代償は秘密
真夜中の学校。廊下の窓からは月の光が射し込んでいる。凜と華憐が『彼女』に会うために、教室を目指していた。少し離れて護も二人についてくる。
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──華憐は、しばらく悩んだ末に答えを出した。
「わたしは・・・『彼女』と話をしたいです、例えそれがとても危険だとしても」
あの応接室で《窓口》が提示した解決案。華憐は『彼女』と接触することを選んだ。
「華憐・・・」
「その選択でいいんですね?後悔はしませんか?」
「多分、わたしは違う選択をした方が、きっと後悔します」
「・・・わかりました」
そういうと《窓口》は一旦部屋を出ていく。すぐに戻ってきた彼女の手には、三枚の紙。それを護に渡す。
「護くん、はい、これ」
「これは・・・御札?」
「二人に何かあったら、キミも困るでしょう?だから念のために、二人を守ってあげられるように、ね?」
「お前は俺に、コレが使えると思うのか?」
「大丈夫ですよ、ちゃんと『護くんでも使える』御札だから」
ニッコリ笑って《窓口》は話を続ける。
「あとは鍵、ちゃんと持ってますよね?」
「あぁ、あるよ」
護はポケットから金色のクローバーの鍵を出す。それを確認して《窓口》は二人に言う。
「それでは二人とも、今日の夜、護くんと教室に行ってください」
「そしたら、会えるんですか?」
「確実に会えると思います、鍵は彼が持ってますから心配ないかと」
「え?刑事さんの鍵で開くんですか?」
「一応、これでも彼が持っているのは魔法の鍵ですからね・・・大丈夫ですよ」
そういうやりとりを終え、一旦、家に帰った二人は夜中にこっそり家を抜け出して学校へ向かった。校門にはすでに護の姿があった。
「それじゃ、行きますか」
鍵は本当に、護の持っていた金色の鍵で開いた。魔法の鍵だというのは、伊達じゃなかったらしい。いつものように、教室に向かう。月の光で少しは明るいが、夜中の学校というのはさすがに不気味だ。三人の靴音だけが廊下に響く。いつもは休み時間に生徒達が賑わう廊下。この静けさが余計に不気味さに拍車をかける。
三人は教室の後ろのドアで足を止めた。職員室から勝手に持ち出した鍵を使い、教室の鍵を開ける。カチャッと音が響く。ドアを開け、三人は中に入って、窓際の一番後ろの『彼女』の席を調べる。特に変わったところは何もない。ただ、相変わらず花が綺麗に飾られていた。
「他の席も、特に何もないね・・・?」
前の方も見たが『彼女』が何かをやった様子もなければ、姿もない。
──バンッ
「えっ?!」
三人はドアの方を見ると、入ってきたドアが閉まっていた。窓際。いつの間にか『彼女』の姿があった。『彼女』の姿と言っても、それは影の塊のような、ぼんやりとした人のような形をしている『モノ』で、本当にそれが『彼女』なのかも判りづらい『モノ』だった。
「な、何?・・・あ、あれ・・・?!」
二人とも『ソレ』を見て言葉を失う。そりゃあ、普通はそういう反応をするものだよなと護は思う。二人は自分と違って、こういった『モノ』を生で見たことは、今まで一度もないだろうから。人のような『ソレ』はユラリと動く。二人は足がすくんで身動きがとれない。これは絶対に説得とか話とかができるような相手じゃない、と直感で護は悟る。そして、これで『少しだけ危険』なのか、と《窓口》の感性をも疑った。それと同時に、華憐が四つ目を選ばなくてよかった、とも思った。
──ヒュンッと空気を切る音。
「華憐、危ないっ!!」
華憐に向かって飛んできた物を、凜が間一髪のところで助ける。タンッと音を立てて、何かが壁に突き刺さった。目を向けると、それはコンパスだった。『彼女らしきモノ』の方を見ると、ハサミやら画ビョウやらカッターやら、様々な文房具が『ソレ』の周りに浮いているではないか。
「全く、文房具もこうなると凶器だな?」
護は《窓口》から渡された札を一枚取り出す。それと同時に一斉に文房具が三人に向かって飛んでくる。この札の使い方は正直、彼女から何も聞いてはいない。いや、正確には聞いたものの、彼女からは「大丈夫、使い方なんてあってないようなものよ」と、なんだかよく解らないことを言われたのだ。ダメ元だが、護は二人の前に立ち、右手に持った札を「二人を護れ」と強く願いながら飛んでくる文房具に対して向ける。確か、何かあった時の彼女は、こうしていた気がする。その時は何か呪文だったかを詠唱していたはずなのだが、すぐには思い出せない。札の効果なのかはわからないが、文房具は突如、勢いをなくし床に落ちた。すかさず護はもう一枚取り出すと『ソレ』に向かって投げた。
「文房具の使い方を、ちゃんと覚えてから使えっての!」
『彼女』の動きが止まる。投げた札が光の矢に変わり『彼女』を貫く。
──ア゛ァァァッ!!
うめき声とも悲鳴とも取れるような絶叫が教室中に響く。
「・・・ごめんなさい」
護の後ろで華憐が静かに口を開く。
「もっと・・・わたしが『貴女』の話を聞いてあげられてたら、助けてあげられていたらよかったのにね?わたしじゃなくてもそれが誰かでも」
「華憐・・・」
「そうしたら、こうはならなかったかもしれないのに・・・死ななくても済んだかもしれないのに・・・でも、それを考えてももう遅いのは、みんなもわかってるの」
『彼女』と思われる『ソレ』は何も答えない。
「で、どうする?」
「わたしは・・・もう、こんなことをしてほしくない・・・これ以上の事はきっと誰も望まないし、あの子もわかってるよ」
「だから・・・お願い!もうやめさせて!」
その言葉に護はわかったと頷いて、最後の一枚の札を矢が刺さった『モノ』に投げた。札から光が溢れて『ソレ』を包む。そして光と共に『ソレ』が消えていく。完全に消えた後、まるで何事もなかったかのように、教室に静寂が戻った。
「お、終わった、の・・・?」
「あぁ・・・終わったよ、恐らくこれで大丈夫だろう」
「はぁー・・・よかった・・・」
──こうして『彼女』による悪夢は人知れず終わりを告げた。




