縁切りのお願い
応接室には《窓口》とネロ。その向かいに座る一人の女性と、愛夢と心夜。
「心夜さんと愛夢さんは、この方とどういうご関係で?」
「一応、アタシの同級生」
愛夢が『一応』とつけたのには理由がある。というのも、彼女は普通の人間で、同い年でも見た目に差があるから、らしい。
「とりあえず、お名前を伺ってもよろしいですか?僕達も事情がわからない事には、動けませんから」
「あ、えっと⋯⋯溝渕 縁です」
ネロの言葉で、縁が名乗る。まぁ《窓口》はわかっていたようだが。きっと三人がここに来た理由も。それがわかっていながら、彼女は聞き出すのだ。
「貴女が心夜さんに依頼したのは、金銭トラブル⋯⋯ですね?」
「え、何でわかって⋯⋯」
《窓口》の言葉に、縁は目を見開き、驚いている。これはいつも通りで、普通の反応。愛夢は隣で頷いていた。話を聞くと、縁の元カレが原因らしい。ただ、縁自身は関係ないと思っていたようだが、知らない所で巻き込まれていたようだ。こういった事を、理不尽と言うのだろうか。
「最初は、アタシもシンくんに相談したんだけどね」
「裏が関係してるみたいだからね、どうも私だけでは情報収集が難しそうでね」
「それで『相談所』の《情報屋》さんに依頼したくて、ね」
「なるほど⋯⋯そういうことでしたら、わたしから《情報屋》には連絡をしておきましょう」
さっそく《窓口》は携帯で連絡を入れたようだ。すぐに返事も来たみたいで、すぐに確認をして、ポケットに戻した。
「返事は?」
「大丈夫だそうですよ、ただ、モノによっては少し高くつくみたいですが」
「あのお嬢様のことだから、金銭感覚がズレていそうで怖いな」
「そこの心配はないでしょう、助手の彼がいますから」
「ならいいんだけどね?」
《窓口》の言葉で、心夜はホッと一安心といったような、笑みを浮かべた。心配なことはそれだけではない。
「もしかすると、義父さんにも、何かしら聞く必要があるかもしれない」
「ふふっ、パパも裏事情はよく知っているものね?」
心夜は仕事だからか真剣に考えているようだが、愛夢はこの状況をどこか楽しんでいるように見える。
「とりあえず、今日はそれだけだ」
「何かしらわかったら、アタシでもいいし、亜夢ちゃん経由でもいいから連絡して」
「わかりました」
「じゃ、アタシは縁を送ってくるね、シンくんはもう少し話がしたいみたいだから」
縁を連れて、愛夢は《窓口》の方を振り返り、小さく手を振って応接室を後にした。
「心夜さんが言いたいのは、今回の件に関して『表沙汰にならないように協力してほしい』ということでしょうか?」
「本当に、何もかもお見通しなんだね」
《窓口》が先に心夜の話したいことを口に出してしまった為、心夜は苦笑するしかなかった。心夜もこれはわかりきったことだろうにと、ネロは思ったが、グッと言葉を飲み込んだ。
「ネロくん、安心して」
「え?」
「今回は、わたしは別の方向でしか動けません」
「うん、君達はそれでいいよ⋯⋯裏のことは私達だけで十分、それに協力って言っても、縁切りとかをしてもらうだけで《窓口》ちゃんを事件とかに巻き込むことはないよ」
少しだけ、ネロは安心したような感じにはなったが、また別の方向で不安になった。何かしら事件が起きれば、絶対に護は《窓口》の所に来る。きっと彼女のことだ。「わたしは縁切りをしただけ」と答えるだろうけど。
「それで、あの護が納得してくれればいいんですけどね?」
「まぁ、彼の立場上、それは絶対にないだろうね」
心夜は笑って言うが、ネロは小さくため息をつく。これも毎回のこと。あまり気にしても仕方ない。そして、事件はいつの間にか忘れられていくのだ。
「話したいことはこれで終わり、私もお暇させてもらうよ」
心夜は立ち上がり、応接室を出ていく。それを見送ってから《窓口》も応接室を後にした。
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《窓口》の部屋にネロが入ると、彼女は何故か本を持ち出していた。それも、ほとんどが童話だ。
「主、何をなさっているので?」
「見てわからないかしら?」
「童話を読んでいるというのはわかります」
ネロが聞きたいのは、なんで今、彼女は童話を読んでいるのか、だ。こういう時の《窓口》は、何かしようとしている。それがわかったところで、ネロが《窓口》の行動を止められるわけではないのだが。
「もしもの時の為に、ね?」
「もしや、噂話のベースに童話を使うおつもりですか?」
「さすが、わたしの優秀な助手ですね、ご名答です」
ネロの反応を見て、なんだかとても《窓口》は楽しそうだ。一応、これも仕事だというのに。後々のことはちゃんと考えているのか、ネロは若干だが不安になる。
「どうなるかは、相手と心夜さん達の動き次第なのですけどね」
「そう言っても実行する気、満々じゃないですか」
「ふふっ、バレました?」
「だって、仕事なのに楽しそうにしている時の主は、大体、何かしらやらかすでしょう?」
本当にネロ達にはこうした時の《窓口》の考えはわからないし、理解もしたくない。悪戯感覚で、とんでもないことをする時があるからだ。その被害に遇うだろう見知らぬ人間に、ネロは今のうちに脳内で合掌しておく。
「あら?ネロくん達は、わたしがそういう人間だとわかりきった上で、この家にいると思っていたのですがね?」
「否定はしません、ですが⋯⋯あまり遊びすぎるのはいかがなものかと」
「⋯⋯それもそうですね」
《窓口》は本当にわかっているのだろうか。そもそも、ネロ達の言葉が彼女に届いているのかも定かではない。受け答えはしているが、あまり気にしている様子はない。
「時々、僕は貴女が全くの別の場所にいるのではないか、そういう感覚に陥るのですが」
「それは、杞憂だと思うんですけどね?」
やはり《窓口》はどこか楽観的だ。実力者故の余裕なのだろうが、それでもネロ達にとって不安な時は不安なのである。
「大丈夫ですよ、今回はわたしの出る幕はありませんから」
「そうなんですか?」
「だから、そんなに心配することはないですよ」
心夜達が全て解決するという意味なのか、その言葉の後に《窓口》はにっこりとネロに微笑んだ。彼女がそう言うのだから、ネロ達はこれ以上の干渉はしない。きっと大丈夫なんだろう。それでもやっぱり不安ではあるが。そして、ネロは《窓口》の部屋を後にした。
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それから数日後。ネロはまず、島の南東部の街の『星ヶ丘市』にある、一番大きな図書館にやってきた。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃいませ~」
出入口近くにある受付には、この図書館の管理人の亜星がいる。相変わらず本を読んでいたらしく、彼女の近くには大量の本が山積みになっていた。
「今日のネロくんは《窓口》さんのお使いですかね~?」
「そうです」
「はい、どうぞ~」
亜星はカウンターの下から、大きな封筒を出してネロに渡す。少し重いので、結構な量の情報のようだ。
「今回は、また厄介なのを《窓口》さん達は相手にするみたいですね?」
「⋯⋯そうなんですか?」
「彼女は貴方に何も言ってないのですか~?」
「今回は僕達もあまり動くことはしないみたいですが、特に何か仰ってはいませんね」
「あら、じゃあ今回は別の方の案件なのですね~」
《窓口》からの依頼が、全て《窓口》本人が関わるモノではない。だが、基本的に《相談員》達は、個別に亜星に欲しい情報を依頼してるので、亜星がそう思うのは無理もないが。
「今回は、あまり表沙汰にできる案件じゃないってのは僕も知ってます」
「裏社会のことは表に持ってきてはいけませんものね~」
亜星達も何かと裏でやらかしているようだ。あまり詳しく聞く気はネロにはないけど。多分、聞いたらその後が怖い。消される事も考えてしまう。
「⋯⋯今日は助手の彼は外に出ているんですか?」
「今は上の階の見回りをしてるみたいですよ~」
亜星の助手の姿が見えないので、聞いたら真面目に仕事中だった。自分もそろそろ戻ろうという時。亜星が思い出したように口を開いた。
「あ、戻るのでしたら、ついでに何かお仕事があればと、彼女に伝えておいていただけないでしょうか~?」
「わかりました⋯⋯でも、今回の件絡みで何か要請が行くとは思うんですけどね」
「そうなんですか?それはそれで、わたしもいいのですがね~」
ネロの返事に、亜星は満足そうに頷いた。




