幸福である日常
《窓口》が望と会っている頃。ネロは応接室の掃除をしていた。
だが、突然、外に繋がるドアが開いた。
「よお、《窓口》はいるか?」
ドアを開けたのは、護だった。
「あぁ、護か・・・彼女なら今、出掛けてるよ」
「そうだったか、悪い」
「まぁそこに座りなよ、何か飲むかい?」
ネロは応接室の隅のキッチンに向かう。
「じゃ、コーヒー」
「砂糖とミルクは?」
「いつも通りで」
「はいよ」
ネロはテキパキとカップなどの準備をしていく。その様子を見ていた護がネロに向かって言う。
「そういや、あの子はどうなるんだ?」
「彼女は出掛けるときに言ってたんだが、一応《夢幻福音の家》に預かってもらうつもりだってさ」
「ネロ、それはいいことなのか?」
「たまに、僕も手伝いに行くついでに様子を見に行けるし、それにあの夢宮の目があるし、きっと大丈夫だとは思うよ」
そうか、と護はソファーに座りなおす。しばらくの沈黙のあと、ネロが護が報告しようとしていたであろう事を聞く。
「それより、今回の事件についてはどうなるんだい?」
「あぁ、それは夢宮家からの要望で、犯人は死亡の扱いにするんだとさ」
「そうか」
「まぁ、全く何も知らない子どもで、親もいないんじゃな・・・罪は罪だが、無知である故ので、悪意があっての事じゃないし、償いはちゃんと理解ができるようになってからって事らしい」
護の報告に、ネロは一旦黙り込む。
「そうだね・・・」
「悪い」
「気にしなくていいさ」
しばらく沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、応接室に入ってきた真夜だった。
「あら、来客中だったのね?」
「真夜ちゃん、お邪魔してる」
「護、コーヒー入ったよ・・・真夜さんも何か飲みますか?」
「あ・・・じゃあ、ミルクがいいな〜」
「わかりました」
ピョンと真夜がソファーに飛び乗る。
「真夜ちゃん、あの子の様子は?」
「普段はリオにベッタリ、あと今まで何も知らなかったからか、リオ並みに知識を覚えていってますよ」
「教育しがいがあるようだな」
「ええ、とても・・・彼も色々な事に興味があって、それだけでかなり楽ですよ」
「真夜さん、どうぞ」
ネロが持ってきたコップを器用に前足で持つと、真夜は一気に中身を飲み干した。
「ふぅ・・・あ、そうそう、あの子ってウサギだったんですね」
「ウサギ?」
「髪も長めでボサボサだったし、所々固まるように絡まっていたから気付かなかったし、今も髪で隠れてるけど、ちゃんとウサギの耳があったのよ」
「へぇ・・・誰が気付いたんだ?」
「ご主人」
まだやることがあったのか、コップをネロに返して真夜はソファーから飛び降りる。
「じゃあ、あたしは戻りますね〜」
そういって真夜は部屋を出ていった。
「なぁ、ネロ、なんでリオちゃんにベッタリなのに、アイツが耳に気付いたんだ?」
「ここに来た時に、身だしなみをそのままにしておけないからって、彼女が髪に櫛を通してたんだ」
「なるほどな」
「たまたま、その時に気付いたんだよ」
ネロは洗い終わったコップを戻して、護と向かい合ったソファーに座る。
「アイツも色々あるんだな」
「他にも、あの子が《夢幻福音の家》に入るにも色々と必要なものがあるもんで、他の子にも頼んでるけど準備してるらしいし」
「そうなのか」
「こっちとしては、働きづめで彼女の方が倒れないかが心配だがな」
それはそれで同居人達は大変なんだな、と護は思うが口にはしなかった。
「アイツも裏でなんかやってたんだっけな」
護は前に力を制限してるときに何かしらやってると、たまに消費に回復が追い付かないときがある、と《窓口》本人に聞いたことがあった。ネロ達はそれを危惧してるのだろうか。
「今回は大丈夫そうか?」
「本人は大丈夫だと言ってる」
「そうか」
そういや力を使うと、ひどく疲れるとも言ってたなぁと護は朧気に思い出す。
「護、そういや今日は何しに来たんだ?」
「ん?ただ今回の件の報告でもと思ってただけだよ、協力してもらったからな」
「それだけか、それなら僕から伝えておくよ」
「悪いな」
護は残ってたコーヒーを飲み干すと、また来ると言って帰っていった。
「全く、ここは退屈しないよ」
ネロはクスッと笑って、自分以外誰もいなくなった部屋を片付ける。
──今日もまた、この応接室の扉は開く。誰かの『願い』や『悩み』の為に。




