回想:偶然の重なり
──出会いは本当に偶然だった。年は二つ違うとは言うものの、近所に住んでいたので、護と望はよく遊んでいた。勿論、他にも近所の子も一緒に。
「ねぇ、望くんのお家でかくれんぼをしようよ」
誰かが言ったこの一言で、護達は夢宮の屋敷でかくれんぼをすることに。勿論、入ってはいけない部屋や行ってはいけない場所は、事前に望に教えてもらっていた。
「どこに隠れようかな⋯⋯」
今でも夢宮の屋敷は広くて迷いそうになるが、子供の頃は本当に広く感じた。キョロキョロと周りを見渡し、護は隠れられそうな場所を探していた。そこまでは良かったのだ。日が傾き、そろそろ家に帰ろうとした時。気が付けば、護は迷子になっていた。自分が今、屋敷のどこにいるのかわからない。
「どうしよう⋯⋯帰れない⋯⋯」
暫く歩いていたのだが、疲れてしまい、壁に寄りかかり座っていた。さらに護は、もしも誰も見付けてくれなかったらという不安で焦ってもいた。
「うぅ⋯⋯ぐすっ⋯⋯」
迷子になった小さい子供に、泣くなというのも無理な話だが、正直、泣いてもどうしようもないし、それはわかってる。それなのに嫌でも涙が出て来てしまう。ちょうどその時、近くの部屋のドアが開いた。
「っ?!」
出てきたのは、一人の少女。幼い時の《窓口》は分厚い本を抱え、今と変わらぬ(ただ長さは腰まであった)黒いストレートの髪に黒い眼で、護がいることに少しだけ驚いていた。リオネットのような無表情で。護は彼女をジッと見る。当時の望に妹はいなかったし、彼女が誰かも知らなかった。
「⋯⋯どうしましょう?」
ボソッと小さく呟いた少女は、周りを見てから、一人で逃げるようにどこかに走りだしてしまった。
「あ、待って!!」
「?!」
慌てて護は泣きながら彼女を追う。一人でいるのも不安だし、何だか、彼女の後をついていけば帰れるような気がしたのだ。
「あっ!」
「え⋯⋯?」
途中、転んだ護に対して、彼女は振り返って少しだけ足を止めた。でも、すぐに起き上がった護を見て、再び廊下を進み始めた。そして彼女は突然、立ち止まる。
「この階段を降りたら、帰れますよ」
「えっと⋯⋯ありがとう」
「ほら⋯⋯皆さん、貴方を待ってますから」
そして彼女 、はクルリと護に背を向けて歩いて行ってしまった。そして、すぐに友人達が護を見付けて駆け寄ってきた。
「あ、護くんいたっ」
「探したんだよ?」
「⋯⋯ごめんなさい」
「じゃあ、帰ろうか」
ふと、彼女が歩いていった方を見たとき、そこには誰もいなかった。
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暫くして、また護達は夢宮の屋敷で遊んでいた。今度は庭で。
「ねぇ、望くん」
「どうしたの?護くん」
「夢宮の屋敷に、ぼくと同じくらいの女の子っている?」
「え?いないよ?」
その時の望は、少しだけ驚いたような表情だったのは、護も覚えている。それと同時に、彼女は存在しないモノだったのかと。
「どうして、突然そんな事を聞くんだい?」
「あ、その⋯⋯もしもいたら、一緒に遊びたいなって」
「護くん、もしかして⋯⋯あの子に会ったのかい?」
「え?」
その言葉で、護は言ってはいけない事を言ってしまったのか、と焦った。特に彼女は内緒とか、そういう事は護には言ってはない。
「護くん、どんな子に会ったの?」
「えっと⋯⋯黒い髪の毛が腰まである、女の子」
「その子と会ったのはいつ?」
「この前、かくれんぼした時」
「護くん⋯⋯今度、家に一人でおいで」
「なんで?」
「その子に会わせてあげるよ」
護は、もう一度彼女と会って話せるのならと、一人で遊びにくることを望と約束した。
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そして約束の日。望と護は二人で部屋の前にいた。望がドアをノックすると、中から返事があった。
「しーちゃん、入るよ」
望に連れられて入った部屋の奥に、少女は一人で本を読んでいた。そばまで行って、望はどこか嬉しそうに口を開いた。
「しーちゃん、この子に見覚えは?」
「ありますよ⋯⋯この間、迷子になっていた子ですよね?」
本から視線を外さずに、彼女は淡々と望の質問に答えていた。
「しーちゃん⋯⋯気付いてる?」
「何を?」
「この子、キミの事をはっきりと認識してるし、ちゃんと会った事を覚えてたんだよ」
その時の《窓口》は何となく「やっぱり」といった感じで、さらには護にも興味もなさそうにしていた。感情は今のリオネットよりも表情に乏しかった。
「護くん、この子はね⋯⋯僕の親戚の家の子で色々と理由があって、今はこの家にいるんだよ」
「えっと、そうなんだ⋯⋯ぼく飛鳥 護、それでキミの名前は?」
「⋯⋯詩音」
若干、間はあったが《窓口》はそう名乗った。今では結構気に入っている偽名らしいが。その時はまだ偽名であることも知らなかった。
「それで、どうしてその子をここに連れてきたのですか?」
「しーちゃん、良かったじゃないか、僕や狐達の他にも話し相手ができて」
「別に頼んでません」
「キミを認識できて、尚且つキミを覚えてられる人間なんて、親戚以外には貴重だと思うんだけどな?」
望はそれがとても嬉しいようだ。当の《窓口》本人は、何を考えているかわからないけど。
「また、遊びにきてもいい?」
恐る恐る、護が聞くと《窓口》は黙って頷いた。
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「ホント、出会い方としてはかなり恥ずかしい方」
「まぁ、それでも飛鳥くんが詩音に会えたのは、本当に運命的ってことでしょうね」
護の話をうっとりとした表情で聞きながら、霊夜は日本酒のビンを一本空けていた。それでも平気そうにしているから驚き。
「あら?霊夜、人の過去を詮索するなんて悪趣味にも程があるのではありませんか?」
《窓口》は大きな壺を持って戻ってきていた。多分、この壺の中には酒虫がいる、または、酒虫だけ除いてある酒が入っている。あと、何故か《窓口》の後ろに大きな桶を持っている、七海がいる。
「ふふん、だって気になってしまったのだから、仕方ないでしょう?詩音に聞いても、何一つ教えてくれないんだもの」
「それは⋯⋯だって、護くんにとってはとても恥ずかしい過去でしょう?」
「それで、その壺は何だい?詩音さん」
「かなり珍しいお酒ですよ」
七海が持ってきた桶に、壺の中身を入れる。するとやはり酒虫が少量の液体と共に出てきた。遙や漓洙は酒虫を見て若干、引いてる。それは何となくわかる。
「えっと⋯⋯」
「この山椒魚みたいなのは『酒虫』と言って、水をお酒に変えてくれるのです」
「でも量が⋯⋯少ない?」
「まぁ、見ててくださいな」
次の瞬間、一気に桶の中の液体の量が増えた。それはもう、桶から溢れんばかりに。
「え?」
「うふふ、これで大丈夫ですかね?」
「うわぁー、凄いですね」
当の酒虫は酒の中をのんびりと泳いでいる。
「このお酒って、飲んで大丈夫なんですか?」
「まぁ、鬼が飼っていたみたいですからね、ちょっと人には強いかもしれませんが」
「そんなの、よく君は入手できたな」
「あぁ、これはわたしが連れてきた訳ではないんですよ、峰岸くん」
護はどういう経緯でこの酒虫を手に入れたかは知ってるが。それはあえて何も言わなかった。
「では、さっそく」
「透くん、そろそろ霊夜を止めてくれないかな」
「うーん、それは僕にはちょっと無理かな」




