声の誘惑
《窓口》は、さすがに帰りも歩いて帰るのは疲れるので、鍵を使って家に帰ることにした。
「ただいま帰りました」
玄関を開ける。見ると知らない靴が一組、揃えてある。この家は洋館ではあるが、靴を脱いで上がる仕様だ。
「お帰りなさい、主」
「ただいま、ネロくん」
《窓口》の声を聞き、ネロが玄関まで出迎えてくれる。
「誰か来てるんですか?」
「あぁ、來夢くんが来てますよ」
「そう」
「現在、亜夢さんの部屋でお話をされてます」
來夢というのは亜夢の兄妹達の中の彼女の双子の兄だ。その兄が来て話をしてるということは、今回の異変についてだろう。
「話、応接室で聞きますか?」
「んー・・・わたしの部屋で聞きますよ」
「じゃあ二人に伝えておきますね」
「お願いします」
✡
部屋のドアをノックする音。返事をすると亜夢と來夢がドアを開けて入ってくる。
「ご主人、失礼致します」
「あ、お邪魔してます」
「いらっしゃい、まぁ、そこに座ってくださいな」
藤色の髪に珊瑚色の眼の双子は《窓口》と向かい合うように、ソファーに座る。
「來夢くんが来てるということは、原因とか何かしら解ったのかしらね?」
「完全に原因が解ったわけじゃないんだが・・・少しだけ進展はあったんです」
「進展・・・?」
「夢から帰還した人が出たんだよ」
話を聞くと、彼らの姉が被害者の夢に干渉して、意識を戻すことに成功したのだという。亜夢を含めた兄妹達はみんな夢魔である。ただ少し血縁関係は複雑化してはいるが。
──夢魔には大きく分けて三種類の種族がある。
一つは淫魔と呼ばれるサキュバスとインキュバス。
もう一つは悪夢を操るナイトメア。
最後は種族名のないその他だ。夢を喰うバクとかがここに入る。
双子達の姉の愛夢は純粋なサキュバスで、他人の夢を自由に行き来しするのはもちろんのこと、強力な魅了の能力を持っている。
「それで何か、わかったんでしょう?」
「被害者の証言なんですが、『夢の中で誰かに呼ばれた』と言ってたみたいですね」
「だとすれば」
「夢魔が関係してるっていうのは間違いない」
それだけでも解れば何かしら解決する手段は考えられるだろう。
「それと《窓口》さん」
「どうしたのかな?」
「最近はこの異変も、巻き込まれてる被害者が限定されてるんだ」
どうも、最近この異変に巻き込まれているのは、小さな子ども達らしい。最初の頃は大人も子供も性別も、関係なく巻き込まれていたのだが。愛夢が干渉して連れ戻せたのは皆、大人だったらしい。
「最近は子どもを狙ってるってことですか?」
「あぁ、それで大人は必要ないと思ったのか、解放されてる?みたいなんだ」
「弟と妹は外から、兄もその子ども達を夢の中から探してるみたいなんですが」
「夢の中も広いからねぇ・・・」
人が見る夢の数だけ夢の世界がある。そして日々、夢は創造されては覚醒とともに壊れていく。夢の中から子ども達を見つけるのは困難だろう。
✡
──夢の中。名もなき小さな夢は子ども達を呼ぶ。
気付いたら、その小さな夢は独りぼっちだった。
一緒に遊んでくれる友達が欲しいな。
夢を見ている間だけのつかの間の友達。
ずっと一緒にいたいのに。
そこで小さな夢は考えた。
──夢を見ている間しかいられないなら、ずっと夢の中に閉じ込めてしまえばいいと。




