出逢いの回想
昼間の花見の片付けと、夜からの花見の準備をしていたら、とうに日が暮れていた。あれから《窓口》はいつもと変わりない様子。何となく、護も触れてはいけない気がした。
「で、結局、しぃは誰を呼んだんだ?」
「連絡してみたら、霊夜と幽くんは来られるって」
「他には?」
「他には⋯⋯透くんも来るそうで」
《窓口》は最初から、そんなに人を呼ぶつもりはなかったらしい。比較的、身近で仲の良い人物を呼ぶあたり、ただ本当に花見を楽しみたいだけのようだ。
「護くんだって、誰か呼んでるのでしょう?」
「呼んでるって言ったって、遙達だぜ?」
「あら、来られるの?」
「夜からだって言ったら、普通に来るってさ」
《窓口》は意外そうな表情を浮かべていたが、考えてみれば、みんな学生時代からの友人なのである。声をかければ、それなりに集まるくらいには仲も良い。
「峰岸くんとは先月に会いましたが⋯⋯他の子達とはいつ以来かしらね?」
「俺はアイツ等とはこの間会ったが⋯⋯しぃは多分、犬神の件か、ジャッカロープの件以来じゃないか?⋯⋯まぁ、俺が知っている限りでは、だけど」
「⋯⋯それはまた随分と前の話ですね」
《窓口》自身が個人的に会っていなければ、護の友人と会うのは久々の事だろう。少しだけだが《窓口》本人も思い出すのに時間がかかったくらいだ。
「そう言うって事は、和泉くんと剛力くんも来るのね?」
「ああ⋯⋯あと、遙が言うには、漓洙さんも連れてくるってさ」
「⋯⋯いっそのこと、あの二人はくっつけばいいと思うんですけどね?」
「お前はそう言って、勝手に縁結びしてんだろ?」
「まだ結んではいません」
『まだ』ということは、予定として考えているではないか。いずれにせよ《窓口》は縁結びを実行するんだろう。小さな親切、大きなお世話とはこの事か。
「あら、彼らから依頼されればの話ですよ?そこまでわたしは、他人の色恋沙汰に首を突っ込む気はないです」
「それは意外」
「キミも知っているでしょう?わたしが勝手に行動する時は、本当にどうしようもない時だけだと⋯⋯まぁ、それは縁結びに限った話ではありませんけど」
ため息をつく《窓口》を手伝いながら、護は「そういえばそうだったな」と思う。準備が終わった頃には日は沈んでいた。
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夕闇の中、神社に向かって歩いている集団が一つ。その道中でも花見をしている集団をいくつか見かけた。
「ふふっ⋯⋯詩音と飛鳥くんとは仕事でよく会うけれど、他の子達とは卒業以来かしらね?ユウくん」
「そうだな」
「同窓会とかないしな⋯⋯なぁ遙、優、幹事って誰だったっけ」
「名前は覚えてるが、その幹事はどうやら同窓会を開く気がないらしいな」
「まぁまぁ、こうやって仲がいい者同士だけで集まるのも、たまにはいいんじゃないかな?」
「それはいいが健、前見て歩け」
幽の隣には霊夜、その隣には透が並んで歩いている。その後ろを鉛色の髪にルビー色の眼の青年は、さらに後ろを歩いていた遙と、芥子色の髪にトパーズの眼の青年に、振り返りながら歩いていた。彼は剛力 健。現在、大学生で、普段は色々とバイト等で忙しいらしい。
もう一人の青年は和泉 優。今は喫茶店の経営者。そして遙の隣には漓洙が、漓洙を挟むようにして優がいる。優の肩には純白の毛と栗色の眼を持つ狐がいた。
「それにしても、オーナー⋯⋯じゃなかった、先輩がお花見とかに参加するのは珍しいですね?」
「今回は護からの誘いでもあるからじゃないかな?」
漓洙の言葉に答えたのは優だった。当の遙は返事をせずに、ただ歩いている。
「あ!神社に着きましたよ!」
話しながら歩いていたからか、いつの間にか神社の石段の下に着いていた。目的地はこの石段の上。集団は一同に石段を登っていった。
「あ、来ましたね」
神社の御神木の桜の幹に座っていた《窓口》は、石段を登ってくる集団を見付けて、根元に飛び降りる。そこにちょうど護もやってくる。
「しぃ、その桜って御神木なんだろ?登っていいモノなのかよ」
「普通は駄目ですよ、決まってるじゃないですか」
「⋯⋯前からお前が、この桜の幹に座ってるのは見たことあるけど」
「境内に参拝客が誰もいない時だけですよ、こうした事をしているのは」
そう言うと《窓口》はクルリと鳥居の方を向く。すぐに呼んでいた友人達が石段を上がってきたのが、護にも見えた。
「あ、いたいた!」
「お待ちしてました」
「護も一緒にいたのか」
「まあな」
挨拶もそこそこに、《窓口》達は花見を始めた。
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「あら、少しだけお酒足りないかしら?」
「霊夜、ちょっと飲み過ぎなんじゃない?」
「大丈夫よ、ユウくん」
しばらくして霊夜は《窓口》に声をかけた。一応、個々に色々と持ち寄ってはいたのだが。勿論、彼女の準備が足りなかった訳でもない。一緒にいる人間の人数だけを考えれば。仕え魔の真夜とネロ、亜夢と鏡花も一緒にいることを忘れていた。
「あらら、それは困りましたね⋯⋯ネロくん、アレってキミの部屋にあるんでしたっけ?」
「アレ⋯⋯?ああ、それは此方に持ってきましたよ?誰も動かしてなければ、台所の日陰になる所にあるかと」
「一応、昨日の内に準備しておいてもらってたので、取りに行ってきますかね」
《窓口》が立ち上がり、神社の奥に行ってしまう。
「何て言うか⋯⋯真夜ちゃんと出雲が、お酒を飲むとは思わなかったよ」
「あたし達は普通の動物とは少しだけ違いますからねぇ」
「キュウン♪」
優は隣で嬉しそうに日本酒を飲んでいる、黒猫と白狐に目を向ける。飲んで大丈夫なのだろうか。
「で、彼女は何を取りに行ったんだ?護」
「何となく予測できるが⋯⋯っていうか、遙は飲んで大丈夫なのかよ?ただでさえ、酒に弱いのに」
「明日も仕事だが、そこは漓洙に任せておけばいいか」
「ちょっと、先輩?あたしに二人を見ろってことですか?それはまだ大丈夫です、でも先輩の世話まで、あたしはしたくありません」
「遙、お前は良くても、介抱する方の身にもなれよな?」
どうやら、遙の店は従業員が二人増えたらしい。その指導とかは遙と漓洙が二人でやってるみたいだ。
「あ、そうだ」
突然、霊夜は護の方を向き、手をポンッと合わせた。一体、何を思い付いてしまったのか。酔った時の思い付きというのは嫌な予感しかしない。
「飛鳥くんに聞きたかったんですけど、詩音と出会ったのっていつ?」
「え?何を突然⋯⋯?」
「そういえばオレ達が護と会った時にはもう、二人はいつも一緒にいたよな?」
「だから、二人の馴れ初めを聞きたくて」
「馴れ初めって⋯⋯別に俺はアイツと結婚する訳じゃないんだからさ」
「あたしも気になりますねぇ」
霊夜だけでなく、鏡花にまで詰め寄られるような状態になってしまい、護は困ってしまう。というか、その場にいた全員が興味津々といった感じで護を見てる。まだ《窓口》が戻ってくる様子もないし、これはもう逃げられる気がしない。
「はあ⋯⋯仕方ねーな、俺がアイツと初めて会ったのは小学校に入る前で、夢宮の屋敷で遊んでた時だよ」
ため息を一つつき、護は話を始めた。




