夢から呼ぶ声
──《窓口》は街を歩いていた。
ここは『箱庭島』の中心にある『夢現の街』という街。この街には五つの大きな家がある。
街の北西には《夢宮家》
北東には《現原家》
南西には《詩方家》
南には《音無家》
南東には《色神家》
現原、詩方、色神、音無は元々は夢宮の分家筋で、それぞれ独自の力を持っている。なぜ、こんな親戚が密集してる街を《窓口》が歩いているのかというと、夢宮の屋敷へと向かっているのである。今回起きた異変のことで、彼女自身はあまり気は乗らないが、詳しく話を聞きにいくのである。街の南東の外れには『夢ヶ丘』と呼ばれる見晴らしの良い小高い丘があり、その丘の上に建つ一軒の洋館に彼女は住んでいる。その丘から街へ伸びる緩やかな一本の道。丘を下り、街へと入っていく。この街は夢と現が交わりあい共存する街と言われており、通行人の中には角や翼がある者や、人型であったり、見ただけでは人と何も変わらない妖魔などが、普通に人間と共に歩いていたりと、ちょっとしたゲームの世界のようだ。
街の中心部を抜け、大通りを進む。この街は中心部から五本の大きな道路が放射状に伸びている。そのうちの北西に伸びる大通りを進んでいくと夢宮の屋敷へ迷わずに行ける。本来ならば、夢宮家までは空間移動の魔法や空間を繋ぐ鍵を使えば、一瞬で移動出来るのだが、久しぶりの島での外出だからと彼女は一人でのんびりと歩いていた。
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レンガの塀で囲われた夢宮家の屋敷。恐らく、この街では一番大きい屋敷である。門の前に立ち、チャイムを鳴らす。その門が開くと、その先の足元に一匹の真っ白な猫がいた。全身が純白の毛に水色の眼の猫。その眼は早朝の空のように澄んでいる。その猫は丁寧に《窓口》にお辞儀をして出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、《窓口》さん」
「こんにちは真朝ちゃん、あの人は家にいるかしら?」
「ご主人様は中でお待ちです」
真朝と呼ばれた白猫は《窓口》のところにいる真夜の姉だ。その毛の色は正反対だが。真朝の後について庭を進む。庭には色々な花が咲き誇っていた。
「どうぞお入りください」
「お邪魔します」
玄関のドアを開けてすぐはロビーのようになっている。ロビーの右側を少し進んだところに、この家に応接室がある。
「ご主人様、《窓口》さんがいらっしゃいました」
真朝が声をかけると部屋の中から「どうぞ」と返事がある。《窓口》はドアを開けて部屋の中に進む。
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「いやぁ、久しぶりだね・・・珍しく遅かったんじゃないかい?」
「お久しぶりです」
「そんなに堅くならなくてもいいよ、まぁそこに座って」
応接室には一人の青年がいた。濡羽色の髪に鈍色の眼の青年。名を夢宮 望という。彼は、真朝の主人であり、そして《窓口》の親戚であり上司だ。
「しぃ、今日は空間移動の魔法とか鍵は使わなかったのかい?」
「たまには歩くのも良いでしょう?・・・それにしても、仕事の話をするというのに、その呼び方をされるのですね」
しぃ、というのは《窓口》の幼少の頃からの呼び名。今では仕事上で、そう呼ばれるのは稀だが。
「別に他に誰もいないし、いいじゃないか」
「まぁ、確かにいいんですけど」
「で、今日はどうしたのかな?しぃ」
「今回の異変というか事件についてです」
「あぁ、護から聞いたんだね?」
「なんでまた貴方から?」
「実はね《本間》から相談があったんだよ」
街の北側には森に囲まれた『夢現神社』と呼ばれる《夢神様》を祀る神社がある。本間の家はその神社の管理を任された家でもある。
「なんでも今回の異変で、神社の方にも相談にくる人達が増えてるみたいでね」
そして一度、一息おいて話を続ける。
「神社の狐達からそういう連絡と、しぃのところの夢魔の兄妹達にも話を聞いてね」
《窓口》のところの夢魔というのは亜夢のことだろう。
「こちらも事態を重くみて、しぃにも協力要請した次第だよ」
「そういうことでしたか」
「巫女としては神社からの依頼なのだから、動かないわけにはいかないだろう?」
「そうですね」
「まぁ、解決さえできれば、しぃの好き勝手に何をやっても構わないからね」
「・・・わかりました」
望との話を終えて《窓口》は部屋を出る。ドアが閉まる前に「いい報告を期待してるよ」と彼の言葉が聞こえた。
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──行かないで。寂しいんだ。
──お願い。ずっとここにいて。
夢の中で誰かが呼ぶ声がする。遠いようで近い、近いようで遠い声は今日も誰かの夢の中で誰かを呼び続ける。




