力』に対抗する方法を覚えてもらうしかないですかね・・・」
真夜を撫でながら護と話す《窓口》に亜璃珠はふと、前から思っていたことをぶつけてみた。
「あの、例えば『魔法』とかで『呪い』を解くことって、できないんですか?」
幼い頃に読んだお伽噺。ヒロインにかけられた呪いを、魔法使いが魔法で解いてくれたりしていた。亜璃珠のその言葉に《窓口》は少しだけ、困ったような、難しいと言うような表情を見せる。
「うーん・・・『魔法』と『魔術』は『呪術』とはちょっとだけ違うんですよね、前者の場合、結果はほぼ同じなんですが」
「結果は同じ、なのに違う?」
そんな亜璃珠に《窓口》は説明をしてくれる。
「まず『魔法』というのは『奇跡』を起こす『方法』で、そして『魔術』というのは『魔法』に近い事象を起こすために使う術、だから結果としては同じような『魔法』を使っていると言えるのです」
「ただ、『呪術』というのは『呪力』によって『呪い』を発動させる術なんですが」
そこで一旦《窓口》は言葉を止める。やはり説明は難しいのだろう。
「えっとね・・・『呪術』というのは、何も人を呪うために使うものだけではないんですよ」
「どういうことですか?」
「先ほど『呪力』は『負のエネルギー』だと説明しましたが、あれは分かりやすく言っただけのことなんですよね」
「・・・?」
「実はね、除霊をするにも『呪力』が必要なんですよね、霊媒師とか祓魔師、退魔師なんかも霊を祓うのに『呪術』を使うことがありますし、正直な話ですが『呪力』に対しては『呪力』で対抗するしかないんですよ」
「じゃあ、『魔法』や『魔術』は使えなくても『呪術』は使えるってことですか?」
亜璃珠の言葉に《窓口》は頷く。呪術は手順や方法さえ間違わなければ、才能等は関係ないらしい。
「『呪力』が弱くても、誰でも手軽で簡単にできる『呪術』というのが俗にいう『おまじない』なんですよ」
「おまじないが、呪術・・・?」
「『まじない』と『のろい』、言葉にすると違うように感じると思いますが、どちらも同じく『呪い』と書きますからね」
「そうなんですね」
「『呪術』っていうのは、使い方によって良い結果にも悪い結果にもなります、これは『魔術』などにも言えますがね・・・人を貶めるために使う『呪術』と『呪力』はかける方もかけられた方も悪い影響しかないのです」
そこで《窓口》の説明は終わる。要は何事も使い方次第ということか。
「『呪力』の場合は修行とかをすれば若干ですが、いくらか扱うことができますね」
ネロが少しだけ捕捉するように言う。つまり亜璃珠でも時間をかければ、なんとかできるようになるということだろう。
「短時間でなんとかなる方法は?」
「僕らが知る限り、無いかと」
ネロの言葉に亜璃珠はシュンとする。それを見た護が《窓口》に頼むように口を開く。
「なぁ、お前の力でなんとかならないか?」
「わたし自身が、彼女にかけられてる『呪い』を引き受けて、倍以上にして呪術師に『呪い』を返すことも可能ですが・・・それをすると、もしかしたら呪術師を呪殺する事になりますよ?それでも別にいいと言うのなら、やりますけど」
護に対して《窓口》は淡々と言うが、それは堂々と殺人予告をしているようなものだった。なんだか少し怖くなって、亜璃珠は話を逸らす。
「そういえば《窓口》さんは《魔法使い》なんですか?」
「一応、表向きでは」
「もしも『魔法』でわたしを魔法使いにしてとか言ったら、叶えてくれますか?」
亜璃珠の言葉に《窓口》は首を横に振る。
「実際にはできなくはないです・・・けれども、わたしが色々な人の『願い』を叶えてきていても、その『願い』に関しては叶えることは絶対にしません」
「なんでですか?」
「それはかなり危険なことだから」
そして少しだけ過去にあった出来事を話してくれた。
「ある日、わたしの所に『魔法使いになりたい』という相談者の少女が一人来ました」
その少女は『島』の外の人間で、大切な人が呪いにかかり助けたいと《窓口》の所へ来た。だが《窓口》は呪いは解くことは出来るが、少女を魔法使いにすることは断ったとネロも話をする。
「元々ない魔力を人間が得たところで、きちんとまともに扱えずに暴発して、死亡するケースがほとんどなんですよ」
そうしたら人でなければいいのかと、彼女に魔女になる方法を聞いてきたのだという。
「この『島』でいう魔女は、人間ではなくて人型の妖魔という分類になる」
つまり魔女になるということは、その瞬間に人としては死ぬことと同じこと。だから《窓口》はそれも話した上で、魔女になることも諦めるように言った。だが《窓口》が呪いを解くのにその人の所へ行った時には遅く、その少女の大切な人は死んでいた。その後、結果的には少女はある人物の手によって魔女になってしまった。そして惨劇が起こってしまった。少女は呪いをかけた術者を殺害、術者の子孫にも呪いをかけた。さらに術者と親交のあった者達も全員殺害するという大事件にまで発展させた。
「たとえ魔法使いになって『魔力』をきちんと使えたとしても、亜璃珠さんのいる世界で使えば、どうなりますかね?」
みんなと違う。それも科学や論理で説明できない、得体の知れない力がある。きっとそれだけで、最初は好奇な目で見られたとしても、後々は気味悪がって周りから人がいなくなるだろう。たとえ、そうでなくても自分にとって異質なモノは排除しようとするのが人間の性なのだから。
「自分が魔法を使えることを隠しながら、生きることになるでしょうね・・・だから、わたしはその『願い』は叶えることはしないし、この相談者のようになってほしくないんですよ」
そして《窓口》の話は終わる。
「で、その子はどうなったんですか?」
「今はこの『島』の魔女の村にいるらしいな」
その現場に立ち会ったのは今の護の上司だそうで、少女の保護を裏で《窓口》に頼んでいたそうだ。
「『島』の外では証拠不十分で、年齢に対する殺害遂行能力とその殺戮が複数同時に行われたことで、彼女の犯行の立証が事実上では不可能だとされたのさ」
「そして彼女自身も身寄りが誰もいなかったし、外でまた同じような事件を起こされても困るからと、魔女の村に連れていったのです」
「罪に問われなかったんですか?」
「もちろん、ちゃんと償わせてからの話です」
だが、未だに彼女のかけた『呪い』は解けないそうだ。
「それだけ彼女の持っていた『恨み』も、得た『魔力』も強かったということね」
そうした話を聞くと、彼女の仕事は意外と大変なんだと亜璃珠は思う。
「とりあえず、亜璃珠さんの『呪い』は様子を見ながら、対抗手段を得ていくしかないですね」
亜璃珠は頷く。問題は誰に対抗手段を教わるか、だが。
「《闇路》と《光里》は?」
「その二人はしばらくは予定が空かないと思います」
話を聞くと《闇路》は《祓魔師》の家系、《光里》は《退魔師》の家系なんだそうだ。《祓魔師》と《退魔師》というのは基本的に悪魔の相手をし、心霊現象なども解決してくれるらしい。違いは『祓う』か『退ける』かの違いだそうだ。『祓う』とは消滅させたり成仏させることで、『退ける』とは言葉通りの意味らしい。
「・・・七海と八雲に頼みましょうか」
その場にいた全員が、うんと頷いた。




