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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
呪いと魔女
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現実と願望

七月の後半、学生ならばもう夏休みだろう。そんなことをぼんやりと《窓口》は考えながら、自分の部屋でソファーに座り、手紙を読んでは脇にあるボックスに入れる。一つのボックスには大量に手紙が入っている。これは大体が、島の外から送られてくるものだ。その多くは『悩み事』を書いた手紙だが、イタズラや噂を興味本位で試して書かれたものが大半をしめる。残念なことに、彼女は手紙からでも書いた人物の心情を読み取ることが出来る。まぁ、それは自分の能力の副産物ではあるが。


「夏休み・・・か」


そういえば、自分の同居人達は休みとかはいいんだろうか、とふと考えてみる。きっと逆に、自分が少しは休めと言われそうだが。突然、携帯が鳴り響く。びっくりして着信を見ると、護からだった。


「もしもし」

『──あ、もしもし、今いいか?』

「どうしたの?急に」

『──いや、俺も夏休みとったからさ』

「そうなんですか」

『──で、暇な日あるか?』

「暇な日?多分あるとは思うけど・・・」

『──ちょっとさ、買い物に付き合ってほしいんだよ』

「わかったわ」

『──ありがとう、ネロ達には俺から言っておくから』


用件だけ言ってプツンと通話が切れる。それにしても、仕事以外で外出か・・・と《窓口》は少し嬉しそうに笑う。そしてまた彼女は手紙を読む作業を再開した。



  ✡



ネロもまた自室で作業をしていた。基本的には書類整理とかスケジュール管理を主にやっている。先ほどメールで護から、自分の主である《窓口》を外に連れて行くのに、予定の空いてる日を聞かれたので返事を済ませる。


──なぁ、大丈夫なのか?


不意に頭に声が響く。ネロは自分の後ろにある鏡を見た。映るのは自分自身、だがその眼はいつもの琥珀色ではなく、紅色だった。この鏡は《窓口》が、前に何かの依頼の報酬で貰ったモノだと、彼女本人から聞いている。


「たまにはいいと思うが?護も一緒だし」


少々、彼女が外出するのは心配だが、彼女にも休みは必要だろう。自分達とは違って、人間(ヒト)なのだから。


──その割りには心配してるんじゃないか?


鏡の中の『自分』は痛いところを突いてくる。この『自分』は過去の出来事で分かれた、もう一人の『人格』。


「そりゃそうさ、そんな事もわかってるのに聞くんだな、『(ノワール)』」


正直なところ、この『人格』はネロの本性と言ってもいい。普段は表側には出てくることはしない。お互いの人格には意志があるため、身体は一人なのに二人いる状態である。《窓口》達は二人を区別するのに、この裏人格を『ノワール』と呼ぶ。


──まぁな、それが『俺』だから


『ノワール』が表面上に出てきた理由。心配してるだけなら出てくることはないのだが。


「入れ替わるか?」

──いや、今はいい


別々に意志があるために、考えてることがお互いに、たまに分からないことがある。自分自身ではあるのだが。


──気が向いたらな

「そうか」


とりあえず、何もないけど出てきたというのはわかったので、仕事に戻ることにした。


──俺もまたしばらく寝るかな・・・まぁ頑張れよ『(ネロ)

「言わなくてもわかってるっての」


ネロが目を閉じて、もう一度鏡を見た時には、鏡の中の自分の眼はいつもの琥珀色だった。



  ✡



いつもなら仕事で来ることが多い洋館。護はいつものスーツ姿ではなく、青いシャツに黒いジーパンという格好で玄関の前に立っている。インターホンを鳴らそうとした時、カチャリとドアが開いた。


「護、いらっしゃい」


ドアを開けたのはネロだった。


「アイツは?」

「部屋にいるよ、呼んでくる」


そういって一旦ネロは奥に行こうとしたのだが。


「お待たせ〜♪」


タイミングがいいんだか、悪いんだか《窓口》が部屋から出てきた。この家の玄関を入ってすぐ、左側には普段仕事で出入りする応接室がある。その為、彼女の部屋も玄関に近いところにある。《窓口》も普段の白いブラウスにグレーのタータンチェックのスカートとは違って薄緑色のワンピースを着ていた。ただ四つ葉の髪飾りだけはいつも通りだが。


「じゃあネロくん、行ってきますね」

「行ってらっしゃい」


ネロは二人を見送ると、いつもの仕事に戻った。



  ✡



──もしも魔法が使えたら。

そんな事を一度は考えたことは誰だってあるだろう。一人の少女は今、まさにそれを思っていた。彼女は鈴村 亜璃珠(アリス)。夏期講習の帰り道、スマートフォンには一通のメールが届いている。それは自分の姉からで、入院中の母の容態の悪化を知らせるものだった。だから講習が終わって、すぐに母のいる病院に向かって走っていた。


「はぁっ・・・はぁっ・・・間に・・・合って」


最近、彼女の周りでは不幸なことばかりが起きている。


──もしも魔法が使えたら。きっと原因の分からない母の病気も治せるのに。


そんなことを思いながら亜璃珠は走る。


──もしかしたら、間に合わないのでは


そんな事も頭をよぎる。一抹の不安と希望を抱えながら、彼女はただただ、ひたすらに走る。

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