日々の繰り返し
五月に入り、GW真っ只中。特別、何処かに出掛けるとかはないが、部屋のカレンダーを見て、リオネットは嬉しそうに、はにかんだ。まぁ、ほぼ無表情に近いが。
「⋯⋯明日、楽しみ」
そして珍しく、部屋の外へと出ていった。まず、向かった先は自身の部屋に近い智志の部屋。ノックして入ると、水月と勉強中だったらしい。
「あれ?リオ、どうしたんだ?」
「智志にぃ、水月にぃ⋯⋯明日は、何の日か知ってる?」
リオネットの言葉に、二人は同時にカレンダーに視線を移す。
「明日は⋯⋯5月5日か」
「こどもの日だね」
「うん、そうなんだけど⋯⋯」
その反応じゃないんだと言わんばかりの、リオネットの無表情。水月は正直、どういう意味かわかってないらしい。まぁ、それは仕方ない。これ以上は多分、無意味だと判断したリオネットは部屋を出た。その反応に若干、水月は不安に思う。
「智志⋯⋯俺、リオちゃんに何か悪いこと言ったかな?」
「いや、多分、水月の事は気にしてないんとは思うけど⋯⋯明日はこどもの日であると同時に、リオの誕生日なんだよ」
「そうだったのか、やっぱり悪いことしたな」
「リオにプレゼント、買いに行くか?」
「そうだね」
参考書に視線を戻した二人は、一度、その参考書とノートを閉じた。
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リオネットは部屋を出て、廊下を歩く。階段を下りて、ダイニングキッチンを通ると、リビングに行ける。その途中でネロに会った。
「珍しいですね、リオさんが部屋を出ているなんて」
「ネロにぃは⋯⋯明日は何の日か、知ってる?」
「それ、他の同居人にも聞いて回っているんですか?」
「質問したの、ボク」
ジッとリオネットに見上げられて、ネロは少しだけ困ったように笑う。そして、リオネットに視線を合わせるようにしゃがむと、優しくリオネットの頭を撫でた。
「明日は、可愛いお人形さんの誕生日、僕が忘れてると思ったんですか?リオさん」
「ううん、ネロにぃは⋯⋯絶対に覚えてる、忘れない⋯⋯それは、知ってる」
「皆さんも、ちゃんと覚えてますよ?だから、プレゼントは心配しなくても、用意してますよ」
「そっか⋯⋯」
別にプレゼントの心配をしてた訳ではないが、なんとなく部屋の外へ出る理由として、明日は何の日かを聞いて回る事にしたのだ。特に理由がないなら部屋の外へ出るなと、主人達には言われていないのだけれど。
「⋯⋯でも、亜夢ねぇ達にも⋯⋯聞いてみる」
「今日はそういう気分なんですね」
「うん⋯⋯」
ネロと別れて玄関の方へ。玄関の近くには、主人である《窓口》の部屋がある。少しだけドアが開いているので、ちょっとだけ覗いてみる。
「そこで見てないで、中にどうぞ」
「え?⋯⋯あ、うん」
中にいた部屋の主は、リオネットが来ることが最初からわかっていたようだ。
「マスター⋯⋯」
「明日は何の日か、みんなに聞いているのでしょう?」
「⋯⋯うん」
「そんな事しなくても、自由に出歩いていいのに」
「⋯⋯それは、そうなんだけど」
それは他の仕え魔達に悪いような気がするそうで。ただ、リオネットは、身長的にやれる事が限られてくるから仕方がない。それはわかっているし。
「⋯⋯部屋、戻る」
「そう⋯⋯それならリオ、今ならリビングに亜夢ちゃんと鏡花がいるんじゃないかしら?」
「ありがとう、マスター」
部屋を出て、再びリビングの方へ。《窓口》の言う通り、リビングには亜夢と鏡花がいた。
「あら、リオ」
「リオちゃんも紅茶飲む?」
「うん、貰う」
亜夢がリオ用のティーカップを持ってくる。ついでにもう一つ。
「ご主人も呼びましょうか?少しは休憩した方がいいでしょうし」
「そうですねぇ」
亜夢が《窓口》の部屋に向かったので、鏡花がカップに紅茶を注ぐ。すぐに亜夢が《窓口》を連れてきた。
「少しは休憩しましょう?ご主人♪」
「そうですね」
その時、ちょうど智志と水月が階段を下りてきた。今から何処かに出掛けるようだ。
「姉さん、ちょっと買い物行ってくる」
「はい、あまり遅くならないようにね」
「いくら、戦闘向きじゃない種族だっていっても、覚とドッペルゲンガーだぜ?大丈夫だよ」
「でも、気を付けて」
「行ってきます」
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《窓口》とリオネットは、のんびりと夕方のニュースを観ていた。
『──ここで事故のニュースです。先程『夢現の街』の交差点で、信号無視した大型トラックに、男子高校生が撥ねられる事故がありました。』
「あら、智志くん達、大丈夫かしら?」
「轢かれたのが⋯⋯智志にぃ達じゃないと、いいんだけど」
いくら、智志達が人間ではないとはいえ、さすがに車に撥ねられて無事ではいられないだろう。多少の怪我ならば、すぐに治りそうではあるが。
『──なお、男子高校生は病院に搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました。』
《窓口》は心配そうに携帯をポケットから出して、かけ始める。多分、相手は智志か水月だろう。
「もしもし、智志くん?」
智志から応答があったみたいなので、事故にあったのは智志達ではないようだ。リオネットからでは、智志の話の内容は聞こえない。
「先程、事故のニュースがありまして⋯⋯うん⋯⋯あぁ、そうでしたか」
どうやら、智志達はそれを目撃していた方だったようだ。救急車を呼んだのも智志達らしい。
「それで⋯⋯そう⋯⋯きっと、事故の詳細は聞かれるだろうから、帰りが遅くなるかしら?⋯⋯わかりました」
必用な事だけ伝えて、智志は電話を切ったようだ。ポケットに《窓口》は携帯を戻す。とりあえず、無事で良かった。そう思い、再びリオネットはテレビに視線を戻す。
『──警察は目撃者の証言などから、事故の詳しい状況を調べるとともに、トラックの運転手の回復を待って、取り調べを行うとのことです。』
「さて、亜夢ちゃん達に伝えてきますかね⋯⋯リオはどうします?」
「⋯⋯もう少し、こっちいる」
「そう」
《窓口》はすぐに亜夢達の部屋に向かった。リオネットはただ、テレビをぼんやりと眺めていた。
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夕飯を食べながら、リオネットは智志達の話を聞いていた。
「まったく、事故に遭遇するとは思わなかったぜ」
「それは大変でしたね、二人共」
「買い物中に一体、何があったんですか?智志くん」
「ちょうど、オレ達が横断歩道を渡りきった時に、すれ違ったカップルがいてさ」
「彼女の方は可哀想だよね、目の前で彼氏が轢かれたんだから」
食事中ともあって、あまり詳しくは智志も水月も言わないが、現場はとても凄惨な状態だったらしい。轢かれた被害者は即死だったようだ。
「あら、彼女の方は無事だったの?」
「彼女の方は彼氏に突き飛ばされたかで、歩道にいたんだよね」
「でも、それでちょっとかすり傷だっけ?」
「うーん⋯⋯つまり、その彼氏さんが、彼女さんを庇ったってことなんですかねぇ?ご主人」
鏡花は静かにご飯を食べていた《窓口》に話を振る。基本的に何時でも《窓口》は聞き役である。
「そういう事でしょうね」
「姉ちゃん、口にモノ入れたまま喋るのは、行儀悪いよ」
「あはっ、ごめん水月」
弟に注意される姉もどうなのかと、リオネットはそう思う。それは今に始まった事ではないので、別にいいが。
「ごちそうさま、でした」
リオネットは食べ終わって食器を流しに持っていく。そしてそのまま部屋に戻った。
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「ふわぁ⋯⋯もう、こんな時間」
そろそろ寝る時間だと、リオネットは読んでいた本をテーブルに置き、ベッドに潜り込む。
「プレゼント、楽しみ」
少しだけ期待しながら、リオネットは目を閉じた。




