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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
春の色々
115/225

別れと出会いの桜

学校の体育館。3月とはいえ、少し肌寒い。珍しく《窓口》は鏡花といた。


「うぐっ⋯⋯ひっく⋯⋯良かったねぇ、智志くんも水月も、ちゃんと卒業できて⋯⋯」

「そうですね⋯⋯って、何で鏡花が泣いているんですか?」

「ふえぇ⋯⋯だってぇ⋯⋯」


卒業と言っても、智志達は中等部から高等部に行くだけなので、実際は通う場所は変わらないが。それでも、違う高校に行く者もいるので、卒業式がある。ただ、なぜ鏡花が泣いているのか。在校生や、卒業生が泣くのならわかるのだが。


「だってぇ⋯⋯水月が、ちゃんと卒業する所に居られると思わなくてぇ」

「ハイハイ、嬉しいんですね」


周りの視線(それも若干、温かい)もあってか、《窓口》は苦笑しながらも、鏡花にハンカチを渡す。卒業式が終わって、卒業生達は体育館を出る。その時の智志と水月の表情が、かなり不思議そうだった。


「もう、智志くん達も呆れてましたよ?」

「ふえぇ⋯⋯スミマセン、ご主人⋯⋯」

「⋯⋯鏡花、先に二人の所に行っていてもらえますか?」

「ええぇ?どうして、でしょうかぁ?」

「少し話をしたい人がいたんですよ」


《窓口》に慰められ、鏡花少しだけ落ち着く。だが、その後の彼女の言葉に疑問を感じたが、どういう事なのか《窓口》が答えると、鏡花は納得して頷き、智志達のいる教室に一人で向かった。


「あ、智志くんに伝言を頼んでおくべきだったかしら?」


《窓口》が振り返った時にはもう、鏡花の姿は見えなくなっていた。仕方なく、彼女は人混みの中を進んだ。



  ✡



教室では、卒業生達が楽しそうに話していたり、泣いている生徒を宥めたりしていた。保護者達は廊下で先生や、仲のいい親同士で話をしている。


「ふーん、それで鏡花姉さんだけ先に来たんだ」

「っていうか姉ちゃん、卒業生じゃないのに何で泣いてるのさ」

「ふえぇ⋯⋯水月までご主人と同じ事言う?」


そんなことを話していると、廊下を《窓口》が歩いてきた。三人の姿を見付けると、軽く手を振る。


「姉さん、誰と話をしてたの?」

「あぁ、キミのお母さんですよ」

「え?!母さん、ここに来てたの?」

「ただ、この後はお仕事があるそうなので、今日は帰ってしまわれましたけどね」

「それならそうと言ってくれたら、俺もすぐにそっちに行ったのに」

「あ、入学式にも来ると仰ってましたよ」


《窓口》の言葉に、智志は「それならその時に会う」と言って、クラスメイトに呼ばれ、水月と教室に入っていった。


「あたしに言っておいてくれたら、智志くんはお母さんに会えたかもしれないですよぉ?ご主人」

「それに気づいた時には、鏡花の姿がなかったのと、もしかしたら、この後の集会に出るかな?とも思ったんですよ」

「なるほど、そういう事でしたかぁ」


《窓口》の言葉に鏡花は、うんうんと頷き、教室の中に視線を移した。



  ✡



──同時刻の別の教室。心結(みゆ)は泣いていた。相変わらず髪は三つ編みである。隣には、緩くウェーブがかかった髪の少女。彼女は心結の友人の弓弦(ゆづり) 梓。


「もう、心結ったら、そんなに泣かなくたって、アタシ達は高等部に移るだけじゃん」

「梓、うぅ⋯⋯それは、そう⋯⋯なんだけど」


梓からハンカチを渡され、頭を撫でられていた。それが、余計に心結が泣く結果になっている。


「全く、仕方ないなぁ、心結は」

「ごめん⋯⋯」


梓は心結が落ち着くように、と話題を変える。


「ねぇ、心結はこの街の『神社の桜の噂』って聞いたことあるかな?」

「あ、それって『満開になった神社の御神木の桜の下で、告白すると結ばれる』ってやつ?」

「そうそう、去年の先輩が試したらしいんだけどさ、実際に付き合って彼氏ができたんだって」

「ふーん⋯⋯?でも、今はまだ神社の桜は咲いてないんじゃない?」

「試すんじゃなくても、神社の人に聞いてみようってこと」


そういう事ならと、他の友人も誘って帰りに神社に寄ろうという事になった。この後は保護者の集会があるというので、教室を出て廊下を進んでいると、昇降口で《窓口》達と話をしている智志達を見つけた。


「ね、心結、あれって心屋くん達じゃん、話してきたら?」

「本当だね、でも、向こうの話を邪魔しちゃ、悪いよ」

「それにしても、誰と話をしてるんだろう?」

「確か、心屋くんが居候している家の人だって、前に聞いたけど⋯⋯」


心結の言葉に、梓は少し驚いた表情をする。逆に、心結は少し困ったような表情だ。


「何で、そんなことを心結が知ってるのよ?」

「前に、話を少し聞いたんだよ」

「ふーん⋯⋯いつの間にそういう仲になったの?」

「え?そんなんじゃないってば?!」


知っていた事は事実なので、それ以上は心結には言えない。なんとなく、心結が《窓口》の事が気になったってだけで。そのうちに《窓口》達が智志達と別れたので、梓は何かを思い付いたようだ。


「まぁいいや、あの二人も誘ってみようよ」

「えー⋯⋯二人に悪いんじゃない?」

「そんなの、聞いてみないとわからないじゃん?」


梓は心結の静止を振り切り、心結の手を引いて智志達の所へと歩いていく。それには、心結も少しだけ呆れてしまう。


「ねえねえ、心屋くん、形川(なりかわ)くん、この後ってさ、暇~?」

「ちょっと、梓?」

「まぁ、暇っていえば暇かな⋯⋯?」

「ならさ、アタシ達この後に神社に行くんだけど、一緒に行かない?」

「神社って『夢現神社』か?」

「うん、そこ以外にこの街に神社はないじゃん」


梓の誘いに智志と水月は顔を見合せ、どうしようかと話し合う。何か不都合でもあったのだろうか。


「神社ってさ」

「姉さんに一応、聞いた方がいいよな?」

「あれ?何か都合が悪い?」


智志と水月の様子に、梓は首を傾げた。


「いや、都合が悪いっていうか」

「その神社は、オレ達が居候している家の人の実家なんだよね」

「それって、さっき二人が話をしてた、二人のどちらかの?」

「えっ?そうだったの?」

「うん、片方は水月の実の姉さんなんだけど」

「多分、遊びに行っても大丈夫だとは思うんだけどさ」

「そっか、それなら一応、確認はとっておいた方がいいよね」


智志が、通話はできないだろうからとメールを打つ。でも、すぐに返事が来たようだ。それを見た二人は、少しだけ安堵の表情。


「別に一々確認しなくても、勝手に遊びに行っていいってさ」

「あ、大丈夫だったんだ?」

「俺達はチャリだけど、二人は?」

「アタシはバスだし、心結は家が近いから徒歩だっけ?」

「うん」

「なら、神社まで後ろに乗せて行こうか?その方が早くていい」

「ええぇ?!それは、二人に悪い⋯⋯です」

「心結、せっかく二人がこう言ってくれてるんだからさ、素直に乗せてもらお?」


校舎を出て、四人は自転車置き場へ。さすがに、敷地内から乗せるのは、そういう関係ではないし、誰かに見られるのはお互いに恥ずかしいので、校門を出て、暫くは歩いて神社に向かう。


「でも、二人は神社に何をしに行くんだ?」

「あのね、神社に御神木の桜があるでしょう?その桜の噂話を聞いて、少し気になったの」

「ふーん⋯⋯そういう事なら、多分、姉さんや狐達が詳しい話は知ってるんじゃないかな?」


学校が見えなくなった所で、智志は心結を、水月は梓を後ろに乗せて自転車を漕ぐ。少し戸惑うが、腰に腕を回す。


「わっ、凄い速い⋯⋯」

「しっかり掴まっててね、何かあって夢路さんが怪我したら、大変だから」

「う、うん」


やはり、歩いていくよりも、自転車の方が早く神社に着く。智志達は神社の近くの参道にある駐輪場に自転車を停め、石段を上っていった。

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