意志なき迷い
亜璃珠は《窓口》と護と別れたあと、買い物をして病院に向かっていた。本当は買い物を母の世話をしている姉に頼まれていたが、運の悪いことに途中であの男達に見付かってしまったのだ。あの男達はヤミ金融の連中で、行方不明の父が多額の借金を抱えていたのだそうだ。姉にはこっそりメールで借金取りに見つかったから、戻るのは遅くなることは伝えておいた。正直あの時、護が来なかったら今ごろどうなっていただろうか・・・。考えるだけでゾッとする。そして《窓口》から貰った御守りを首から下げたものの、あまり信じられずにいた。正直、亜璃珠は『呪い』とかそういったオカルト的なものは信じていない方だ。だが《窓口》の言葉は、何故かテレビで見るような《霊媒師》の言葉とは少しだけ違って聞こえたのだ。それに、せっかく貰ったのだからと首から下げておくことにしたのだ。小さな緋色の巾着の御守り、触った感じだと球体の何かが入っているようだった。
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病院に着いて姉と母のいる病室へ向かう。小さくドアをノックすると、姉の返事があったので静かに開ける。
「お姉ちゃん、ただいま、頼まれたの買ってきたよ」
「おかえり、大丈夫だった?ケガはない?」
やはり心配だったのだろう、姉の紅璃珠が駆け寄ってくる。
「大丈夫、途中で助けてくれた人達がいたの」
「そっか、それはよかった・・・」
その言葉に安心したのか、紅璃珠はホッと胸を撫で下ろす。そして亜璃珠の首から下げられた御守りを見て、当然のことを聞く。
「亜璃珠、その首から下げてるの、どうしたの?」
「その、助けてくれた人が『御守り』ってくれた」
「御守り?でも、あんまり知らない人から物を貰っちゃダメよ?後が怖いから」
「一応、わたしだって高校生だよ?お姉ちゃん、ちゃんとわかってるって」
そういうと紅璃珠はマジマジと御守りを見ながら「確かに怪しい物ではなさそうだけどね」と荷物を受け取り、母の近くに移動する。亜璃珠もそれに続いた。
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「ただいま」
「おかえりなさいませ、主」
《窓口》が帰ると、いつも通りネロが出迎えてくれる。
「久しぶりの護とのデートは楽しかったですか?」
悪戯っ子のように笑いながら、ネロは《窓口》に聞いてくる。
「デートって、べ、別に護くんとは付き合ってるわけではないのですよ?・・・でも、まぁ、楽しかったですけど」
「わかってますよ、貴女の表情を見れば」
顔を真っ赤にする《窓口》に対して、ニコニコとしたままネロは見ている。からかってたのかと、さらに《窓口》の顔は赤くなる。
「もぅ、ネロくんもたまに意地悪しますよね・・・」
「ふふ、貴女のその反応が見たくて、つい」
「・・・まぁ、いいんですがね」
呆れたように《窓口》は言っているが、若干、その様子が引っかかったのだろう。
「デート中に何かありましたか?」
「少し気になることはありました、けれど・・・」
「そうですか」
それだけ言って、二人とも黙る。気になることといっても、仕事ではないので、ネロもそこまで深く聞くことはしなかった。だが《窓口》が何かしら行動する時は、決まって深刻な状況なのはネロも知っている。要は《窓口》は仕事に繋がる可能性があると、暗に言ってるのだ。
「主、これからの予定、どこか空けますか?」
「まだそれは大丈夫だと思う、それに何かあったら護くんにでも頼むわ」
「そうですか」
その言葉から護を巻き込んだことを悟る。それは頼もしい反面、厄介でもある。
「じゃあ、わたしは部屋にいるからね」
「はい」
そして《窓口》は一人、部屋の中へ入っていった。
「さて、どうなることやら・・・」
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数日後、護はとある町の病院の前にいた。というのも《窓口》に頼まれた事があるためだ。
「あ、こないだの」
買い物をしていたのだろう、袋を持っている亜璃珠が向こうから歩いてくるのが見えた。
「やぁ、亜璃珠ちゃん」
「今日は一人なんですね」
「あぁ、アイツは何かと仕事とかで外には出られないらしい」
「そうなんですか・・・」
挨拶もそこそこに、護は亜璃珠が首から下げている御守りに目をやる。
「ちゃんと御守り身に着けてるんだ?」
「まぁ、一応・・・」
「今日、俺はそれに用があってね」
「これに・・・?」
そういって護は、ポケットから小さな球体を取り出す。それは透明な青みがかった石だった。
「それは?」
「アイツが俺に、君に渡した御守りの中身を交換してきてほしいって」
「はぁ・・・?」
そういえば《窓口》は応急措置として、この御守りを亜璃珠に渡したのだ。つまり中身を交換っていうことは、まともな効果のある物にするということらしい。
「その石が御守りの中身なんですか?」
「そんなところらしいな・・・ちょっとだけ貸してくれるかい?」
「いいですけど・・・」
護が御守りを受け取り、中身を出す。中からコロンと護が持っている石と同じ大きさの真っ黒い石が出てくる。
「あぁ、こりゃそろそろ限界だったんだろうな」
「えっ・・・そうなんですか?」
「多分、この御守りに入ってたのも、これくらい透明だったらしいな」
護は透明な石の方を御守りの中に入れて亜璃珠に返す。
「あぁ、それと」
まだ何かあるのかと、亜璃珠は護を見る。護はシャツの胸ポケットから一枚の紙を出す。
「これを、アイツが君のお母さんにって」
「これは・・・?」
「御札・・・かな?」
手渡された物には、何か書いてはあるが達筆過ぎて亜璃珠には読めない。
「なんて書いてあるんですか?」
「俺にも読めない」
亜璃珠は不思議に思う。母のことは護にも、もちろん《窓口》にも言ってないのだ。まぁ、御札だというのなら、悪い物ではなさそうだ。母の近くにでも置いておこう。
「あの、なんで母のことまで《窓口》さんが?」
「アイツが言ってただけだから、直接本人に聞いた方がいいんじゃないかな、まぁ、その機会があるかはわからないが」
「そうなんですか」
亜璃珠は、変な人だと思いながらも御札を見る。
「君も、そろそろ行くんだろ?」
「あ、はい」
そういって護は別れようとする。
「あ、あの」
「なんだい?」
「その・・・もし、時間が空いたら《窓口》さんに会わせていただけませんか?」
「ん?いいけど・・・何しに行くんだ?」
「えっと・・・」
その様子に何か思ったのか護は特に追及することもなかった。
「じゃあアイツにも予定を聞いておくよ」
「ありがとうございます」
そして護は再び歩いていった。




