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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
繰り返し
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繰り返し、巻き戻す

朝。目を覚ましたネロは、若干、気だるそうに起き上がる。5月に入ると、気温だけならもう夏だ。正直、ネロは夏は苦手。今はまだ平気だが、これから先はあまり外に出歩けなくなる。


「皆さん、理解してくれてるのがありがたいですがね」


大きく伸びて、ネロは着替え始めた。



  ✡



ネロは少しだけ自分の仕事をし、部屋を出てリビングの方へ。キッチンではすでに亜夢が朝食の準備をしていた。


「おはようございます、ネロくん」

「亜夢さん、おはようございます」

「体調はどうです?そろそろ吸血鬼には辛い季節ですけど」

「今のところは大丈夫ですよ」

「あまり無理はしないでね、ご主人も心配しますから」


それは十分承知してると、苦笑するしかなかった。今年の夏も昼夜逆転の生活になりそうです。元々、吸血鬼は夜行性ではあるが。


「そういや、明日はリオさんの誕生日ですか」

「プレゼント、一応、本をあげようってことで、用意はしてるんですけどね」

「僕も何か用意しておくべきでしたかね?」

「リオちゃんにしろ、ご主人にしろ、あたし達と違って、あまり物欲はないみたいですからね」

「亜夢さんの場合は、殆んどメイド服ではありませんか」


ふと、カレンダーを見ると明日は5月5日。ちゃんとマークが付いている。リオネットの誕生日とはなっているが、正確な誕生日はわからない。とりあえず「リオネット」と主人である《窓口》が名付けた日が、たまたま5月5日だったってだけで。だから、リオネットの正確な年齢もわからない。ただ、身体的な年齢は3歳くらい、らしい。


「もしかしたら、実際はあたし達より遥かに年上の可能性もありますよね」

「正確な年齢がわからない以上、そういうこともあり得ますね」


調べる気になれば、リオネットの正確な年齢などは割り出せるようだが、それをすると後々厄介な事になりそうなので、リオネット自身も名付けられた日を誕生日でいいと望んだようだ。


「リオちゃんは、今の姿に生まれ変わったって認識みたいですからね」

「間違ってはいないですね」


能力や性質こそ変わってはいないものの、今までの自分とは違うのだそうだ。亜夢の手伝いをしながら、ネロはリオネットと初めて会った時の事を思い出す。


「まさか、あんなモノが存在するなんて思いませんでしたよね」

「まさに人工的に創られた混沌、でしたね」


それにしても、よくあの器で収まったモノだなと、ネロはふとそんな事を思った。



  ✡



時刻は8時。きっと主人はまだ寝ているだろうと、玄関近くにある《窓口》の部屋へ。ドアをノックしても返事がないので、そのまま中に入る。特に今日は彼女も人に会う予定はないので、別にのんびりしていてもいいのだが。


「失礼します」


薄暗い部屋。やはり《窓口》は寝ている。カーテンと窓を開けると一気に部屋が明るくなる。


「主、朝ですよ」

「⋯⋯う⋯⋯ん」


相変わらず、彼女は寝起きが悪い。それは強力過ぎる魔力を持っているからなのか、はたまた、別の理由があるのか。


「起きてください、朝ですよ」

「んぅ⋯⋯もう少し、だけ⋯⋯」

「皆さん、もう起きてるんですから」


窓から顔を背け、枕を抱き抱えるようにしている。ネロは仕方ないと、耳元で小さく、確実に起きるだろうという言葉を囁いた。


「あんまり僕の前で無防備に寝ていると、その内、襲っちゃいますよ?」

「⋯⋯っ?!」

「それでもいいんですかね?」


ネロが本気ではないのはわかっているだろうが、慌てて《窓口》は振り返って身体を起こす。その反応がとても面白い。


「おはようございます、体調はいかがですか?」

「お、おはよう⋯⋯ネロくん、体調は⋯⋯いつも通りです」

「それは良かったです」


彼女の左腕には、護から誕生日に貰ったというブレスレット。どうやら寝る時や、人に会わない時はブレスレットを着けるようにしたらしい。


「髪飾りでは、寝る時は邪魔になりますから」

「そうでしょうね」

「でも、これなら大丈夫です」


にっこり笑っているが、まだ彼女の表情は眠そうだ。


「着替えが終わりましたら、こちらに来てくださいね?朝食の準備はできてますから」

「はい、わかりました」



  ✡



午後になって、ネロは少しだけ休憩でもしようかと部屋を出る。自分の仕事は基本的にデスクワークだ。夜中にある程度は終わらせてあるので、昼間はのんびりと仕事をしているし、空いた時間に寝ている事もあるが、今日はあまり外を出歩きたくない、というのもあって。


「何か冷蔵庫にあったかな⋯⋯?」


ぼんやりと、そんな事を思い出しながら歩いていると、リオネットが目の前を歩いてくる。リオネットは普段は独り、部屋に籠って静かに本を読んでいる。リオネットが歩いてきた方向からいうと、智志の部屋に行っていたのだろうか。


「珍しいですね、リオさんが部屋を出ているなんて」

「ネロにぃは⋯⋯明日は何の日か、知ってる?」

「それ、他の同居人にも聞いて回っているんですか?」

「質問したの、ボク」


リオネットの伏し目がちな、主人と同じ黒い眼でジッと見上げられ、ネロは少しだけ困ってしまう。これにはネロも、ただ苦笑するしかない。ネロはリオネットと視線を合わせるようにしゃがみ、頭を優しく撫でてあげる。


「明日は、可愛いお人形さんの誕生日、僕が忘れてると思ったんですか?リオさん」

「ううん、ネロにぃは⋯⋯絶対に覚えてる、忘れない⋯⋯それは、知ってる」

「皆さんもちゃんと覚えてますよ?だから、プレゼントは心配しなくても、用意してますよ」

「そっか⋯⋯」


リオネットは、特にそういう意味で出歩いている訳ではないらしい。とりあえず出歩く理由として『明日は何の日か』を聞いている、との事。別に理由がないと、家の中を出歩く事が出来ないって事はないはずなのだが。


「⋯⋯でも、亜夢ねぇ達にも⋯⋯聞いてみる」

「今日はそういう気分なんですね」

「うん⋯⋯」


そう言って、リオネットは玄関の方へ歩いていった。


「主にも聞きに行くのか⋯⋯まぁ、いつも引きこもってたら窮屈だろうしな」


リオネットと別れて、独り、ネロはキッチンに向かった。



  ✡



夕方。ネロの部屋のドアをノックする音。開けると、リビングでリオネットとテレビを観ていたはずの《窓口》がいた。


「主、どうされました?」

「あの⋯⋯さっきニュースを観ていたら、男子高校生がビルの建設現場のクレーン車が風に煽られて、鉄骨の下敷きになったらしいのです」

「まさか、智志くん達が?」

「あ、違うの、智志くん達は、その近くの交差点を歩いていただけらしいの」


智志達はリオネットの誕生プレゼントを買いに、出掛けていたようだ。だが、いきなりそういう事を言われたら、誰だって最悪な方で想像する。


「多分、ちょっと帰りが遅くなりそうなんですよね」

「心配しなくても、智志くん達だって妖魔の子なんですよ?主」

「それはそうなんですけど⋯⋯」


智志達が心配なのは解る。だが、彼女はそれだけではないようで。少しだけ、真剣な表情を浮かべている。こういう時は必ず、何か異変が起きている。


「ネロくん」

「何でしょう?」

「キミは⋯⋯いえ、何でもないです」

「そうですか」

「えっと、とりあえずはそれだけです」


《窓口》は他に何か言いたそうではあったが、すぐに笑顔でリビングの方へ戻っていった。


「⋯⋯どうしたんだろう?」


何か違和感は感じるが、その原因がわからないネロは、そのままドアを閉めた。



  ✡



夕食は基本的に《窓口》と同居人達は一緒にとる。そこで智志と水月はネロ達が気になっていた事を話し始めた。


「まったく、事故に遭遇するとは思わなかったぜ」

「それは大変でしたね、二人共」

「買い物中に一体、何があったんですか?智志くん」

「ちょうどオレ達が横断歩道を渡った時に、すれ違ったカップルがいてさ」

「彼女の方は可哀想だよね、目の前で彼氏が鉄骨の下敷きになったんだから」


智志と水月はあまり詳しく内容を話したくはないようだが、状況は容易に想像できる。


「あら、彼女の方は無事だったの?」

「彼女の方は突き飛ばされたみたいなんだよね」

「でも、それでちょっとかすり傷だっけ?」

「うーん⋯⋯つまり、その彼氏さんが彼女さんを庇ったってことなんですかねぇ?ご主人」


鏡花は首を傾げて、二人の話を聞いていた《窓口》に話を振る。特にそれに興味はなさそうで。


「そういう事でしょうね」

「姉ちゃん、口にモノ入れたまま喋るのは、行儀悪いよ」

「あはっ、ごめん水月」


水月の注意を受けて、鏡花はおどけた表情を見せる。これではどっちが子どもかわからない。


「ごちそうさま、でした」


リオネットが食べ終わった食器を流しに持っていく。それに合わせるように、亜夢も空いた食器を持っていった。



  ✡



夜。ネロは気になっていた事を聞きに《窓口》の部屋に向かった。ドアをノックすると返事がある。中に入ると、読書中だったようで。


「主、少しだけいいですか?」

「大丈夫ですよ」

「夕方、僕に何を言いかけたのかを伺おうと思いまして」

「その事ですか⋯⋯うーん⋯⋯」


ネロの問いに《窓口》は難しいという表情。どうやら、ネロ達のわからない事らしい。


「もう少しだけ⋯⋯様子をみたいんですよね⋯⋯」

「何の様子ですか?」

「⋯⋯何でもないです、キミは気にしなくて大丈夫ですよ」


《窓口》は本を閉じて、ベッドに腰掛ける。どうも何かを感じ取っているみたいだが、ネロには全くわからない。そのネロとのギャップが、彼女が説明できない理由なのかもしれないが。


「とりあえず、明日⋯⋯ね」

「それではおやすみなさいませ、我らが主」

「うん、おやすみなさい」


違和感を抱きながらも、ネロは《窓口》の部屋を出た。

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