重なりあう変化
「そろそろお開き、かな?」
透の言葉に《窓口》は「そうですね」と笑って答える。周りを見ると、遙は漓洙や優が止めたにもかかわらず、すっかり酔い潰れているし、霊夜も満足げに幽に寄りかかって寝ている。
「ホント、遙は酒弱いなー」
「健、笑い事じゃないよ」
「だから止めたのに⋯⋯先輩、明日の仕事は本当に大丈夫なのかしら⋯⋯?」
「護くん⋯⋯これは鍵を使って、わたし達で送っていった方が良さそうですね」
「⋯⋯そうだな」
「悪いね《窓口》さん」
頭を下げる透に《窓口》と護はただ苦笑するしかなかった。
「まずは、峰岸くん達かしらね?」
「それなら俺が送るから、お前は影谷達を送って」
「わかりました、お願いします」
「遙ー、歩けるー?」
「こりゃ駄目だな、優、手伝え」
健が遙を背負う。それを確認すると、護は自分の鍵を取りだし、空間を繋いだ。とりあえず、友人達を無事に送り届け、神社の境内へと戻ると《窓口》が御神木の桜の木の下で、一人で酒をんでいた。片付けるのは仕え魔達がやってくれたようだ。
「あら、護くん」
「お前な、まだ飲み足りないのか?」
「飲み足りないというか、キミが思っている程、今日のわたしは飲んでいませんけど?」
言われてみれば《窓口》は飲んでるようで、霊夜達の話し相手になっていた気がする。実際、彼女はザル⋯⋯というか、底のないバケツだが。
「キミも飲みます?」
「少しだけ」
《窓口》は嬉しそうに護にコップを渡す。ちゃんと護の分を確保してる所を見ると、最初から飲ませる気でいたようだ。護はそれを受け取り、隣に座った。
「本当にガキの頃は、こんなことしてるとは思わねーよな」
「全くですね」
「そういや、もうすぐお前の誕生日じゃなかったか?」
「え?⋯⋯そうですね、覚えていたんですか?」
《窓口》はとても意外そうにしている。護が《窓口》の誕生日を聞いたのは、出会ってから暫く経った頃ではあるが。
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暫くの間、護は望同伴でこっそり《窓口》に会いに行っていた。望同伴だったのは、何かあったらってことだったらしい。
「ねぇ、詩音ちゃんは、外でみんなと遊んだりしないの?」
「わたし、あんまり外には行けないんです」
「どうして?」
「⋯⋯護くんは知らなくていいんですよ」
その時は、体が弱いのかな程度に考えていた。でも、それもあっての事か、親戚以外とも話をすることもなかったようで。そして、護が会っていたことが七海と八雲にバレた。事情を望が話したところ、特に叱られる事もなく、むしろ喜ばれた。
「護くん、これからもお嬢と仲良くしてあげてね」
「うん」
七海と八雲が部屋を出ていった後、護は何となく《窓口》に誕生日を聞いた。
「ねぇ、詩音ちゃんの誕生日っていつ?」
「誕生日⋯⋯?4月23日ですよ」
《窓口》は何故、護が誕生日を聞いたのか不思議だった。
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「⋯⋯そういえば小学校に入る前の年の、キミからの誕生日プレゼントが、この髪飾りでしたね」
「それからはずっと身に付けてるんだよな、今ではそうしてないと仕方ないんだけど」
「八雲が少しだけ手を加えましたからね、お陰でちょっとだけ外で、活動ができるようになりました」
少しだけ手を加えたと言っても、見た目には大して髪飾りには変化はない。ただ、髪飾りから下がる丸い飾りの素材が、石になったというだけで。
「最初はかなり気に入ってるんだなって思ったんだけど」
「あら、実際この髪飾りが一番気に入っているのは事実なんですよ?」
だからこそ《窓口》は髪飾りを自分の力を抑える枷にしてもらったのだ。きっとそうなっていなくても、彼女はいつも身に付けているだろう。
「わたしにとっては大切な髪飾りですからね、それにキミに貰った時に『大事にする』って言いましたし」
「そこまでするとは俺は思わなかったけど」
「わたしの初めての友人からのプレゼントですもの、大事にしないとバチが当たるわ」
「別に俺は、お前がその髪飾りを着けてなくても気にしねーよ」
そうは言いつつ、護は少しだけ嬉しかった。そして新しい髪飾りでもあげようと思う。彼女が新しいのを欲しがっているかは、別にして。
「お前は欲しいモノはないのか?」
「これといって⋯⋯欲しいモノはないですね」
「そうか」
そういえば、その気になれば《窓口》は欲しいモノを確実に、自分の能力に頼らないカタチで手に入れている。だけど元々、彼女にはそんなに物欲というモノはないようで。
「誕生日に何かくれるんですか?」
「考えておくよ」
「それでは、楽しみにしてますね」
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花見から数日後。護は街を歩いていた。何故か三月も一緒に。
「何で休日も、三月と一緒にいなきゃならないんだ」
「えー⋯⋯?たまたま、そこで会っただけじゃんか」
「何も俺についてくることはないだろ」
「護、酷いー」
護は《窓口》の誕生日プレゼントを選びに、色々と店を見て回ってるだけなのだが。ついてきても三月には退屈でしかないだろうに。
「別に退屈ではないけど?」
「⋯⋯そうかよ」
「それに、護は女の子の事は疎いじゃん?」
「さすがに、アイツの好みくらいは俺だって知ってるっての」
どうしても、護は三月と離れたいらしい。だが、三月はそんな事はお構い無しのようで。
「《窓口》さん、こういうのも似合いそうだよな」
「何でお前がノリノリで選んでんだよ」
「別にいいじゃん、たまには違う髪飾りとかも見てみたいし?」
「だからってお前の趣味嗜好で選ぶなよ、俺がアイツにあげるつもりで見てるのに」
護はとても迷惑だと思いながら、店を後にする。やっぱり三月はついてくるけど。
「次、どこに行くんだ?」
「ついてくんなよ、鬱陶しい」
「今のはかなりグサッとくるんですけどー?」
三月は泣き言を溢すが、相変わらずヘラヘラと笑っているので、そんなに堪えてないだろう。護は三月を無視して鍵を使った。空間を繋いだ先は石の街と謳われる『石切町』。ここは『箱庭島』の北東部にある山の麓にある町。この町の山を越えて西に行けば極寒の街の『氷上市』に着く。
「何でまた護はこの町に来たんだ?」
「とある人に会いに⋯⋯って、お前はまだついてくるのかよ」
「だって暇だしー?そんなに冷たくすんなよー」
町をしばらく歩き、とある工房にたどり着く。護は《窓口》に渡した四つ葉のヘアピンの作成依頼で一度、ここは訪れている。もちろん、ここには相談員の一人がいる。
「あら?珍しいお客様なの」
「こんにちは、千晶くんはいるかい?」
「千晶お兄ちゃんは、お姉ちゃん達と奥でお仕事してるの、呼んでくるの~」
「うん、悪いね」
青磁色の眼に、錫色の髪を右側で一つにまとめた少女は、パタパタと奥の作業場に走っていく。彼女は石坂 千里。彼女には千歳と千尋という姉、そして兄に千晶がいる。
しばらく待っていると、千里と一緒に青年が一人歩いてきた。鼈甲色の眼に千里と同じ色の髪を一つにまとめた彼が千晶。彼が相談員の一人だ。
「こんにちは、千晶くん」
「あぁ、護くんか⋯⋯突然どうしたんだい?服装を見る限り、仕事の用件ではないようだが」
どうも千晶達、というよりは相談員達は護の服装で仕事かどうかを判断してるらしい。あながち間違ってはいないが。
「いや、あの⋯⋯アイツの誕生日が近いから、さ」
「それでか、それなら特に大きな仕事もないし、何か希望があればすぐにでも作れるよ」
「本当ですか?それなら何か考えるか⋯⋯」
「ゆっくり考えてくれていいよ、こっちはあの姉さん二人に任せておけばどうにでもなるからさ」
「お兄ちゃん、またそんな事言ってると、千歳お姉ちゃん達に怒られるのー」
千里の言葉に、護は千晶は肩身が狭そうだと感じた。




