願望する意志
とある町の昼下がり。周りから見たら二人は付き合ってるように見えるだろう。
「しぃ、急に悪いな・・・外に連れ出しちまって」
買ったものを抱えながら、護は《窓口》に言う。
「また何で、世界の外側で買い物をしようと?別に海を渡ればいいだけの話だったのでは・・・?あの島はあくまでも夢と現が交わる点であって、ちゃんと海を渡れば大陸だってあるのよ?」
「島だと誰が見てるか分からないだろ?一応は《夢幻福音の家》の子にサプライズってことなんだから、それにあの海を渡った所で、いくら平和でも島の中程じゃねーだろ」
「ふぅん・・・まぁ、たまには良いのではないですかね?」
《窓口》は嬉しそうだ。その様子を見て護も安心する。護と出会った頃の彼女は、少なくともこんな風には笑うことはなかった。護はそんな事をふと思い出して歩いていたが、突然《窓口》が歩みを止める。
「しぃ、どうした?」
「護くん、あれ」
彼女が指差したその先には路地の中ほどで、五人の男が一人の少女を取り囲んでいた。人通りも多いため、向こうの会話も少女の様子も護には分からない。
「どうします?わたしがあの娘を助けに行ってもいいんですが」
「しぃがそう言うってことは・・・結構、事態は深刻なんだな?」
ただの個人的ないざこざならば、何か起きているのを見付けたとしても《窓口》は殆んど干渉しない。興味がないとかではなく(実際に興味がないこともあるが)、当事者で解決することであることが、彼女自身でわかっている場合だけで、それ以外ならばちゃんと助けようと考えるし(周りに他人の目があれば)、それは護も知っている。ただし、彼女は無力な人間に対しては、(場合によるが)その力を奮うことはできない。それは島の規律によるもの。
「しぃ、これ・・・買ったモノ持てるか?俺が行ってくる」
「大丈夫だとは思うけど、一緒にわたしも行きますか?」
「いや、お前はここにいてくれ、絶対に動くなよ?」
「わかりました」
そういって護は集団に向かって行った。正直な話、この《窓口》に行かせたら何が起きるか分からない。
「そんなとこで何やってんだ?」
五人の男達はジロッと護を睨む。
「なんだぁ?てめえにゃ、関係ねぇだろ」
「関係はないんだが、連れが言うもんだから仕方なくな」
正確には《窓口》本人には絶対に行かせたくなかっただけなのだが、やれやれといった感じで護は対峙する。
「チッ、かっこつけやがって!!」
一人の男が護に殴りかかる。護はそれを軽くかわす。それが気に入らなかったのか次々と襲い掛かる。護はそれも軽くかわして見せる。だが、護その最中でも、どう少女を引き離そうか考えていた。チラリと《窓口》がいた方を見る、がそこに《窓口》の姿がない。
「アイツ、あそこにいろって言ったのに?!」
かわしつつも《窓口》の行動に少しだけ愚痴をこぼす。ふと見ると、路地の入り口まで隠れるようにしながらも、いつの間にか《窓口》が荷物を抱えて来ていた。
「ねぇ貴女、こっち、来れますか?」
小さな声で《窓口》が手招きしながら、少女を呼ぶ。壁際で怯えていた少女はその声に気付いたのか、少しずつ、男達の様子を見ながら《窓口》の方へ移動する。そして《窓口》の近くまで、なんとか気付かれないように向かう。その後《窓口》は彼女の手を引き、急いでその場を離れていく。それを確認すると護はニヤリと笑った。
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《窓口》は少女の手を引いて歩いていく。とりあえず、現場から遠く離れなくてはと早足で。行き先は特に決めてない。周りを見渡し、座れる場所へ。
「ふぅ・・・この辺で大丈夫かしらね・・・?」
「あ、あの・・・?」
「心配無用ですよ?彼は、ああ見えても結構、強いんですから」
ニコッと笑ってみせると、彼女は少し安心したのか、ポロポロと涙を溢す。
「う・・・うぅっ」
「怖かったでしょう?大丈夫ですよ」
慰めながらも《窓口》はほんの少しだけ、護のことが心配になる。だが、しばらくすると、護は無傷で《窓口》達のところに歩いてきた。彼女も泣き止んだようだ。
「こんなところにいたのか、しぃ、探した」
「おかえりなさい、それで、どうなりました?」
「こっちの警察に連絡入れたから連行されたよ」
「そうですか」
そして護は《窓口》の隣いる少女に気付く。
「しぃ、その子とずっと一緒にいたのか?」
「キミにお礼が言いたいってさ」
「あ、あの・・・助けていただいて、ありがとうございます」
少女はペコリと護にお辞儀をする。《窓口》は抱えていた荷物を護に渡す。
「何でまた、その子を助けようと思ったんだ?」
「えっと・・・その、よくないモノが視えたとだけ言っておきましょうか」
「えっ?」
《窓口》の言葉に少女が声を上げる。何か心当たりがあるのだろうか。
「しぃ、そのよくないモノのせいで、彼女があんな怖い目にあってるってことでいいのか?」
「まぁ・・・大体そんな感じ」
その様子に何か不穏なものを感じたのか、護は《窓口》の手を引いてほんの少しだけ小声で話す。
「しぃ、彼女の名前、聞いたかい?」
「まだ聞いてないけど、視ればわかりますよ?」
「しぃ、お前はわかるだろうが相手は一般人だし、俺がわからない」
「あぁ、そっか・・・そうですね」
そしてまた彼女に向き合い、護が口を開く。
「えぇと、とりあえず、君の名前を教えてもらっていいかい?」
「あ、鈴村 亜璃珠といいます」
「俺は飛鳥 護っていう」
亜璃珠が名乗ると護も名乗り、少し躊躇いながら《窓口》を見る。
《窓口》は若干困ったような表情を浮かべている。
「しぃ」
「えっと・・・わたしは彼を含めて周りから《窓口》と呼ばれてますから、それで呼んでくれたらいいですよ」
「《窓口》さん?」
「まぁ、肩書きみたいなものなんですよ」
彼女は苦笑しているが、その目は真っ直ぐに亜璃珠を見ている。
「護くん、どこか場所を移しましょう」
「その辺のファミレスでいいか?」
「それはキミに任せます・・・えっと亜璃珠さんも一緒にいいですか?」
亜璃珠は静かに頷く。《窓口》の「よくないモノが視えた」という言葉が気になったのだろう。そして三人は揃って歩き始めた。
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亜璃珠の目の前には《窓口》が座っている。
「二人とも、飲み物これでよかったか?」
護が三人分の飲み物を持ってくる。コップの中身は烏龍茶。そして、護は《窓口》の隣に座る。なかなか話を始めない二人に、亜璃珠が口を開いた。
「あの、《窓口》さん」
「何でしょう?」
「先程の『よくないモノが視えた』っていうのは一体?」
「うーん・・・言葉通りの意味なのですが・・・」
またしばらく《窓口》は黙ってしまう。どこから話そうか考えているようにも見える。それを見かねたのか、変わりに護が口を開く。
「えっと、亜璃珠さん」
「何ですか?」
「しぃが、《窓口》がいう『よくないモノ』っていうのに心当たりは?」
その質問に亜璃珠は少し困りながらも話す。
「最近、わたしの周りで不幸というか、悪いことばかり起きていて・・・」
「それで?」
「この前、友達の知り合いの《霊媒師》だって人に『怨霊が憑いてる』って言われて」
「怨霊ねぇ・・・時期的に見ても、それが本当ならば今、貴女はここにいられないはずなんですけどね」
亜璃珠の言葉に《窓口》はとんでもないことを口に出す。それは亜璃珠をさらに不安にさせる。
「しぃ、その言葉はどういう事なんだ?」
「それで、貴女はその怨霊は祓ってもらったんですか?」
「いえ、その時は持ち合わせがないからと、断りました」
護の質問を無視して《窓口》は続ける。
「自称霊媒師というのは、殆んど完全に除霊が出来てないのにお金貰ってる場合が多いですから、今も憑いてても特に珍しくないのだけれど」
「そうなんですか?」
「しぃ、俺の質問は無視?」
「では、護くんの質問の答えね、本当に怨霊が彼女に憑いてるのならば、今ごろ怨霊の影響が出ていて、こんな風に元気に動いてるのはおかしいの」
「じゃあ、その霊媒師は嘘をついてるってことなのか?」
「もしかしたら、わたしが視た『よくないモノ』が、その自称霊媒師には怨霊に見えたということも、多分あるのかもしれないですね」
護の催促に仕方ないなぁ、という感じで《窓口》が答えていく。
「ところで《窓口》さん、もう一度聞きますが、その『よくないモノ』っていうのは・・・?」
「貴女自身に集まってるのかという事なのかまでは、わたしには分からないですが『呪力』みたいな感じですかね・・・」
「『呪力』っていうのは?」
「簡単に言うと、一種の『呪い』の・・・まだ種といった感じですね」
その言葉に亜璃珠と護が《窓口》を見る。《窓口》は落ち着いた様子で烏龍茶を飲んでいる。
「それはお前の力でなんとかならないのか?しぃ」
「うーん・・・方法自体は、あるにはあるんですけど」
「それをやるだけの準備が、今はない?」
「そういうこと」
困ったように《窓口》は自身の唯一の荷物である、白いバッグを漁る。
「えっと・・・応急措置にしかならないけど」
そういって《窓口》がバッグから取り出したのは、小さな巾着状の御守りだった。《窓口》はそれに緋色の紐を括り付け、首から下げられるようにする。
「応急措置っていっても、しぃの御守りは効果はあるはずだから持っておくといい」
御守りを受け取るのを躊躇っていた亜璃珠に、躊躇う理由を《窓口》は気付いたのだろう。
「これくらいの事で、わたしは学生からお金を取ろうとは思わないから安心して」
「え?」
ニコッと《窓口》は亜璃珠に笑ってみせる。
「それでも、しぃが首を突っ込むってことは相当、事態が深刻なんだろう?」
「あの、それって、どういうことですか?」
「あれがただのいざこざ程度なら、しぃも自分から関わることはしないんだよ」
亜璃珠は訳がわからないという顔をする。《窓口》がその様子を見て言葉を続ける。
「わたしが関わる人はみんな、大抵、深刻な状況になってる人達なんですよ」
「それは怨霊とか憑いていて、とかですか?」
「・・・そうですね」
亜璃珠は納得はいかないが、周りでは深刻な状況なのは解っているため、そういう事だろうと思った。
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時計を見ると針は4時を指している。
「まだ明るいですが、今日はこの辺で帰った方がいいかもしれないですね」
《窓口》が亜璃珠に向かって言う。その言葉で護も思い出したように言う。
「さすがに俺達も帰らないとな」
店を出て亜璃珠は二人と別れる。それを見送り、人気の無い場所で《窓口》は鍵を取り出す。
「なぁ、しぃ、あの御守りの中身って聞いても大丈夫か?」
「真夜のチョーカーに付いてるチャームと同じような石よ、不幸とか災厄を溜め込んで周りへの影響を弱めるモノ」
「あんな小さくても効果はあるのか?」
「あくまでも、あれは応急措置ですからね?完全な解決法とは言えません」
そういって《窓口》鍵によって出現したドアを開ける。護もそれに続いた。




