豆まきの効果
「そういえば、豆まきに効果ってあるものなのか?」
「うーん、それは・・・ないとも、あるとも一概には言えませんよ」
護の疑問に《窓口》は少しだけ困ったように答えた。
「実際、ネロくんに、ただ炒った豆をぶつけたところで、致命傷にはなりませんしね」
「致命傷『には』だろ?でも、それでも効果がないとも言えないってのは、なんでだ?」
「護くん、豆まきにも正式なルールがあるというのは、知ってます?」
「それは知らない」
「まぁ、その正式なルールで、わたしがネロくんに炒った豆を投げれば、かなりの致命傷になるんでしょうけどね・・・?」
「貴女の場合、正式な豆まきのルールじゃなくても、僕達に致命傷を負わせることは可能ですよね?」
「えーっと・・・それに『鬼は外』の鬼っていうのは、ある意味、比喩ですからね」
ネロは苦笑しているが、彼女は若干、気まずそうにネロから視線を外す。まぁ、さすがに助手であるネロに、そんな事をしないとは思うけども。
「ふーん、それにしても、なんで撒くのは『炒った豆』なんだ?」
「あ、それはね」
『豆』=『魔滅』に通じるのだという。豆は芽が出ると縁起が悪いと言われているので、それを『炒る』=『射る』ことで芽が出ることがない。さらに『魔目を射る』という事とかけているのだとか。だからこそ、今でも『鬼は外』と言って炒った豆を撒く。場所によっては鬼が悪いモノとされていない事もあって『鬼も内』と言うらしいが。
「だけど、その豆を撒いたところで、致命傷を与えられるかというとね、正直、微妙なんですよね」
「詩音ちゃん、それでも鬼にとっては豆って結構、ぶつけられると痛いのよ?」
「先生、それは多分、人間でも痛いと思いますけどね?」
《窓口》は百々の愚痴に苦笑するが、それをさっきまで亜夢と鏡花が裏庭でネロに遊びとはいえ、やってたんじゃないかと護は思う。敢えてそれを口に出さなかったのは、その後がなんか怖い気がしたから。
「それで、先生はここにいて大丈夫なんですか?この時間でも学校のお仕事は、まだあるのでしょう?」
「え?・・・ウソ、もうこんな時間?!」
《窓口》の言葉で、百々が壁にかかる時計を見る。そして、慌てて荷物を掴んで、立ち上がった。護も何を思ったのか、同じように立ち上がる。
「それじゃあね、詩音ちゃん、遅くまでお邪魔しました」
「じゃあ、俺もそろそろ行く」
「うん、じゃあね、護くん」
百々と一緒に応接室を出ていく護を、笑顔で《窓口》とネロは見送った。
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慌てて応接室を出た割りには、百々はのんびりと丘を下る。それには護も不思議に思う。
「百々ちゃん、結構、急いであの家を出たわりには、全く急いでないっすね?」
「飛鳥くんは詩音ちゃんとネロくんの間柄については、どれだけ解っているのかなぁって思いましてね」
護は《窓口》とネロの関係と百々に言われて、どういうことなのかと百々に尋ねる。
「なんというか、ただの魔術師と仕え魔の関係ってだけではないのね」
「それはそうでしょ、って今更ですか?」
「まぁ、あそこの仕え魔達はみんなそうだと言えるんだけどね」
護には百々の言おうとしている事が、いまいちよくわからない。
「あのね飛鳥くん、妖魔って種族にもよるけど、少なからず殺人衝動があるっていうのは、解ってる?」
百々の言葉に護は頷く。そして、それが何を意味するのかはなんとなく予想がつく。それは学校でも少なからず、言われていたこと。
「つまり、アイツはその『代償』っていう事ですか」
妖魔は人間を捕食する。最近では、特に人間を捕食しなくてもよくなっているが、それでも衝動的なモノが出てしまう。一緒にいる人間がその衝動を抑える為の、形は様々だが『代償』となることがある。
「吸血鬼は『血液』を始めとした『体液』を『代償』とする場合が多いのだけど」
「多いというか、殆んどの吸血鬼がそれっすよ」
そういう事を、百々は護に言いたいわけではなさそうだが。わざわざ話題に出すのだから、そういう関係の事だろう。
「普通なら吸血鬼は『代償』を得るにも、何かしらの能力を使うはずなのですけどね?」
「ネロは普段からそれを使ってないってことを、先生は言いたいんですか?」
「そういう事、だってあまり苦痛を強いるのは、お互いの精神をすり減らす事に繋がるのよ?」
どちらかと言えば、ネロが能力を行使してないのではなくめ、主人である《窓口》の魔力に掻き消されるだけだと護は思うが。
「その可能性もあると思って、こっそりネロくんの『目』を通してちょっと記憶を覗いたところ、自ら進んで行使はしてないみたいよ?」
「え?先生って、そういう事ができるんですか」
「まぁ、私が視ていることに詩音ちゃんは気付いてたみたいだけどね」
相変わらず《窓口》は、わかっていながら害がないと判断すれば何も言わないのだから。少しは注意というか、警戒をした方がいいのではないだろうか。
「それでも私や他人に視られたくない事は容赦なく妨害してきますよ、詩音ちゃんはね・・・」
「そうなんですか・・・」
「特に飛鳥くんが仕事上、知ろうとしてる事とか一番知りたいであろう事柄に関してなんかは、特にね」
護はその言葉を聞いて、やはり《窓口》は何かしら事件に関わっているのかと思いを巡らせる。あと、そういうことを護は百々に言ったっけ?と首を傾げた。あとで《窓口》から聞いた話だが、百々は他人の目を通じて、視界や記憶に干渉ができる能力を有しているそうで。これはあくまでも百々目鬼の能力ではなく、百々自身が生まれ持った能力なんだそう。時折、必要であれば百々と視界の共有もできるという。それを第三者にも同じように共有することもできるのだというのだから驚き。
「・・・でもさ、いつ俺が先生にそれを頼んだ?」
「頼まれてないわ、でもね、たまたま見ようとしなくても見えちゃう事もあるのよ・・・能力の一部を制限しててもね・・・まぁでも、彼女が普段から見ている世界は私にとっても長時間は耐えられるモノではないからね・・・できれば視たくはないわね」
それが元で、百々が《窓口》に何かされたらどうするつもりなのだろう。多分、ないとは思うけど。
「で、それを知ってどうするつもりだったんすか?」
「別に、どうもしないわ」
百々の言葉はあっけらかんとしていた。思わず護はずっこける。
「え?知ってどうするとかないの?」
「ないわね」
「じゃあ、何のために?」
「言ったでしょ?たまたま見えちゃうって」
《窓口》といい、百々といい、護の周りは理由のない行動をする奴が多すぎる。護は頭が痛くなった。
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夜、護は《窓口》の家にいた。というのも、色々とネロに聞きたいことがあったので、仕事終わりに無理を承知で《窓口》の家を訪ねたのだ。
「悪いな、無理言って・・・別に今日じゃなくても良かったんだけど」
「別に構いませんよ、キミの場合は普段、仕事が忙しいんですから、行動したい時に行動をしないと、なかなか機会がありませんものね」
玄関では珍しく《窓口》が護を出迎える。いつもならネロや亜夢がやっていること。
「ネロ、入っても大丈夫か?」
《窓口》と離れ、護はネロの部屋に一人、向かう。ドアをノックすると返事があったので、入る。
「突然、何の用かと思ったよ」
「悪いな」
「それで、何かあったのか?」
ネロに聞かれて、護は百々から聞いたことを話した。あとそうしている理由も聞いた。
「うーん、また難しいことを聞くな、護は」
「そんな難しいことか?」
「強いて言うなら、あまり効かないのがわかってるっていうのと『一線を越えるような気がして嫌』かな」
なんとなく、ネロが言おうとしていることは護にもわかった。それなら仕方ない。
「そういう事か、でも、あんまりそうしてるとお互いに辛いだけだって、先生がさ」
「うん、それは『僕』もわかってるよ、でもね」
「アイツ自身の力が邪魔をするのか・・・」
「そういう事だね」
結局のところ、ネロ達が能力を使おうが使わまいが、対象の《窓口》的には然程変わらないのかもしれないけど。まぁ、それでも何かの切っ掛けで、吸血鬼のネロに暴走されても護達は困るのだが。
「うん、まぁ、そうならないようには」
「ならさ、ネロ・・・こういうのは?」
「なんだよ・・・えー・・・さすがにそれは」
「アイツの反応が見てみたいな、俺は」
護がネロにこっそり耳打ちすると、ネロは照れたような苦笑いをする。護の表情はどこか悪戯っ子のようだった。




