桜の縁結び
石段を上っていった先。鳥居をくぐり、とりあえず智志達は何もしないのもどうかと思って参拝。財布から各々、小銭を出す。
「おや?珍しいね、智志くん達が、可愛い女の子を連れて神社にいるなんてさ」
参拝を終えた智志達に、声をかけてきたのは四季だった。何か嬉しそうに笑っている。
「四季さんも珍しいですね、神社の方に出て」
「えっと、神社の狐さんですか?」
「あ、あの、この人(?)は⋯⋯」
「あぁ、自己紹介が遅れたね?俺は本間 四季、こんな成りでも一応この神社に仕えてる狐だよ」
「でも、神社にいるのは珍しいんですか?」
「まぁ、普段は兄貴達がいるからねぇ、俺は本間の家で向こうからの伝言とかを兄貴達に伝えてるんだ」
話を聞くと、今日はその兄達が仕事の都合で外出していて、代わりに四季がいるのだという。その四季は四匹の管狐を携えていた。白い毛の管狐が二匹(片方は首に緋色の紐がある)と、金色の毛のが一匹、赤毛のが一匹。
「本当なら、俺は弟に任せたかったんだけど、その弟も別の用事で来れないって言うしさ」
「八雲兄さんは確か、今日は姉さんの代わりに仕事をしてるって」
「あー、お嬢の代わりなら、それは仕方ないな」
四季は残念そうではあったが、智志から理由を聞いてどこか納得したようだ。
「ところで、その四匹の細い狐さん達は?」
「ん?あぁ、この子達は俺の飼ってる管狐だよ⋯⋯ちゃんと、それぞれ名前もある」
「毛の色で見分けられそう⋯⋯」
「そうだね、えっと⋯⋯名前が左の白い毛のから桜、金色のが槐、赤毛のが楓、最後に梅」
でも、梓達が知りたいのは、御神木の桜の話で。四季の管狐の事ではない。梓が少しだけ、聞きづらそうに、本題に入る。
「あ、あの、四季さんは『御神木の桜』の話って聞いたことありますか?」
「もしかして、御神木の下で告白をすると成就するってやつかい?」
「あ、やっぱり知ってるんですか?」
「知ってるっていうか、最初はお嬢が友達に俺達の両親の事を話したのが、きっかけだったらしいんだよね」
「姉さんが?」
「どういう話なんですか?」
「簡単にいうと、俺達の両親のなれそめを話しただけ、だったらしいけどね」
──最初は、四季の父親である九十九が母親の霊藻に一目惚れをしたのが始まりだった。九十九は元々、神社の神使の子であったというのもあり、神使見習いとして神社にはいたのだという。霊藻は一定の棲みかを持たず、森を転々としていたらしい。そして偶然にも、神社の森で出会ったそうだ。
「子どもの俺がいうのもアレだけど、お袋はかなりの美人なんだよね」
「そうなんですか」
そして、暫く経った頃。九十九は満開になった、御神木の桜の下で霊藻にプロポーズをしたのだという。
「それが、凄く女の子達の憧れみたいになってね、真似をする人が増えたのさ」
「確かに、そんな事されるのは羨ましいかも」
「それで、成功率は⋯⋯?」
「俺が知ってる限りだと、ほぼ100%」
「本当に?」
「ついでに言うと、その子達は告白前に、お嬢に悪縁切りと縁結びをお願いしてたよ」
「《窓口》さんの呪術って効きますものね」
「そうだね、で、そういう事も重なって『満開になった御神木の下で告白すると成就する』って噂話が出来たのさ」
他の事例は、他の狐達に聞いた方がいいと四季は笑って言った。四季はあまり神社にいないというので、その方がいい気がした。
「話を聞くって言っても、あとは売り子の二人かな?」
「本当なら、こういう事は三鈴の方が詳しいんだけど、三鈴も今、兄貴達と出掛けてるからな」
「そうなんですか」
「もし、君達も誰かに告白したいなら、お嬢に縁結びとかをしてもらってからの方がオススメだよ」
そう言って、四季は仕事があるというので、社の中に入っていった。
「で、あの話は本当だったってことでいいのかな?」
「いいんじゃないかな?ただ、確実に成功させるには、縁結びとかが必要みたいだけど」
「でも、姉さんの事だから『ただ縁結びをするだけじゃダメ』とか言いそうだよな」
「あぁ、あり得る」
智志と水月は心結達には、わからない話をし出す。縁結びだけではダメというのはどういう事なのか。
「ただ、そういう事を言いそうってだけだよ」
「結構、その人ってそういうのには厳しいの?」
「いや?どっちかというと、オレ達の行動は自由にさせてくれる方、本当にそれが危険な事じゃなければ」
「ただ、物事に関する考え方が辛辣なんだよね」
とりあえず心結達には、不思議な人なんだという事だけがわかった。何かあれば相談にはのってくれるそうだが、それが今の仕事なので仕方ない。
「さて水月、この後どうする?」
「そうだね⋯⋯やる事はないし、帰る?」
「その前に、二人を送った方がいいか」
「あ、さすがに帰りまで乗せてもらうのは⋯⋯」
「別に迷惑とか思うなら気にしないで、二人で歩いてる方が心配になるから」
曲がりなりにも、智志と水月は妖魔である。いないよりはマシだろう。
「う⋯⋯それなら、その言葉に甘えよう、かな?」
「一番は姉さんに送ってもらうことなんだよね」
「でも、いないしね」
石段を下りていき、駐輪場へ。来たときと同じく、智志が心結を乗せて自転車を漕ぐ。
「ごめんなさい、帰りもこうして乗せてもらってしまって」
「気にしないでいいよ、結局は学校の方向に向かうし⋯⋯多分、姉さんも俺達に『送っていけ』って言うだろうしね」
「ありがとうございます、心屋くん」
「後、別に俺達に敬語を使わなくてもいいよ、同じ学年なんだし」
「えっ?あ、はい⋯⋯」
心結は智志達以外にも、異性と話す時はどうしても緊張して、敬語になってしまっているのだが、それが智志には気になったようだ。
「あ、これは、その⋯⋯癖というか、その⋯⋯」
「あ、別に無理してるわけじゃないならいいよ、姉さんも俺達に敬語使ってる時があるしな」
「それは神社の人だから、どうしても、丁寧な言葉で話すことが習慣になっているのかもしれないですよね」
「多分ね、まぁ、姉さんの事を知りたいなら、本人か幼馴染みの人に聞けばいいし」
心結には智志の表情は見えないので、どういう事かはわからない。でも、特に意味はないのかもしれない。
「あ、学校が見えてきた」
「なら、もうこの辺りで大丈夫、ですよ」
「そう?」
学校の近くで心結を降ろして、智志はいつもの通学路を通る。少し、心配ではあったが、徒歩で学校に通える距離なら大丈夫だろう。
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町外れの丘の上の洋館。自転車を裏庭の影に停める。自転車がないところをみると、水月はまだ帰ってきてないようだ。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
応接室から入ると、そこには護と《窓口》がいた。
「あ、もしかして、姉さん達の邪魔になる?」
「いえ、今回はお仕事の話ではないので、大丈夫ですよ」
「そう⋯⋯なら、いいけど」
「気を使わせて悪いね、智志くん」
「いえ、護さんが謝ることじゃないんで」
荷物もそのままに、智志は《窓口》の隣に座る。
「あら、珍しいですね?そのまま部屋に行くと思ったのに」
「別に部屋に戻ってもやる事がないし、たまにはいいだろ?」
「そうか、智志くん達は春休みか」
「それなら、もう少し遊んでくれば良かったのに」
《窓口》達の言葉に少しだけ、智志の表情はむくれる。そして、ふと、帰りに浮かんだ疑問を口にした。
「あ、そうだ」
「どうしました?」
「姉さんってさ、縁結びとかってどうやってんの?」
「普通に切って、結ぶだけですよ」
相変わらず《窓口》は、難しい事をさらっと言う。その行為が難しいはずなのだが。
「しぃ、そもそも『縁』って、お前にはどう見えてるんだ?」
「う~ん⋯⋯簡単に言うと『色の付いた線』ですかね」
《窓口》が言うには、色々な色の線が幾つも見えてるらしい。例えば、恋愛に関する縁なら赤色の線が、人間関係なら黄色という感じに。ただ、結ぶことがでるので、線というよりは糸のようなモノの方が、表現的には合っているようだ。
「その縁が良縁であればあるほど、その色は明るく鮮やかに、悪縁なら暗く濁って見えます、むしろ黒に近いですかね」
「それを姉さんは、切ったり結んだりしてるんだ?」
「そういうことですね」
ただ、切ったり結んだりしても、繋いだ先は《窓口》にもわからないらしい。
「だから、わたしが縁を結んだからといって、必ずしも思い人と結ばれる訳ではないのです」
「そうなんだ?でも、神社の御神木の噂の成功率は、姉さんが縁結びとかして、ほぼ100%だって四季さんが言ってたんだけど?」
「それは、そうなるように結べていれば、の話です」
ある程度、身近な縁であれば《窓口》でも、確実に結べるという。それが悪縁でなければの話だが。
「しぃが、依頼通りにちゃんと縁結びをするのは、人によるだろ?」
「まぁね、悪人に良縁を結んであげる必要はないでしょう?」
《窓口》の言葉は最もだが、いくら何でも酷くないか。
「大丈夫ですよ、大体、縁が見えてる人なんて、そうそういませんから」
「そういう問題じゃないと思う」
思わず、智志と護はため息をついた。




