変化したモノ、しないモノ
護と三月は、千晶と向かい合うように座っている。千里は工房の販売スペースの商品を、楽しそうに布で拭いている。どうやら店番とかは千里の担当らしい。
「ここにきたってことは《窓口》さん関連かい?」
「ああ、アイツに新しい髪飾りでもあげようかとも思ったんだけど⋯⋯」
「髪飾りだと服装によっては、似合わないだろう?それなら、違うモノを『魔封じの石』で作った方のがいいと思うんだが」
確かに《窓口》が巫女服を着ている時の、あの四つ葉の髪飾りは浮いている。それなら違和感のない髪飾りにするなり、ほかのモノが力を抑える枷になればいいのだが。
「それなら」
千晶が何か思い出したように、カウンターの下からブレスレットを一つ出す。小さく丸い石が数珠繋ぎになっているものだった。
「これはクズ石で、ボクが暇つぶしに作ったモノだけど」
クズ石と暇つぶし、とは言うものの、それなりに売ってるモノとはあまり変わらないように見える。
「こういうのであれば、石さえなんとかすれば作れるんじゃないか?護」
「そうだな⋯⋯後で探してみるか」
「そんな護くんに朗報、実は『魔封じの石』は、いくつかボクの方で持ってる」
「どこからそんなの持ってくるんだ?」
「内緒⋯⋯でも、ちゃんとしたルートからだから安心してくれ」
出所がわからないのに安心しろと言われても。まぁ、本人がちゃんとした所からだと言うなら、大丈夫なんだろうけども。護は思わず千晶に突っ込みたくなったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「大体、闇ルートなんかで出回っているのは、ここでは扱わないからね」
「へぇ⋯⋯?そうなのか」
「そういうのは曰く付きだったり、粗悪品だしね」
「曰く付き、か」
それは千晶にしてみれば、らしい。護も三月も、ただ、石を見ただけでは、その違いはわからない。
「そういう闇ルートを潰すのは、千晶くんはやらないのか?」
「そもそも、それは君達の仕事だろう?護くん」
「まぁ、それは⋯⋯そうだけど」
「⋯⋯《窓口》さんは嬉々として、そうした闇市を潰すのを趣味でやってるからね」
「え、それって趣味なの?」
「まぁ、他の相談員達に要請されてってのもあるんだろうけれどね⋯⋯結構、楽しそうに襲撃してるっぽいし?」
楽しそうにっていうのは、少し違うと思う。例え笑顔だったとしても、普段の笑顔とは絶対に違う。何と言うか、少しだけゾッとする感じがすると、護はぼんやりと思い出す。
「それが楽しそうに見えるなら、千晶くんの感覚がおかしいかアイツが少し狂ってるんじゃないかな」
「ボクは護くんと違って《窓口》さんの、表情の裏にある心理まで汲み取れないから」
「アイツの場合、多少はその場の雰囲気でわかるとは思うんだけど⋯⋯?」
笑顔でいるのは余裕があるからで、それは護が傍にいるときは、ずっと。そして決まって笑顔でこう言うのだ。
『大丈夫ですよ』
その言葉を《窓口》が言う時は、本当に大丈夫なのだから驚き。それは昔から変わらない。だからこそ、護はずっと頼りにしている。時々、とんでもないことを裏でしてるみたいだが。
「とりあえず、彼女へのプレゼントは、彼女の誕生日までに出来てればいいのかな?」
「え?⋯⋯ああ、うん」
「代金とかってどうすんだ?護」
「それならコレを探してきてくれないか?この探し物が今回の代金ってことで」
千晶が一枚のメモを提示する。いくつか石の名前らしいのが書いてある。そういえば相談員達は、よく物々交換で仕事の依頼をしたりしているらしい。それに護はよく助けられてる。ただ、難易度が高いのが困る。
「コレ全部、俺でも探せるやつなのか?」
「うん、これでも難易度はかなり低いはずだよ⋯⋯多分」
その『多分』はあまり信用できないんだよなぁ、と護は思いながらも、工房を後にした。
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「コレ、誕生日プレゼント」
「え、あ⋯⋯ありがとうございます、護くん」
《窓口》は突然、応接室を訪れた護に驚きながらも、手渡された小さな包みを受け取った。
「開けてもいいかしら?」
「開けてもらわなきゃ、何の為のお前へのプレゼントだよ?」
すっとぼけたような《窓口》の言葉に、若干、苦笑しつつも護は頷いた。
「あら、可愛い」
「それなら、服装に左右されないと思う」
小さな緑色の石の連なるブレスレット。小さな四つ葉のチャームが付いている。
「もしかして⋯⋯コレ、千晶くんに頼んだんですか?」
「ああ、本当は髪飾りを探してたんだけど⋯⋯それで千晶くんに相談に乗ってくれた」
「⋯⋯ということは、何か要求されませんでしたか?」
《窓口》は早速、左腕に着けていた。気に入ったようで何より。だが、千晶が護に何か要求してるのはお見通しらしい。それは《窓口》に請求する訳にはいかないので割愛。
「別に難しい事じゃない(らしい)から、心配すんな」
「そうですか⋯⋯?」
それにしても、髪飾りとブレスレットの効果は重複しないのだろうかと、護は少しだけ不安に思う。今、両方着けているのだが。
「んー⋯⋯重複しないみたいですよ、ただ古い方の効果がかき消されているっぽい⋯⋯?ブレスレットを付ける時は髪飾りを外しておいても、いつも通りです」
「そうか」
髪飾りを着けていない《窓口》というのも、少しだけ新鮮な感じがする。普段の姿を見慣れてるから、余計に。
「これなら、服装に合わせて髪飾りが着けられますからね」
「他にも髪飾りを持ってるのかよ」
「一応、他にもネロくん達から誕生日に貰った髪飾りはいくつか⋯⋯」
中々、貰っても事情が事情なので、大事にしまってあるようだ。それは仕方ないが。
「だからと言って、今の髪飾りを着けないってことは、ないのですよ?」
「俺は何も言ってねーだろ?」
「何か言いたげにしていたので」
「気のせいだろ、まったく⋯⋯」
本当にこういう事は変わらない。でも、実際は変わってるのかもしれない。それは小さな変化だから気付かないだけで。
「髪飾りと一緒に、大事にしますね」
「おぅ⋯⋯ただ、別にいつも持ち歩かなくたって、いいんだからな」
「せっかくキミから貰ったのに、大事にしないのはバチが当たるわ」
それでも《窓口》は嬉しそうに微笑んだ。
「その言葉は、髪飾りを渡したあの時と同じだな」
「同じ、ですが⋯⋯あの時とは違うんですよ」
「場所とモノが、か?」
「そうですね、でも、それだけじゃないわ」
「ん⋯⋯?どういう⋯⋯」
「ふふっ⋯⋯さて、どういうことかしらね?」
首を傾げた護を見て、少しだけ《窓口》は試すような表情で、応接室を出ていった。




