別れと出会いの桜
学校の体育館。3月とはいえ、少し肌寒い。珍しく《窓口》は鏡花といた。
「うぐっ⋯⋯ひっく⋯⋯良かったねぇ、智志くんも水月も、ちゃんと卒業できて⋯⋯」
「そうですね⋯⋯って、何で鏡花が泣いているんですか?」
「ふえぇ⋯⋯だってぇ⋯⋯」
卒業と言っても、智志達は中等部から高等部に行くだけなので、実際は通う場所は変わらないが。それでも、違う高校に行く者もいるので、卒業式がある。ただ、なぜ鏡花が泣いているのか。在校生や、卒業生が泣くのならわかるのだが。
「だってぇ⋯⋯水月が、ちゃんと卒業する所に居られると思わなくてぇ」
「ハイハイ、嬉しいんですね」
周りの視線(それも若干、温かい)もあってか、《窓口》は苦笑しながらも、鏡花にハンカチを渡す。卒業式が終わって、卒業生達は体育館を出る。その時の智志と水月の表情が、かなり不思議そうだった。
「もう、智志くん達も呆れてましたよ?」
「ふえぇ⋯⋯スミマセン、ご主人⋯⋯」
「⋯⋯鏡花、先に二人の所に行っていてもらえますか?」
「ええぇ?どうして、でしょうかぁ?」
「少し話をしたい人がいたんですよ」
《窓口》に慰められ、鏡花少しだけ落ち着く。だが、その後の彼女の言葉に疑問を感じたが、どういう事なのか《窓口》が答えると、鏡花は納得して頷き、智志達のいる教室に一人で向かった。
「あ、智志くんに伝言を頼んでおくべきだったかしら?」
《窓口》が振り返った時にはもう、鏡花の姿は見えなくなっていた。仕方なく、彼女は人混みの中を進んだ。
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教室では、卒業生達が楽しそうに話していたり、泣いている生徒を宥めたりしていた。保護者達は廊下で先生や、仲のいい親同士で話をしている。
「ふーん、それで鏡花姉さんだけ先に来たんだ」
「っていうか姉ちゃん、卒業生じゃないのに何で泣いてるのさ」
「ふえぇ⋯⋯水月までご主人と同じ事言う?」
そんなことを話していると、廊下を《窓口》が歩いてきた。三人の姿を見付けると、軽く手を振る。
「姉さん、誰と話をしてたの?」
「あぁ、キミのお母さんですよ」
「え?!母さん、ここに来てたの?」
「ただ、この後はお仕事があるそうなので、今日は帰ってしまわれましたけどね」
「それならそうと言ってくれたら、俺もすぐにそっちに行ったのに」
「あ、入学式にも来ると仰ってましたよ」
《窓口》の言葉に、智志は「それならその時に会う」と言って、クラスメイトに呼ばれ、水月と教室に入っていった。
「あたしに言っておいてくれたら、智志くんはお母さんに会えたかもしれないですよぉ?ご主人」
「それに気づいた時には、鏡花の姿がなかったのと、もしかしたら、この後の集会に出るかな?とも思ったんですよ」
「なるほど、そういう事でしたかぁ」
《窓口》の言葉に鏡花は、うんうんと頷き、教室の中に視線を移した。
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──同時刻の別の教室。心結は泣いていた。相変わらず髪は三つ編みである。隣には、緩くウェーブがかかった髪の少女。彼女は心結の友人の弓弦 梓。
「もう、心結ったら、そんなに泣かなくたって、アタシ達は高等部に移るだけじゃん」
「梓、うぅ⋯⋯それは、そう⋯⋯なんだけど」
梓からハンカチを渡され、頭を撫でられていた。それが、余計に心結が泣く結果になっている。
「全く、仕方ないなぁ、心結は」
「ごめん⋯⋯」
梓は心結が落ち着くように、と話題を変える。
「ねぇ、心結はこの街の『神社の桜の噂』って聞いたことあるかな?」
「あ、それって『満開になった神社の御神木の桜の下で、告白すると結ばれる』ってやつ?」
「そうそう、去年の先輩が試したらしいんだけどさ、実際に付き合って彼氏ができたんだって」
「ふーん⋯⋯?でも、今はまだ神社の桜は咲いてないんじゃない?」
「試すんじゃなくても、神社の人に聞いてみようってこと」
そういう事ならと、他の友人も誘って帰りに神社に寄ろうという事になった。この後は保護者の集会があるというので、教室を出て廊下を進んでいると、昇降口で《窓口》達と話をしている智志達を見つけた。
「ね、心結、あれって心屋くん達じゃん、話してきたら?」
「本当だね、でも、向こうの話を邪魔しちゃ、悪いよ」
「それにしても、誰と話をしてるんだろう?」
「確か、心屋くんが居候している家の人だって、前に聞いたけど⋯⋯」
心結の言葉に、梓は少し驚いた表情をする。逆に、心結は少し困ったような表情だ。
「何で、そんなことを心結が知ってるのよ?」
「前に、話を少し聞いたんだよ」
「ふーん⋯⋯いつの間にそういう仲になったの?」
「え?そんなんじゃないってば?!」
知っていた事は事実なので、それ以上は心結には言えない。なんとなく、心結が《窓口》の事が気になったってだけで。そのうちに《窓口》達が智志達と別れたので、梓は何かを思い付いたようだ。
「まぁいいや、あの二人も誘ってみようよ」
「えー⋯⋯二人に悪いんじゃない?」
「そんなの、聞いてみないとわからないじゃん?」
梓は心結の静止を振り切り、心結の手を引いて智志達の所へと歩いていく。それには、心結も少しだけ呆れてしまう。
「ねえねえ、心屋くん、形川くん、この後ってさ、暇~?」
「ちょっと、梓?」
「まぁ、暇っていえば暇かな⋯⋯?」
「ならさ、アタシ達この後に神社に行くんだけど、一緒に行かない?」
「神社って『夢現神社』か?」
「うん、そこ以外にこの街に神社はないじゃん」
梓の誘いに智志と水月は顔を見合せ、どうしようかと話し合う。何か不都合でもあったのだろうか。
「神社ってさ」
「姉さんに一応、聞いた方がいいよな?」
「あれ?何か都合が悪い?」
智志と水月の様子に、梓は首を傾げた。
「いや、都合が悪いっていうか」
「その神社は、オレ達が居候している家の人の実家なんだよね」
「それって、さっき二人が話をしてた、二人のどちらかの?」
「えっ?そうだったの?」
「うん、片方は水月の実の姉さんなんだけど」
「多分、遊びに行っても大丈夫だとは思うんだけどさ」
「そっか、それなら一応、確認はとっておいた方がいいよね」
智志が、通話はできないだろうからとメールを打つ。でも、すぐに返事が来たようだ。それを見た二人は、少しだけ安堵の表情。
「別に一々確認しなくても、勝手に遊びに行っていいってさ」
「あ、大丈夫だったんだ?」
「俺達はチャリだけど、二人は?」
「アタシはバスだし、心結は家が近いから徒歩だっけ?」
「うん」
「なら、神社まで後ろに乗せて行こうか?その方が早くていい」
「ええぇ?!それは、二人に悪い⋯⋯です」
「心結、せっかく二人がこう言ってくれてるんだからさ、素直に乗せてもらお?」
校舎を出て、四人は自転車置き場へ。さすがに、敷地内から乗せるのは、そういう関係ではないし、誰かに見られるのはお互いに恥ずかしいので、校門を出て、暫くは歩いて神社に向かう。
「でも、二人は神社に何をしに行くんだ?」
「あのね、神社に御神木の桜があるでしょう?その桜の噂話を聞いて、少し気になったの」
「ふーん⋯⋯そういう事なら、多分、姉さんや狐達が詳しい話は知ってるんじゃないかな?」
学校が見えなくなった所で、智志は心結を、水月は梓を後ろに乗せて自転車を漕ぐ。少し戸惑うが、腰に腕を回す。
「わっ、凄い速い⋯⋯」
「しっかり掴まっててね、何かあって夢路さんが怪我したら、大変だから」
「う、うん」
やはり、歩いていくよりも、自転車の方が早く神社に着く。智志達は神社の近くの参道にある駐輪場に自転車を停め、石段を上っていった。




