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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
春の色々
120/225

実行した事実、その後

心夜と縁の二人と入れ替わるようにして、護と遙、そして後ろから、天鵞絨(びろうど)の髪とアクアマリンの眼を持つ少女、漓洙(リズ)が神社の石段を上ってくる。こうした縁切りなどの依頼が、立て続けにあるのも、ここでは珍しくない。


「よぉ」

「いらっしゃい⋯⋯何で、護くんもいるのかしらね?」

「俺が一緒にいちゃ悪いのかよ?」

「あら、何もわたしは『悪い』とは言ってないわ?」


わざとらしく首を傾げる《窓口》の言葉に、護は苦笑する。特に彼女に悪意があっての言葉ではないというのを、護はよく解っているし、この二人にとっては、いつも通りの挨拶のようなもの。


「えっと⋯⋯護さんとは、さっき街で会ったんです」

「漓洙の縁結びとかを君に頼んでたことを言ったら、護も君に聞きたいことがあるらしくてな」

「護くんのことですからね、どうせそんな所だろうとは思っていましたけど⋯⋯とりあえず、中にどうぞ」


話はやることをやってから、ということで。そうは言っても《窓口》がやることは、先程と全く同じなのだが。鋏で縁を切ったら呪術で縁を結ぶ。結んだ縁がほどけないように、きっちりと。


「はい、終わり」

「結構、早く終わるんだな」

「そこまで難しいことはしていませんからね」


あっさり終わったことに護が意外そうにしていた。効果に関しては護も遙もよく知ってるので、疑うことはない。


「で、俺の本題なんだが」

「何でしょう?」

「この間、街でネロに会ったんだよ」

「それは、わたしがネロくんにお使いを頼んでたんですよ」


別にそれだけだと《窓口》は言う。特に怪しい事ではないとも。


「何の為に?」

「う~ん⋯⋯そこから先は、わたしが全く関わってないことですし⋯⋯別の人の仕事のことですから、安易に内容を言っていいのかしらね?」

「⋯⋯それなら知ってることだけでいい」


本当に困ったと《窓口》の表情に出てる。話せる事が殆んどないからだ。護も《窓口》が関係してないと判断したらしい。すぐに話題を変える。


「そういや、さっき俺達が来た時にすれ違ったのって、心夜さんだよな?一緒にいたのは誰だ?」

「あの人は心夜さんのお仕事の依頼人だそうですよ?ここに来たのは峰岸くん達と同じ理由です、悪縁切りと縁結びの依頼」

「ふーん⋯⋯?」


《窓口》の言葉に護は何かを考えているが、答えは出なかったみたいだ。心夜の仕事のことまで《窓口》が関わっているとは考えにくいらしい。実際に縁切り以外に関わってないから、何とも言えないが。


「この後、峰岸くん達の予定は?」

「特にない」

「あたし達もここまで早く終わると思ってなくて⋯⋯」

「それなら少し街を見てくるのもいいのでは?」

「それもそうですね、先輩も一緒にどうですか?」

「え?あ⋯⋯いや、それは」

「遙は人が多い所は苦手だもんな」


遙の反応と護の言葉に《窓口》は何かを思ったらしい。その表情を護は見逃さない。


「しぃ?」

「             」

「⋯⋯ああ、わかった」


呼び掛けに応えた《窓口》が護に何かを言ったのはわかったが。その《窓口》の言葉は遙と漓洙にはわからない。そのまま《窓口》は外に出ていってしまったので、遙は確認出来ない。


「護⋯⋯?今、彼女は護に何て言ってたんだ?」

「それについては、遙にはあとでメールする」

「⋯⋯そうか」

「え?あの、どういうことなんです?」

「ああ、多分、漓洙には関係のない話だ」

「そうなんですか⋯⋯?」

「悪いな、蚊帳の外みたいな感じになって」


護が漓洙に頭を下げる。幼馴染みや友人の間の話、ということなのだろうと漓洙は思うことにした。時々、遙達には漓洙が踏み込めない話題がある。遙が何も言わないのだから、漓洙も諦めている。それに、誰にでも触れられたくないモノや事情があるのを知っているから。


「俺達も外に行くか?アイツは多分、着替えてくるんだろうし」

「そうしよう」


外に出ると既に《窓口》は着替えが済んでいた。いつもの学生のような服装だった。


「⋯⋯早かったな」

「ちょうど五月がいまして、仕舞うのは手伝ってもらいました」

「そうか」


《窓口》もこの後は予定が何もないらしい。だからといって、何処か行きたいという訳でもないという。鍵を持っているところを見るに、彼女はそのまま帰る気満々である。


「あんまり長くここにいるのも⋯⋯ね」

「嫌なのか?実家なのに」

「どうも、わたしが会いたくない人物が、午後からここに来るみたいなんですよね、五月の話では」

「誰が来るんだ?お前の会いたくない人っていうと⋯⋯望?」

「あの人とは別の意味で会いたくないだけよ、今日は違うわ」


《窓口》の会いたくない人物というのは数少ないが、護でもすぐには思い浮かばないようだ。とりあえず、鉢合わせだけは避けたいらしい。


「だから、峰岸くん達には悪いのですが⋯⋯わたしは先に帰りますね」

「ああ、突然、君に縁結びとかを頼んだのは俺達の方だから、気にしないでくれ」


遙の言葉の後、すぐに《窓口》は鍵を使って帰った。相当、その人物とは会いたくないようだ。名前すら出したくないのか、誰なのかを言わずに。護はあとでネロにでも聞いてみようと思った。



  ✡



あれから世間的には特に目立った事件は何もない。表向きは。


「⋯⋯普通なら、ニュースになってもおかしくはないはずなんですけどね?」

「ふふっ、まさか裏社会の住人が『最初からいなかった』ことになっているなんて、当事者以外に誰もわからないでしょう?」

「そんな事になっていたんですか」

「この事を知ってるのは、心夜さん達と《情報屋》、そしてわたし達だけ」


──縁が巻き込まれたトラブルは、とある団体が裏で関わっていた。縁の元彼がそこで借金をしていたらしい。しかも縁を勝手に保証人にしていたそうで。挙げ句の果てにその元彼は借金の返済ができない為に、何処かに逃げたようだ。つまり、相手は俗に言う「ヤミ金」だった。


「その団体の関係者はどうなったんです?」

「⋯⋯知りたい?」

「予想は何となくできますが」


心夜も相手が相手だからか、慎重だった。ただ、結局は誰もいなくなった訳だが。いわゆる『殴り込み』ということで。


「あとは、わたしと《情報屋》が『最初からいなかった』事にしてしまえば、無事に解決」

「記憶からも、記録からも消したんですか」

「例え、今は誰かの中で完全に消えていなくても、そのうち忘れるわ」


これだから《窓口》は敵に回すと怖い。彼女の力があれば、心夜でなくても、最初から同じ結果は得られるはずなのに。


「さすがに、わたしは他人の仕事を取ることは、したくないのですよ」

「そうですか」


つまり、彼女は何でもできるとは言うものの、それが他人の役目を奪うことになってはいけないのだろう。それは、必要な存在を否定することに繋がるから。


「うふふ、今回は護くんのうっとおしい追及がないのが、いいですね」

「貴女の本音はそれですか」

「毎回、何かある度に来るんだもの⋯⋯時々、嫌になるわ」


《窓口》は呆れたようにため息をついているが、それに付き合わされるネロ達の方がため息をつきたかった。だが、今回の事件はコレだけで終わっている。これ以上は何を言っても無駄だろう。


「さて、次の依頼はどんな依頼なんでしょうね?」

「もうそろそろ、真夜さんが連れてくるかと」

「では、依頼人が来るまで待ちましょうか」


《窓口》は子供のような笑顔を見せた。

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