中身のない話
丘の上に建つ、一軒の洋館の裏庭。その裏庭にあるベンチに《窓口》とリオネットが並んで座っていた。
「珍しいな、二人して外に出てるなんて」
「あら、護くんじゃないですか、ご機嫌いかが?」
「あー、まぁ、ぼちぼちかな」
《窓口》の言葉に若干、戸惑いながらも、護はリオネットを見る。彼女はいつも通りの無表情。
「リオちゃんは相変わらずだな」
リオネットの無表情と無反応にも慣れた。たまに、心は折れそうになるけど。それはもう、バッキバキに。
「それで、護くんは今日は何の用ですか?」
「あの家だが、あれから不幸な事は起きなくなったそうだよ」
「そうですか、それは良かったですね」
護の言葉に《窓口》は、そんなに興味は無さそうだ。特に報酬が入る訳でもない、ただのお手伝いだからだろうか。
「ついでにもう一つ、あの箱を作ったとされる《呪術師》なんだが」
「どうしました?」
『箱を作った《呪術師》』の言葉に《窓口》は反応する。
「一応、事情聴取をしたんだが、既に軽く発狂しかけていた」
「それで、何が言いたいんですか?」
「お前が《呪術師》に対して、何かやったのか?」
《窓口》は、何もしてないと首を横に振る。透に頼んで、犬神に祟ってもらっているだけなので、《窓口》自身がが何かをした訳ではないのは事実。
「あの箱が、わたしでは扱えないのは、キミもあの場でわかっているでしょう?『人を呪わば穴二つ』『因果応報』『自業自得』、その《呪術師》はそれ相応の報いを受けているだけでは?」
《窓口》の言い分は最もだ。それでも護は納得がいかない。
「わたしでも扱えない呪詛は返せない」
「そうか」
「そんな事したら、わたしはとっくに死んでます」
「それは悪かったな」
《窓口》が、そこまではっきりと言うことは、殆んどない。つまり、本当に何もしていないと護は判断した。
「じゃあ、透くんが《呪術師》に対して何かしているのか?」
「さぁ?彼の依頼外の行動まで、わたしが知っているとでも?」
《窓口》の仕事はあくまでも依頼人と相談員の『仲介役』。そして時々、彼女は相談員個人に入った依頼の手伝いをしているだけなのだ。
「透くん達のプライベートに関しては、殆んどわたしは知りません」
「あくまでも仕事上の付き合いってか」
「そうですよ?何を今更な事を言っているんです?」
ベンチから《窓口》とリオネットは立ち上がって家に向かう。そろそろ肌寒かったのだろう。
「それと、まだ聞きたい事がある」
「まだ何か?」
「『コトリバコ』は女性と子供に効果があるんだよな?なのに、なんで、依頼人の父親にも被害があった?それに少し調べたら、あの箱の効果は女性と子供が内臓を引きちぎられて死ぬやつらしいじゃん・・・それも殆どなかったのは?」
「多分、それは父親が『殺したい対象』だったから、でしょうね・・・後者に関しては、座敷わらしが引き込んだ幸運で相殺していたのかもしれないわ・・・そこまではわたしではわかりませんが」
《窓口》は、護の問いかけに対する答えを考えながら歩く。
「どうしてお前はそう言える?」
「キミは、あの箱があった場所はどこだったか、覚えていますか?」
「ああ」
「それなら、少し考えればわかりますよね?『誰が』あの箱の呪詛の影響を、一番強く受けるのか」
《窓口》は護に問う。問うというよりは、言い聞かせるようだ。護はただ黙って頷くだけ。振り返る事もせずに、彼女は話を続ける。
「それと、あの箱はね・・・製作者でさえも殺しかねない代物なのよ?」
《窓口》が玄関のドアを開け、靴を脱いで家に上がる。それでも護との会話は続く。
「なんで、そんな危険なのを作製の依頼したんだか」
「相当、相手を殺したかったんでしょうね?それも自分の手を汚さずに・・・それか、あそこはあの地域では座敷わらしがいると有名な家でしょう?座敷わらしをあの家から追い出したかったのかもしれない」
《窓口》はやれやれと自分の部屋のドアを開け、さっさと中に入る。その後に護も。
「その依頼人の父親に借金した奴に関しては、事情聴取するにも完全に発狂してて、どうにもならなかった」
「それは残念でしたね」
「何か憑いてる可能性もあるから、それも調べておこうとは思うんだ」
「例え何か憑いてても落とす方法が、キミ達にあるの?」
「・・・ない」
《窓口》は「それではダメじゃない」と笑う。護はそれには何も言い返せない。もし、憑いてるなら《窓口》に落としてもらうつもりだったのは内緒。きっと内緒にしててもばれるけど。
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《窓口》は相変わらず、届いた大量の手紙の整理。それをただ、護は眺めている。
「相変わらずの手紙の量だな」
「この時期になると、受験生からも来るんですよね」
「それは、もう実力の問題じゃないかな」
「こればかりはそうなんですよね」
ボックスに手紙を放り込みながら《窓口》は苦笑する。
「精神的に不安になるのは、わかるけどな」
「勉強はちゃんとやってれば、それなりに結果は出るものよ」
「努力は報われる、か?」
「わたしは、あまりその言葉は信用してませんがね」
《窓口》の言葉に、護は首を傾げる。元々が異常で、努力とは無縁な彼女なので、そう思っても仕方ないのか。
「お前は努力をしたことはないのか?」
「持ってる能力が能力ですからね、努力をしなくても実力だけで何とでもなってますから」
《窓口》の能力は《夢現の創造と破壊》。だが、それは私利私欲の為に使ったことを、護は見たことはない。実際は、誰も気付かない所では使っていたりすることはあるのだろうけど。
「わたしの能力は異質ですしね、こと戦闘に関しては実用的じゃないです」
「確かにな」
《窓口》の言葉は自虐的だが、それは護は否定しない。事実なので否定もできないのだが。
「まぁ、わたしのことはいいじゃないですか」
「今となってはな、それで、お前のところの受験生達はどうなんだよ?」
「あとは結果発表だけですよ」
「そうか、良い結果だといいな」
護の言葉に《窓口》はそうですねと笑った。
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智志と水月は学校に行っていた。今日は合格発表がある。ただ、中高一貫なので珍しいことではあるが。高校とは違い、自由登校はないので、受験が終わっても、授業のある日は学校に行く。
「智志、結果はどうだった?」
「受かった、水月は?」
「俺も受かったよ」
水月は嬉しそうだ。二人ともやることはやってきているので、当たり前だと《窓口》には言われそうだが。
「まぁ、姉さんに良い報告が出来るのは、いいことだよな?」
「それはそうだよ」
《窓口》は、二人の努力を信用していない訳ではないだろう。だけど、その努力の後押し(?)に御守りまで作ってくれたのだ。良い報告が出来ない方が、彼女には悪い。
「きっと姉さんのことだから、それはオレらの実力だとか言いそうだよな」
「あと、努力と実力は違うよ、とかね」
智志と水月は「それは言いそう」とか言って笑う。
「智志、そろそろ報告しに家に帰ろうか」
「そうだな、姉さんの反応も楽しみだしな」
二人は学校を出て、丘の上に建つ《窓口》の家に向かって、自転車を漕ぎだした。




