表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
二月の恒例行事
111/225

夜中の鬼ごっこ、のち夜明け

いつの間にか直は寝ていたらしい。でも、緊張のせいなのか、夜中に目が覚めてしまった。ただ、観ていたテレビは、六花が直に気を使ってか、つけたままにしてあった。


「あら、テレビの音で寝られませんでしたか?」

「えっ?あ、いや・・・って、六花さんは、ずっと起きてたんですか?」

「だって、何かあったら大変でしょう?」


にっこりと笑っているが、六花は意識が高いなぁと直は感心する。そういう仕事でここにいるのだから、仕方ないのかもしれないが。それにいつも六花達は寝ていても、熟睡することはないのだと言う。


「えっと、今の時間とかって、わかります?」


直が六花に時間を聞くと、六花は服の袂から古い懐中時計を出して教えてくれた。現在、午前2時らしい。なんとなく、あと5時間もここにいなくてはいけないのかと思うと、若干だが、不安になる。


そんな時だった。




──コッ コッ




「えっ?!」


窓の外。窓ガラスを叩くというか、軽くノックをする音がする。そもそも、ここは家の二階。普通なら、叩く事も出来ないはずなのだ。


「おーい、直、もし怖かったら無理をしなくてもいいんだぞ?」


外から直の祖父の声がした。直は、六花の方を指示を仰ぐように見る。


「・・・騙されてはダメですよ」


六花が直に、静かに首を横に振って忠告する。先程までの笑顔はどこへやら、その表情は真剣そのものだった。


「えっと・・・これは、どういう事なんですか?」

「身内の声を出して、外へ誘い出すのは『八尺様』の常套手段(じょうとうしゅだん)なのです」


テレビはついているし、六花が一緒にいるものの、何だか直は怖くなった。窓を叩く音も鳴りやまない。



──コッ コッ



「ぽっ、ぽぽぽぽ、ぽぽっぽ」

「っ?!」


さらに直が昼間に聞いた、あの不気味な音も聞こえ出す。直は声にならない悲鳴をあげた。


「大丈夫ですよ、私が一緒にいますからね」


六花は直のそばに移動して、直の頭を優しく撫でた。まるで、母親が悪夢を見て泣く子供をあやすように。さりげなく、直を庇うように、窓に背を向けている。


「怖いとは思いますが、頑張って・・・窓もドアも開けなければ、貴方には何もありませんから」

「は、はい」


直は目を固く閉じ、布団と部屋に入る前に《窓口》から渡された札をギュッと握りしめる。すぐ傍に六花がいるってだけで、少しは安心できる。もしも、直がたった一人だったなら、こうはいかなかっただろう。きっと、言い付けを守れずに外へ行ってしまっていたかもしれない。


「あと5時間、か・・・私が今まで生きてきた時間よりは、遥かに短いはずなのにね」


いくら、六花が千年近く生きている狐であっても、この朝までの5時間は六花にとっても、かなり長いように感じた。


「・・・お嬢様達は大丈夫なのかしら?」


ふと、六花が部屋の四隅にある盛り塩を見たとき、塩の上部が焦げたように黒くなっていた。



  ✡



月明かりはあるものの、田舎町で街灯があまりない為、外はかなり暗い。その暗い家の周りを歩きながら《窓口》と霊夜は話す。


「もし一日ずれていたら、彼にとっては、とんでもないバレンタインデーになってましたね」

「・・・詩音、今は仕事中ですし、笑い事ではないでしょう?」


霊夜は《窓口》をたしなめる。その当の本人には、全く気にする素振りはない。むしろ、そういう話でもしていないと、やってられないといった感じだ。


「ねえ、詩音、彼はちゃんと言い付けを守れるかしらね?」

「あら?それが心配だから、わたしは六花を彼の傍に置いたんじゃないの」


二人が家の周りを歩き続けて、しばらく。七海が二人の元へ駆けてきた。


「霊夜さん、お嬢っ!」

「七海?そうか、八尺様が出たのね?」

「詩音、行きましょう」


霊夜の言葉に《窓口》は頷いた。七海と共に家に向かうと、白いワンピースを着た、身長の高い女が窓を叩いていた。


「ぽぽぽ、ぽぽっ、ぽぽぽぽ、ぽっ」

「さてと、まずはアレを引き離しますか」


霊夜が数珠を取り出す。霊夜の数珠は一種の武器で、大きさも長さも普通とは違う。


「そぉれっ」


霊夜の放った数珠が、見事に八尺様の首にかかる。


「──闇にさ迷う、招かざる客の影 求める贄はここにはあらず」


数珠は徐々に八尺様を締め上げる。その度に数珠の擦れる音がする。そして、無理矢理引き離すように、数珠を振り上げた。


「三鈴っ!!お願いっ!!」

「はいっ!!行かせていただきますわ♪」


《窓口》の呼び掛けに三鈴が応える。その三鈴の手には、神楽鈴があった。それを確認すると、静かに《窓口》は口を開いた。


「──さぁ、鬼ごっこを始めましょう」


そして、その言葉を合図に《窓口》と三鈴は揃って叫ぶ。



「「鬼さんこちら、鈴鳴る方へ!!」」



三鈴が八尺様に向けて鈴を降り下ろす。


──シャンッ


鈴の音は衝撃波に形を変え、霊夜の数珠ごと八尺様の身体を、遠くに吹き飛ばした。本来の神楽鈴の使い方とは違うのだが、三鈴はこれを武器としても使う。


「凄い・・・鈴の音だけで、ここまでいく?」

「あら、霊夜、ここからでしょう?」


《窓口》が人型の白い紙と、小さな筒を取り出す。人型の紙には一本の茶色い髪の毛と、直の名前があった。


依沙(いずな)、出てきて!!七海は鈴を」


《窓口》の持っていた筒から、純白の毛と緋色の眼の管狐が、飛び出した。そして筒をしまうと、七海から神楽鈴を受け取る。


「なら、私も・・・おいで、依弦(いづる)


霊夜も自分の管狐を出す。依弦は依沙と違い、毛の色は金色だ。


「依沙、人形(ひとがた)を持って、とりあえずは遠くへ」

「依弦は私の数珠の回収を、その後は依沙ちゃんと合流して」


二匹の管狐は各々の主人の指示に従い、暗い夜道を駆けていく。三鈴も時折、鈴を鳴らしながらその場を離れた。


「──災い被る、人の形《厄流しの雛人形》」


《窓口》の詠唱中に、依弦が霊夜に数珠を渡す。それと同時に《窓口》が神楽鈴を、向かってくる八尺様に向ける。


「ぽっ、ぽぽぽ、ぽぽっ」

「──鳴り響け《破魔の鈴音》」


──シャン


《窓口》の放つ鈴の音は、矢のように鋭い衝撃波に変わる。それは八尺様を見事に貫く。


「霊夜、鬼ごっこは始まったばかりですからね、逃げながら仕留める方法を考えましょうか」

「ええ、そうしましょう」


《窓口》と霊夜がチラッと振り向くと、すぐそばまで八尺様が来ていた。


「ぽぽっ、ぽぽぽ」

「え、嘘でしょ?!いくら何でも早い」

「──舞い踊れ、風火(ふうか)輪舞曲(ロンド)《風鈴火山》」


──シャンッ


《窓口》が再び鈴を降り下ろすと、炎と風が輪を描くように、勢い激しく八尺様に向かっていく。その間も、二人は出来るだけ八尺様から距離をとる。


「詩音、あんまり魔力を使いすぎると、身体に負担がかかるわよ?」

「大丈夫です、これでもそんなに使ってない方ですから」


霊夜の言葉に《窓口》は笑って答える。本当に、遊んでいる子供のようだ。道の角を曲がると、近くの木の上で五月が弓矢を持って待機していた。


「五月の破魔矢でいけそう?」

「んー・・・撃ち抜けるかは微妙だけどねー?あたしもやれるだけやってみるよ」

「五月さんはここで待機していますけど、アレはこちらに来ますかね?」

「しーちゃんが鈴を鳴らせば絶対に来るよ、だって、この鬼ごっこの『鬼』はあの八尺様、追われるしーちゃんとみーちゃんが『鬼さんこちら、鈴鳴る方へ』って言ったしね」


そして、五月はチラリと《窓口》達とは別の方向に目をやった。


「それに、しーちゃん達の管狐もこっちに来たよ」


五月の言葉通り、物陰から《窓口》達の管狐が出てきた。管狐達はそれぞれ、自分の主人の肩に乗った。


「ふぅ・・・ここまで、まだ30分か・・・先は長いわね」


腕時計を確認した《窓口》は、あまり時間が経っていないことに、ため息をついた。


それから暫く《窓口》達は、逃げては《窓口》か三鈴が遠くから鈴を鳴らし、五月と七海が迎撃し、また逃げるということを繰り返していた。


「誘導しつつ行動を制限するしか、方法がないっていうのが、厄介よね、詩音」

「一応、彼の身代わりの効果もあって、誘導が上手くいってるから、もう暫くは時間稼ぎも出来るけど」

「予定時間まであと3時間・・・そう思うだけで長いわ」


霊夜達は夜通し、八尺様と鬼ごっこをしているのだ。正直、疲れてきている。


「霊夜は少し休んだ方がいいのでは?」

「大丈夫よ、もう少しだけ頑張れるわ」


札を出した《窓口》に、霊夜は少し疲れた表情で微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ