矯正する代償
──玲は今まで自分が『彼女』に、いや、それだけでなく『彼女』以外の人にもしてきたことを思い出す。
それが今では(恐らく)『彼女』が玲に同じことをしているのだ。最初は『彼女』の持ち物を隠したりしていた。最初の内は、からかっていたつもりだった。それと同じように玲の持ち物も隠された。そして周りには黙っていたが、机に画ビョウが仕込まれていたり、カミソリの刃があったりもした。ノートには赤いペンで(読めないが)びっしりと書かれた文字で埋められていて、それが『彼女』が死ぬまで受けていた仕打ちが、どれ程のモノだったのかを物語っていて、今まで自分がやってきたことの罪の重さを思い知らされたのだ。多分、自分は『彼女』に許されることはない。それはきっとこれからも、ずっと。
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真夜はただ歩いていた。町中の『不幸』を集めるために。たとえ『彼女』の『願い』が間違って暴走しても、不幸な人が誰も出ないように。普段なら溜めた『不幸』は誰かに押し付けている。だから真夜は《不幸を招く黒猫》と呼ばれる。時々、押し付ける為に意図的に集めることもあるのだが。今回のように集めることも珍しくないが、さすがにもう溜め込むのはキツいだろう。さて、誰に押し付けるか・・・。真夜は他者の『不幸』を目視出来る。なんというか、黒いモヤモヤしたモノが視えるのだ。とりあえず少しずつ影響が出ないように、押し付けても大丈夫そうな人や物を探す。
──これらは今の主人である《窓口》と出会ってからできるようになった。だからこそ、真夜は彼女の仕え魔になったのだが。
人も物も不幸の度合いが多いと、最悪の場合、死んだり壊れたりする。ある意味、真夜は意図的に災害や事故を引き起こせると言ってもいいだろう。
「さてと、どうしたものかな・・・」
悪人に押し付けるのが一番なのだが、この町に悪人というのはそうそういない。仕方がないので、その辺に転がってる石に押し付けることにした。器用に前肢で石を拾い、チャームと石をくっつける。その瞬間、石は粉々に砕け散った。それを何度か繰り返す。いつの間にか月のチャームは元の蒼く澄んだ色に戻っていた。これできっと大丈夫と、真夜は家に帰ることにした。
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誰もいない校庭に生える桜の木。どこからか声がぼんやり響く。
──もう、こうなったらどうしようもないんだ。これがわたしの望んだことだから。
──・・・。
──やっぱり、あの子は彼女の所に行ったんだね?
──それでも、わたしはもう戻れない。戻らない。
──だから、わたしは今もここにいる。きっとこれからも、永遠に。
──そう。ずっと。
──これがわたしの望んだこと。それがたとえ意味のない復讐だと言われても。
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凜と華憐は公園のベンチに並んで座っていた。今日は護との約束で《窓口》のところへ行くために、待ち合わせ場所としてこの公園にいた。
「すまない、少し遅れたな」
護がやってくる。今日も真夜と一緒らしい。いつの間にか、首もとに下がるチャームは元の蒼く澄んだ色に戻っていた。
「さて、アイツの所に行こうか」
またあの長い路地裏を歩くのか、と二人は少しだけ思ったのだが。護がポケットから鍵を一つ取り出す。金色の葉がハートの三つ葉のクローバーの形の鍵だ。
「・・・あれ?・・・真夜ちゃん、悪いな、頼むよ」
護は何かしようとしたものの、何もおきない。仕方ないと護の言葉に真夜は頷いて鍵を咥える。その瞬間、目の前に扉が現れる。
「?!」
二人はあまりの驚きに何も言えなかった。一瞬、何があったのか解らなかったが、とりあえず解ったのは今、扉が二人の目の前にあるということ。
「あの・・・真夜ちゃん、一体、何をしたんですか?」
「あぁ、ただ繋いでもらったんだ、この扉の向こうに《窓口》がいる」
『繋いだ』の意味は二人にはよくわからないが、護が扉を開ける。その言葉通り、扉の向こうにはあの応接室があった。
「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」
《窓口》が三人を招き入れる。テーブルの上には、すでに五人分のティーカップ。三人の目の前には彼女とネロが座る。
「さっそくですが」
《窓口》は紅茶を少し飲んでから、話を切り出した。
「二人は『彼女』の凶暴化の事を多分、そこの彼から聞いているとは思いますけれど」
その言葉に二人は頷く。
「急に凶暴化したように見えますけれど、実際はもう少し前からですね・・・多分、起きていた変化が緩やかで、誰も気付いていなかっただけで」
「え?!」
「それを調べるのに、お前はこの間、あの町を一人で歩いてたのか?」
「色々な人に聞いて回ったところ、何人かは『彼女』の姿を見たという人もいましたからね」
《窓口》は少し間を置く。何か考えているようだ。
「本当ならば、当事者から『彼女』と話をしてもらえるのが手っ取り早いんですがね・・・今はそれが難しくなりました」
「それは、どういうことですか?」
「それをすると、むしろ最悪な事態を考える事になるかと」
「じゃあ・・・どうするんですか?」
「解決方法はいくつか」
《窓口》が右手の指を一本伸ばす。
「まず一つ目、わたし自身が『彼女』を祓う」
「そんなことって出来るんですか?」
「できますよ?ただし『彼女』の意志に関係なく祓うので、かなり強引な方法になりますね」
そして、さらに彼女は指を伸ばす。
「二つ目、華憐さんから説得してみる・・・これは少しだけ危険ですが、当事者に話を聞いてもらうよりかは幾分かマシですかね?」
三本目を伸ばして《窓口》はチラッと護を見る。
「そして三つ目、そこの護くんになんとかしてもらう」
「俺?!最終的には俺になのかよ!しかも、なんとかってなんだよ?!なんとかって?!」
「その方法はキミに任せますから、頑張って」
ニッコリ笑って《窓口》はさらに指を立てる。
「さらに四つ目、当事者には悪いのですが・・・加害者だった当事者が死を覚悟で『彼女』に謝罪か、『彼女』の気が済むまで耐えてもらう・・・トラウマになるかもしれませんが一番手っ取り早い方法、もしくは時間的にみても楽です」
「むしろ、当事者を死なせてくれないかもしれないですよ?主」
「最後の酷くないか?」
護の意見はもっともだ。だが、彼女はそれに対して静かに、語るように反論する。
「確かに、わたし自身も最後のは言っていて我ながら酷い話だなぁと思いますよ、でもね?」
悲しげな表情を浮かべながらも《窓口》は言葉を続けた。
「それは当事者が自分で蒔いた種なんですよね?」
確かに、言われてみたら今は被害者かもしれないが、全ては今まで本人が『彼女』に対してやってきたことなのだ。それが返ってきているだけ、因果応報とはまさにこの事なのだろう。
「だからって、それは・・・」
「自業自得ですが、きっと自分が犯した過ちは充分に解ったと思いますよ」
確かに周りから見ていても、当事者は相当、精神的に追い詰められているのがわかる。いつも俯いていて、この騒動があってからは眠れないのか、顔色も悪い。
「だからこそ『彼女』に直接謝罪をしてもらうのが、手っ取り早いんですよ」
それでも《窓口》は真っ直ぐに華憐を見ていた。華憐が出す答えを待っている。
「今回どの方法にするかを決めるのは、華憐さん、相談者である貴女です」
「わたしは・・・」
──歪んだ理想に隠された真実。望んだ結末。それは本当に現実なのだろうか?




