実行した事実、その後
心夜と縁の二人と入れ替わるようにして、護と遙、そして後ろから、天鵞絨の髪とアクアマリンの眼を持つ少女、漓洙が神社の石段を上ってくる。こうした縁切りなどの依頼が、立て続けにあるのも、ここでは珍しくない。
「よぉ」
「いらっしゃい⋯⋯何で、護くんもいるのかしらね?」
「俺が一緒にいちゃ悪いのかよ?」
「あら、何もわたしは『悪い』とは言ってないわ?」
わざとらしく首を傾げる《窓口》の言葉に、護は苦笑する。特に彼女に悪意があっての言葉ではないというのを、護はよく解っているし、この二人にとっては、いつも通りの挨拶のようなもの。
「えっと⋯⋯護さんとは、さっき街で会ったんです」
「漓洙の縁結びとかを君に頼んでたことを言ったら、護も君に聞きたいことがあるらしくてな」
「護くんのことですからね、どうせそんな所だろうとは思っていましたけど⋯⋯とりあえず、中にどうぞ」
話はやることをやってから、ということで。そうは言っても《窓口》がやることは、先程と全く同じなのだが。鋏で縁を切ったら呪術で縁を結ぶ。結んだ縁がほどけないように、きっちりと。
「はい、終わり」
「結構、早く終わるんだな」
「そこまで難しいことはしていませんからね」
あっさり終わったことに護が意外そうにしていた。効果に関しては護も遙もよく知ってるので、疑うことはない。
「で、俺の本題なんだが」
「何でしょう?」
「この間、街でネロに会ったんだよ」
「それは、わたしがネロくんにお使いを頼んでたんですよ」
別にそれだけだと《窓口》は言う。特に怪しい事ではないとも。
「何の為に?」
「う~ん⋯⋯そこから先は、わたしが全く関わってないことですし⋯⋯別の人の仕事のことですから、安易に内容を言っていいのかしらね?」
「⋯⋯それなら知ってることだけでいい」
本当に困ったと《窓口》の表情に出てる。話せる事が殆んどないからだ。護も《窓口》が関係してないと判断したらしい。すぐに話題を変える。
「そういや、さっき俺達が来た時にすれ違ったのって、心夜さんだよな?一緒にいたのは誰だ?」
「あの人は心夜さんのお仕事の依頼人だそうですよ?ここに来たのは峰岸くん達と同じ理由です、悪縁切りと縁結びの依頼」
「ふーん⋯⋯?」
《窓口》の言葉に護は何かを考えているが、答えは出なかったみたいだ。心夜の仕事のことまで《窓口》が関わっているとは考えにくいらしい。実際に縁切り以外に関わってないから、何とも言えないが。
「この後、峰岸くん達の予定は?」
「特にない」
「あたし達もここまで早く終わると思ってなくて⋯⋯」
「それなら少し街を見てくるのもいいのでは?」
「それもそうですね、先輩も一緒にどうですか?」
「え?あ⋯⋯いや、それは」
「遙は人が多い所は苦手だもんな」
遙の反応と護の言葉に《窓口》は何かを思ったらしい。その表情を護は見逃さない。
「しぃ?」
「 」
「⋯⋯ああ、わかった」
呼び掛けに応えた《窓口》が護に何かを言ったのはわかったが。その《窓口》の言葉は遙と漓洙にはわからない。そのまま《窓口》は外に出ていってしまったので、遙は確認出来ない。
「護⋯⋯?今、彼女は護に何て言ってたんだ?」
「それについては、遙にはあとでメールする」
「⋯⋯そうか」
「え?あの、どういうことなんです?」
「ああ、多分、漓洙には関係のない話だ」
「そうなんですか⋯⋯?」
「悪いな、蚊帳の外みたいな感じになって」
護が漓洙に頭を下げる。幼馴染みや友人の間の話、ということなのだろうと漓洙は思うことにした。時々、遙達には漓洙が踏み込めない話題がある。遙が何も言わないのだから、漓洙も諦めている。それに、誰にでも触れられたくないモノや事情があるのを知っているから。
「俺達も外に行くか?アイツは多分、着替えてくるんだろうし」
「そうしよう」
外に出ると既に《窓口》は着替えが済んでいた。いつもの学生のような服装だった。
「⋯⋯早かったな」
「ちょうど五月がいまして、仕舞うのは手伝ってもらいました」
「そうか」
《窓口》もこの後は予定が何もないらしい。だからといって、何処か行きたいという訳でもないという。鍵を持っているところを見るに、彼女はそのまま帰る気満々である。
「あんまり長くここにいるのも⋯⋯ね」
「嫌なのか?実家なのに」
「どうも、わたしが会いたくない人物が、午後からここに来るみたいなんですよね、五月の話では」
「誰が来るんだ?お前の会いたくない人っていうと⋯⋯望?」
「あの人とは別の意味で会いたくないだけよ、今日は違うわ」
《窓口》の会いたくない人物というのは数少ないが、護でもすぐには思い浮かばないようだ。とりあえず、鉢合わせだけは避けたいらしい。
「だから、峰岸くん達には悪いのですが⋯⋯わたしは先に帰りますね」
「ああ、突然、君に縁結びとかを頼んだのは俺達の方だから、気にしないでくれ」
遙の言葉の後、すぐに《窓口》は鍵を使って帰った。相当、その人物とは会いたくないようだ。名前すら出したくないのか、誰なのかを言わずに。護はあとでネロにでも聞いてみようと思った。
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あれから世間的には特に目立った事件は何もない。表向きは。
「⋯⋯普通なら、ニュースになってもおかしくはないはずなんですけどね?」
「ふふっ、まさか裏社会の住人が『最初からいなかった』ことになっているなんて、当事者以外に誰もわからないでしょう?」
「そんな事になっていたんですか」
「この事を知ってるのは、心夜さん達と《情報屋》、そしてわたし達だけ」
──縁が巻き込まれたトラブルは、とある団体が裏で関わっていた。縁の元彼がそこで借金をしていたらしい。しかも縁を勝手に保証人にしていたそうで。挙げ句の果てにその元彼は借金の返済ができない為に、何処かに逃げたようだ。つまり、相手は俗に言う「ヤミ金」だった。
「その団体の関係者はどうなったんです?」
「⋯⋯知りたい?」
「予想は何となくできますが」
心夜も相手が相手だからか、慎重だった。ただ、結局は誰もいなくなった訳だが。いわゆる『殴り込み』ということで。
「あとは、わたしと《情報屋》が『最初からいなかった』事にしてしまえば、無事に解決」
「記憶からも、記録からも消したんですか」
「例え、今は誰かの中で完全に消えていなくても、そのうち忘れるわ」
これだから《窓口》は敵に回すと怖い。彼女の力があれば、心夜でなくても、最初から同じ結果は得られるはずなのに。
「さすがに、わたしは他人の仕事を取ることは、したくないのですよ」
「そうですか」
つまり、彼女は何でもできるとは言うものの、それが他人の役目を奪うことになってはいけないのだろう。それは、必要な存在を否定することに繋がるから。
「うふふ、今回は護くんのうっとおしい追及がないのが、いいですね」
「貴女の本音はそれですか」
「毎回、何かある度に来るんだもの⋯⋯時々、嫌になるわ」
《窓口》は呆れたようにため息をついているが、それに付き合わされるネロ達の方がため息をつきたかった。だが、今回の事件はコレだけで終わっている。これ以上は何を言っても無駄だろう。
「さて、次の依頼はどんな依頼なんでしょうね?」
「もうそろそろ、真夜さんが連れてくるかと」
「では、依頼人が来るまで待ちましょうか」
《窓口》は子供のような笑顔を見せた。




