監禁からの解放
応接室には《窓口》、彼女の隣にはリオネットとネロ、向かい合うように護と亜夢がいた。
「主、昨日頼まれていた、子ども達全員の情報です」
「ありがとう」
「なぁ、その情報はどっから持ってきたんだ?」
護は正直な疑問を口にする。その疑問を《窓口》は、そんなのわかってるだろうにと、不思議そうな表情で答えた。
「え?もちろん《情報屋》からよ?」
「《情報屋》って、どこの?」
「どこって《星野》のあの子よ」
「あぁ、あの子か」
《星野》というのは、島一番の《情報屋》の家だ。どんな情報でも持っていると専らの噂だ。
「とりあえずリオ、ここにある子ども達覚えておいてくれる?」
「・・・うん」
《窓口》がリオネットに情報の紙束を渡す。
「しかし珍しいな、リオちゃんが部屋から出てきてるなんて」
「・・・」
リオネットの反応はない。相変わらず伏し目がちで無表情だ。
「・・・怒ってる?」
「・・・」
「大丈夫よ、気にしてないみたいだから」
「・・・あぁそう」
《窓口》が気にしてないと言うならそうなんだろうが、ここまで無反応だと、自分は嫌われてるのではないかと護は思う。
「無反応というわけではないの、ただ・・・リオは感情が表に出にくいだけだから」
「お前と違って、それ俺はわからないからな?」
それはそれで何か寂しい気はするが、護は本題に入ることにした。
「それで、一体どういう方法で子ども達を見つけるんだ?」
「リオに寝てもらったら、亜夢ちゃんに相手側には気付かれないように、傍にいてもらおうと思ってます」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「一応、念のため鍵とかは用意しておきますよ」
「鍵ってそんなことにも使えるのか?」
「使えますけど・・・わたしがキミにあげた鍵を、キミが使ったところで、夢の中でただ迷子になるだけでしょう?」
その言葉に間違いないだろう。無言で護は頷く。
「だが、亜夢さんやリオちゃんが戦闘とかになったらどうするんだ?」
「護くん、彼女達もここの同居人ですよ?それくらいなら大丈夫です」
その言葉に亜夢もリオネットも頷く。正直、ここの女性陣が戦闘をしているのは見たことはないが、実力はあるようだ。
「で、この家で実行するのか?」
「ここはそういった夢魔とか妖魔とかは、そうそう立ち入れないから難しいんじゃないかしら」
「そうなのか?」
意外な言葉に護は少しだけ驚いた。なんだかんだ色々な人達が出入りしてるのに一応、セキュリティ対策はあるらしい。
「とりあえず、どこか良い場所があればいいんですけどね・・・」
「・・・上司にでも確認とるか?」
「できますか?」
「そもそも協力要請したのはこっちだしな」
✡
──夢現の街の中心部。ここは色々な組織の本部が集まる場所。今、その中心部にある一番大きな建物に《窓口》達はいる。この建物は《箱庭魔法協会》という《魔術師》や《魔法使い》、妖魔等が魔力を持たない者との共存を目的とした組織の本部だ。この《協会本部》に護が所属する《怪奇現象捜査課》もここにある。護が受付を済ます間、《窓口》達はロビーのソファーで待っていた。この《協会本部》にも日々、色々な依頼や相談が持ち込まれる。《窓口》も時々、ここにくる依頼を貰ったりしている。
「空いてる部屋があるから、使ってかまわないってよ」
「そう、ありがと」
✡
空いている部屋は会議室のような広い部屋だった。
「さて、始めましょうか」
《窓口》は左肩からたすき掛けにしていたバッグの中から、小さなアロマポッドと小さなガラス製の瓶を取り出す。
「その瓶の中はなんだ?」
「睡眠作用のある、特別に調合してもらったアロマオイルだとか色々」
「お前が調合できるのか?」
「ふふっ、実は相談員の中には、こういうのを調合できる人がいましてね」
脇ではネロが仮眠室から持ってきたであろう、布団を敷いている。
「リオ、準備はいいかしら?」
「うん、大丈夫」
そういうと、リオネットは布団に潜りこむ。
「なぁ、あの格好のままで寝れるのか?」
護は小声で《窓口》に聞く。
「大丈夫なんじゃないかしら?多分・・・ね」
しばらくすると、リオネットは寝たのだろう、亜夢もいつの間にかいなくなっており、部屋が一気に静かになる。
「そういえば、アロマ薫いてるのに俺達は眠くならないんだな」
「だから言ったでしょう?『特別に』調合してもらったって」
特別というのは、そういうことかと護は納得する。そんな護を尻目に《窓口》はバッグから一つの鏡を取り出す。
「なんだ?その鏡」
「これは『夢映しの鏡』という、身近な人が見る夢を現実にいながら覗ける魔法の鏡です」
「へぇ、普通の鏡に見えるけどな」
鏡を机の上に起き、《窓口》が手をかざす。少しぼぅっと光り、鏡にはリオネットと、その周りの夢の世界を映しだす。
「なぁ、こういうのって詠唱とかしなくても使えるんだな」
「あぁ、それは、わたしとか夢宮だとか強い魔力を持ってる人に限られるわ」
普通の魔術師とかですら難しいことを、彼女は涼しい顔をしていとも簡単にやってのける。そんなことを知ってか知らずか、夢の中のリオネットは暗い森の道を進んでいた。よく見ると、リオネットの近くでは、一匹の藤色の蝶が飛んでいる。
「あれ?この蝶は・・・?」
「亜夢ちゃんですよ」
「これが?」
「相手側には気付かれないようにするのにね」
夢の中の森を歩くリオネット。傍らに藤色の蝶となった亜夢。
「亜夢ねぇ・・・何か、ある?」
「今のところ特にないみたいですよ?」
しばらく進んでいるが何もない。
──ねぇ。
「・・・?!」
声が聞こえる。声だけで性別が判断はできないくらいの幼い声。
周りを見ても何もない。
「亜夢ねぇ、何か・・・いるみたい、だよ」
「何かあった?」
その様子を鏡から見ていた《窓口》達もリオネットの反応に気付き『鍵』を出す。ハートの形をした金色の鍵だった。
──ねぇ、一緒に遊ぼう?
リオネットは声の主を探すも見つからない。
「・・・どこ?」
──こっち。
リオネットは亜夢の方に目をやる。
「リオちゃん、とりあえず声のする方に行って」
小声で亜夢はリオネットに指示を出す。リオネットは小さく頷いて、声のする方へ向かう。
すると目の前に《窓口》と心夜が見つけたドアと同じ色と形をした、小さなドアがあった。
「・・・」
「ご主人からの指示、待つ?」
開けて中に入れば帰れなくなるかもしれない。そんな不安からかリオネットはドアを開けない。
「《窓口》、どうする?」
「そうですね・・・亜夢ちゃんがいるから、そのまま進んでも大丈夫でしょうけどね」
そういうと《窓口》は紙とペンを取り出す。
「えぇっと・・・」
「主、貸してください」
「いつも悪いね〜」
そういってネロが小さな紙にサラサラと魔法陣を描き始める。
「滅多に使わないから、この陣の描いた紙のストックがなくて」
「家を出る前に『忘れ物はないか』とあれほど言ったのに、主はいつもです」
「まぁ、何はともあれ」
陣の描かれた紙を持って彼女は、鏡を見ながら話を始める。
「亜夢ちゃん、聞こえるかしら?」
──聞こえてます
「リオにそのドアの向こうに行ってもらって、何かあったらその時は、亜夢ちゃん」
──わかりました
そういって、鏡の中の亜夢はリオネットの髪に止まる。まるで髪飾りのようだ。
「リオちゃん、ご主人から、そのまま進んで大丈夫みたい」
「・・・わかった」
そして二人はドアの向こうへと入っていった。




