効果とかよりも結局、結果
護はパジャマ姿の《窓口》に、一瞬、ドキッとしながらも《窓口》の部屋にいた。現在の時刻は午前1時。ネロはとっくに百々の要請で家を出ている。
「なぁ、やっぱり痛いのか?」
「痛いけど、それはわたしが我慢するしかないでしょ?毎回のことですし、別にいいんですけどね?」
「・・・体調とかは?」
「特に貧血とかまではいってないですね」
ソファーに頬杖をついて、さらに《窓口》はため息をつく。退屈、というよりかは、それはどこか諦めを感じさせるモノ。その時に護はどうしても、その首筋につく小さな傷に目が行く。
「なんでまた『首』なんだか」
「別に腕とかでも問題ないのですが、ただ、それだと」
「・・・それだと?」
「誰がどう見ても、予防接種する子供みたいな状況になるんですよね」
「あぁー・・・顔を背けて痛みを我慢してるのが、がっつりと見えるのか」
理由はそれだけではないらしいが、それ以上を護自身も知る意味があるのかと、ぼんやりと考えていた。それだから『一線を越えるようで嫌』に繋がる気がするけど。
「それで、護くんはいつまでここにいるつもり?」
「俺もその気になれば、鍵を使って帰れるしなあ、たまにはいいかと思って」
「わたしとしては、そろそろ寝たいのですけど」
「・・・ああ、そういうことか」
《窓口》の言葉に、護はなんか納得。別に護に帰れとまでは言ってないが、とにかく《窓口》は今、眠いらしい。
「じゃあさ、ネロ達がお前に気を使って能力を使ったりしたら、お前は受け入れる?」
「能力・・・もしかして『魅了の眼』のことですかね?でも、あれは一種の催眠術とか暗示ですからねぇ」
護の言葉に一瞬だけ《窓口》が首を傾げていたけど、すぐにどういう意味かを理解したようで。
「別に、彼らが能力を望んで使うのならば、わたしは拒絶することはしないですけどね?」
「一応、信頼されてるって解釈でいいのか?それは」
「そうでなければ、こういう事もしてませんよ」
そのまま《窓口》はベッドに潜り込む。その様子からも相当、眠いようだ。
「ネロ達が帰ってくるの待たないのか?」
「待っていて、帰ってきたのが夜明けとか嫌ですよ」
「それもそうか、じゃあ、おやすみ」
護もこれ以上は《窓口》の睡眠の邪魔になりそうだと判断したので、黙って部屋を出た。
「あら、そのままご主人と一緒に寝てしまえばよかったのに」
「一緒に寝るとか、アイツも俺も、もう子供じゃないんだぜ?亜夢さん」
《窓口》の部屋を出たところに、亜夢が笑顔で護の方を見ていた。一体、亜夢が何を期待していたのかは知らないけど。
「そういえば、亜夢さん達、夢魔は『殺人衝動』とかってどうしてるんだ?」
「基本的に夢魔は夢の中で、適度に襲っているので、あまりないですかね」
それがどういう意味なのかは、聞かないとして。その亜夢は着替えとタオルを持っていたので、風呂のついでに(気になって)《窓口》の部屋の前にきたらしい。
「夢魔は夢を見せてナンボですから」
「やっぱり、そういう時って『魅了の眼』とか能力って使うのか?」
「使うことが多いですね・・・まあ、これは難しいとは思いますけど、あたしが本気を出せば、たとえ護さんでも思うがままに出来ますよ?」
「え、いや、それは」
亜夢が護に近寄り、上目使いに見てくる。それに対して護は、ただただ、戸惑うことしか出来なかった。
「あはっ、冗談ですよ」
「冗談に聞こえねーんだけど?」
「ふふっ、それに何も『代償』は異性からでしかって訳じゃないですから」
さらに亜夢曰く、夢魔は『感情』が『代償』になり得るらしい。それは『快楽』であったり『恐怖』であったりと、様々なようだ。笑顔で護からスッと離れた亜夢は、そのまま風呂場に向かっていってしまったので、護は空いてる部屋に行く。帰れとは言われてないし、護はこの家の出入りは自由にさせてもらっているし。
「その『代償』を支払う方も、大変なんだろうなぁ・・・」
部屋のベッドに寝転がり、護はいつの間にか寝ていた。
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《窓口》が危惧(?)していた通り、ネロは朝方に帰ってきた。当の家の主はまだ部屋で寝ているので、護が代わりに話を聞くと、ネロは一応、百々を家まで送ってきたのだという。成人女性とはいえ、見た目は小学生だしな。何かあっては困るが、あの人の事だから返り討ちにできそう。
「ついでに、何故か説教までされたよ」
「ほぉー?・・・それで先生はなんて?」
「『いくら相手が主人の詩音ちゃんでも、苦痛を強いるのはお互いの精神的にも良くない』って、護と同じ事を言われた」
「で、どうすんだ?」
「一応、僕達で考えておく」
ネロ自身は《窓口》のことを考えると、このままではいけないと思っていたようではあるが。今はそれを実行出来てないだけで。さらに言えば《窓口》からも、それを強要することもないし。
「・・・なぁ、その手に持ってるのは一体、何なんだ?」
護はネロが持っていた、少し大きい壺に気付き、目を向けた。
「さぁ?先生曰く、この中には『いいモノ』が入ってるって」
「しぃと、あの人の言う『いいモノ』とか『いい事』ってさ、信用出来ない時があるよな」
「うん・・・確かにそれは解る」
《窓口》や百々にとっては『いい事』でも、それが周り(特に護)に被害をもたらす事がある。まぁ、つまり、彼女達の『ちょっとした悪戯』が、護達にとっては『天災』に匹敵するくらいに、洒落にならない時があるということなのだが。幸いなことに、まだ完全に死ぬ程のモノは、今のところ無いという事だけが救いか。それでも死にかけた事なら何度かある。
「とりあえず・・・しぃが起きたら、その中身を聞いてみたらいいんじゃないか?」
「そうだね」
そして《窓口》が起きたところで、ネロと護は《窓口》に、例の壺を見せてみた。特にネロに何かを聞くわけでもなく、彼女はその壺の蓋を開けて中を覗きこむ。
「あぁー、これは『酒虫』ですね」
「・・・どういう虫なんだ?それ」
「うーんと、何と言いますか・・・見た目は山椒魚みたいな、お酒の精です」
護とネロも中を覗き込む。《窓口》が蓋を開けた壺の中には、確かに山椒魚みたいな黒っぽい生物が一匹、何か液体と共に入っていた。一応、確認してみたが、液体はただの水だった。
「コレが人の体の中に入ると、お酒を飲んでも酔わなくなるし、水と一緒に壺に入れておけば、良酒が出来るのですよ」
《窓口》は、とっても嬉しそうに護達に説明する。あと、聞いたところ酒虫は両生類の分類でいいらしい。
「ふふっ、もう少し暖かくなったら、この子のお酒でお花見でもしますか?」
どうやら《窓口》にとっても、酒虫は『いいモノ』であったようだ。
「水からお酒って、まるで錬金術みたいだな」
「錬金術ねぇ・・・まぁ『生命の水』から、蒸留酒が出来たとも言われますしね」
「確か、悪魔の一人のハーゲンティは、水をワインに、ワインを水に出来ると言われてますよね、主」
「どっかの神様みたいなことやってんだな」
《窓口》は壺の蓋を閉めて、誰に酒虫の世話を頼もうかを悩んでいるようだ。自分で世話をする、という選択肢は全くない様子。
「こういうのは、七海とか八雲辺りが無難でしょうかね?」
「僕が持ってきたのだから、酒虫は僕が世話しますよ」
《窓口》の言葉に、ネロは穏やかに笑って、その壺を持って部屋を出ていった。
「なぁ、酒虫ってどこから持ってきたのか、ネロに聞かないのか?」
「どこからでもいいじゃないですか、そんなに重要な事じゃないですよ」
《窓口》は笑っている。恐らく、頭の中では「お花見、いつにしよう」とか、そんなことを考えていそう。いいのかそれで。
「うふふ、楽しみですね」
その《窓口》の様子を見た護は呆れて、ため息をついた。そしてそれは《窓口》には届いていないようだった。




