意識する幸福
ふわりと亜夢が室内に戻ってきた。その隣には白髪に深紅色の眼をした少年がいる。
「ご主人、ただいま戻りました」
「おかえりなさい、亜夢ちゃん」
亜夢の隣にいる少年は、まず後回しなのか《窓口》は亜夢に向かって思い出したように言う。
「そうそう、|夢宮(向こう)から連絡がありましたよ」
「なんと仰られてましたか?」
「子ども達が全員、目を覚ましたそうです」
「それはよかった」
護が隣の少年を見る。視線が合ったのか、それにビクッと身体を震わせる。
「その子が今回の事件の原因なんだな?」
彼はリオネットを見つけると、すぐさまリオネットの後ろに隠れてしまった。
「・・・大丈夫、ここにいる人、怖くない」
リオネットがそう言うが、がっつりとリオネットを盾にしている。隠れてはいるが、顔はしっかりこちらを向いてるので、大人に対して警戒してるだけだろう。それがわかっているようで、警戒を解こうと《窓口》がゆっくり彼に近づき、目線を彼に合わせてしゃがむ。
「大丈夫です、わたし達はもうキミに何もしませんよ」
「・・・本当に?」
「本当ですよ」
にっこり《窓口》が笑って、掌を開いて彼に向けると、少しだけ横に出てくる。護も同じように《窓口》の隣で、膝をついてしゃがむ。
「なぁ、君は名前は?」
「名前・・・?」
護が彼に名前を聞くが、彼は何の事か理解できてないようで、首を傾げて《窓口》の方を向く。
「護くん、この子に名前は無いみたいよ?」
「名前が、無い?」
「今、わたしも視ようとしたんですけど・・・」
「主でも視えなかった?」
その言葉に《窓口》が頷く。さすがに彼女でも、名前が無いモノの名前は視えないようだ。
「ねえ、名前って何?」
「名前というのは『自身の存在を表すもの』かしら」
「それは、無いと困るの?」
「わたしが言うのもなんですが・・・名前はないと、ここではかなり困りますね」
彼の質問に苦笑しながらも《窓口》はしっかり答えていく。
「もう一ついいか?」
「・・・」
「キミに親は・・・お父さんやお母さんはいないのか?」
「・・・?」
またしても彼は首を傾げている。その様子を見ても嘘はついてないようだ。
「もしかして、ずっと一人だった?」
ネロの言葉に彼はコクコクと頷く。どうやら親もいないらしい。それでは今まで、どうやって彼は生きていたのだろう。
「それで、護くん」
「なんだ?」
「普通ならこの子、どうしますか?」
「うーん・・・普通なら事情聴取、調書作成とかして」
「ですよね」
しばらく《窓口》は黙り込む。何かを考えているようだった。
「護くん、この子はしばらく、わたし達が預かっていてもいいですかね?」
「ん?多分、大丈夫だと思うが、どうするんだ?」
「えぇっと・・・簡単に言うと、お勉強?」
その言葉に護が疑問をぶつける。
「なんだ?傍にでも置いとくつもりでいるのか?」
「違いますよ?お勉強っていうのは、最低限この世界で知っていてほしい常識とかの、です」
そういうことかと、護は納得する。確かに、ずっと独りぼっちだった彼は、あまりにも知らないことが多過ぎる。きっとこのまま聴取しても、彼は自分が犯した事がいかに重大なのかも理解ができないだろう。
《窓口》と護のやりとりを見ていたリオネットと彼は、不安そうに《窓口》を見ている。
「ボク、どうなるの?」
「キミはね?この島で色々なモノを見て、聞いて、色々な事を知らなくてはいけないわ」
「それしたら、友達できる?」
「えぇ、きっと」
その様子を見ながら、ネロと亜夢は部屋を元のように片付けていく。それが終わると《窓口》が立ち上がり、大きく伸びをした。
「とりあえず、一旦帰りましょうか」
《窓口》の言葉に全員が同意する。そして、この事件は幕を下ろした。
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「今回もご苦労だったね、しぃ」
ここは夢宮家の望の部屋。そこで《窓口》と望が向かい合ってソファーに座っている。
「その言葉は、わたしにではなくて、わたしの同居人達に言ってほしいものですね?」
「しぃだって、裏で頑張ってただろう?」
「あら?一体、何のことでしょうか?」
出された紅茶を飲んで、一息ついた《窓口》はとぼけている。
「惚けていたって知ってるよ、この被害が広がらないように『夢魔除けの御守り』を作っていたそうじゃないか」
「御守りなんて、神社に行けば買えるモノでしょう?」
「いや、アレはしぃじゃないと作れないモノだ」
彼女が作る御守りやお札は、神社に置いてあるものとは少し違う。具体的には効力の強さや効果が違うのだが。
「作った御守りを真夜ちゃんに配ってもらってたんだろう?」
「それは・・・否定しませんけどね」
「しぃもよく考えたよね、子ども達に少し配ったら後は神社に預けておいたんだろう?」
望の言葉に、彼女は何の反応も示さない。ただ、興味が無さそうに紅茶を飲んでいる。
「全く、さすが《夢神の巫女》ってところかな?」
「ふぅ・・・こういう事をするのは、今回だけですよ」
彼女はそういうが、望は知っている。なんだかんだ言っても、こういう事を裏では何度もしてるのだ。
「それはそうと、あの夢魔はどうしたんだい?」
「今は真夜達が教育中ですよ」
「その後はどうするつもりだい?」
「貴方の家が援助、と言いますか出資してる孤児院がありますよね?」
「あぁ、あの《夢幻福音の家》か・・・確か、僕が覚えている限りではしぃがネロくんと初めて出会った場所、だったかな?」
「そこなら安心かな、と」
その言葉に望はうんうんと満足げに頷く。
「彼の成長も楽しみだね」
「そうですね」
その後、少年は《夢幻福音の家》で『ブランシュ』と名付けられることになった。




