箱の中身
とある一室で《窓口》達は誠の父親と対峙して座っている。
「貴女方が気になるモノというのは、この部屋にありましたかね?」
「えぇ、たった今、この部屋にこうしていて、今回の件の原因となるモノを見付けました」
誠の父の問いかけに《窓口》は自信満々に、笑みを浮かべて断言する。
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──《窓口》達が今、この部屋にいるのは、彼女の一言からである。
「どうもこの部屋から、強い呪力を感じますね」
「誠さん、この部屋は?」
「ここは、父の部屋です」
《窓口》が誠に頼み、優月に家の中を案内してもらっていた時に《窓口》は突然、ある一室を指差した。
「中に入ることは、できませんか?」
「今日も体調が優れないので話をするのは困難だと、旦那様から言付かっております」
優月の言葉に《窓口》は若干、眉をひそめて、透に確認をとるように振り返る。そして、何を思ったのか、優月にも聞こえるように透と相談し始める。
「別に、わたしは依頼人のお父様に会えないのは、構わないのですが、このままだと悪化するだけでしょうね?」
「僕らが入れないなら、呪術だった場合は、そのままにするしかないからね」
「呪具だった場合、下手に第三者が触って呪いを被るのは避けたいんだけどな」
《窓口》達の会話を聞いていた誠は、それは困ると《窓口》達に言う。
「貴方の選択肢は二つ」
《窓口》は誠に向かって二本の指を立てる。その表情は真剣そのもので、決して冗談とか、遊びでないことを思い知らせる。
「一つは、貴方がわたし達をこの部屋に入れるようにすること、そして、もう一つは現状をそのままにしておく」
静かに《窓口》は誠と向き合い、さらに続ける。
「さぁ、選ぶのは依頼人である貴方です」
「前者なら、僕らは貴方の為に持てる力を尽くすけど、後者ならこの家の人間を全員見殺しにすることになるね」
《窓口》と透の言葉に、誠は絶句する。そして、チラリと優月を見る。その優月は、ダメだと言うように首を横に振った。
「わたしとしては、どちらでもいいんですけどね?この家で誰がどんな形で死んでも、正直、関係ありませんし」
「僕も依頼を受けた身だけど、ここまで行動を制限されてると、どうにもならないかな」
「おいおい、それをわざわざ依頼主の目の前で言うことか?」
《窓口》は珍しく業を煮やしているようだ。まあ、なかなか解決するために、部屋から動けなかったのが要因だと思うが。
「わかりました・・・ボクの方から、父に掛け合ってみます」
「坊っちゃん?!」
「ふふっ、ありがとうございます」
誠の言葉に《窓口》と透は満足そうに頷いた。
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そして《窓口》達は優月に部屋に案内されて今に至る。誠の父親の部屋は8畳の和室で、床の間には生け花と組木細工が飾られていた。誠の父親と対峙して座る《窓口》はその組木細工の一つを指差す。
「あの組木細工の箱を、わたしに見せていただけますか?」
「誠、持ってきなさい」
誠が《窓口》の目の前に組木細工の箱を置く。それは、見た目は本当に普通の組み木細工だ。それを《窓口》はじっと見つめる。
「この箱は誰から貰ったとかを伺っても?」
「この箱は私に借金をしている男が、借金の形にと置いていったモノです」
「借金の形に呪詛を置いていくなんて、相当、恨んでますね、主」
「依頼人のお父様を殺して、借金をチャラにするつもりだったのかしらね?」
なんにせよ、この箱が原因なのは間違いないらしい。いまいち、護はこの箱が何なのかがわかっていない。
「なぁ《窓口》、コレは一体何なんだ?」
「コレは『コトリバコ』ですね」
「『コトリバコ』?中に小鳥でも入ってるのか?」
護の言葉に《窓口》はそれは違うよ、と首を振る。そして紅いスカートのポケットから、ペンと白い紙を出し、何かを書く。そこに書かれていたのは『子獲り箱』の文字。
「『コトリバコ』を字にすると、こう書きますね」
《窓口》から紙を受け取り、護は絶句する。なんだか、その字面だけでも恐ろしく感じた。
「この箱って、開けて中身を見ても」
「駄目ですよ」
箱に手を伸ばした護の左手を、慌てて《窓口》の右手が掴む。かなり強めに掴まれ、護は自分がマズイ事をしそうになった事を、直感的に理解する。
「護くん、キミはわたしだけでなく、ここにいる人達まで殺す気ですか?」
「え・・・?じゃあ、お前は箱の中身を知ってるのか?」
「この箱の中身は、水子の死体の一部です・・・実際に入れる子供の年齢によっては入れる部位などは変わりますが」
「だから、座敷わらしと相性が悪かったんだろうね」
「水子・・・?」
「水子というのは、出産後の日のたたない赤子、または流産した胎児のことを言うんです」
《窓口》の説明に、透とネロ以外が驚愕する。それはそうだろう。この箱に、そんなとんでもない代物が入っているなんて、誰も予想していなかったのだから。
「それじゃ、コレは壊せないのか?」
「呪いの性質上、壊すことができないんだよねえ」
「神社でも清めるなりして、呪いを弱めることしかできないですね」
《窓口》もそれではお手上げといった様子だ。
「で、この箱が『コトリバコ』って言われるのは?」
「一説には家の女性と子供を苦しめて殺し、子孫を奪うから『子獲り箱』と言われています」
《窓口》は自分の右手の中指に、護がつけているのと同じ『破邪の指輪』をはめる。
「ふぅ・・・わたしもコレにはあまり触りたくないんですけど」
「『コトリバコ』は特に女性と子供に効果があるモノだしね」
「な・・・?それなら《窓口》は止めておいた方がいいんじゃ・・・」
護の制止を聞かずに《窓口》は箱を調べ始める。調べるといっても、ただ箱を手にとって外側を眺めただけ。
「コレは最近、作られたモノか・・・」
「主達は、この箱に何人使われてるとかもお判りで?」
「これはシホウっぽいですね」
「シホウ?」
《窓口》から箱を受け取った透が、色々と箱を見て、口を開く。コトリバコは、使われてる水子の数で呼び方が変わるらしい。一人なら「イッポウ」二人なら「ニホウ」という具合に。
「つまり、この中には四人分の水子の死体が入っている」
《窓口》は、さらに説明する。この箱の最大は八人の『ハッカイ』で、コレは作ることは禁じられているらしい。つまり、作れる最大は七人で『シッポウ』と言われるモノのようだ。
「あとは言わなくても解ると思いますが、使われる水子が多ければ多いほど、呪いの力は強くなります」
「それで主、コレはどうするんです?」
ネロが《窓口》にコトリバコを見せる。《窓口》でも扱えないとなると、どうしようもない。
「家に持って帰る訳にもいきませんからね、神社で一実達に頼むのがいいでしょう」
「それは僕が持って行った方がいいよね?《窓口》さん」
「お願いします、透くん」
《窓口》とネロが透に頭を下げる。それを透は笑って了承した。
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桐敷家を出た《窓口》と透は、神社にいた。護はネロと帰宅。
「さて、コレを持ってきた人物と、作った人物に対してですが」
「どうする?一応、特定は出来たけど」
「こればかりは、わたしも、どうにもならないのですけど?」
《窓口》はコトリバコを一実に預けて、賽銭箱の隣に座っていた。ちなみに、彼女がコトリバコに触ったことを伝えると、一応ということで、一実にお祓いしてもらっていた。
「今、下手に殺すと、護くんは真っ先に僕らのところにくるよね?」
「でしょうね」
《窓口》は透の手伝いでいるし、透も原因の究明と事態の収拾が誠からの依頼なのだ。それ以上のことは、本当なら動かなくてもいい。
「透くんの犬神に頼んで祟らせるっていうのは?」
「それならできるよ」
「できるだけ時間をかけて、祟ってもらえますか?」
《窓口》の言葉に透が黙って頷き、二枚の護符を出す。
「──出てこい《犬神》」
透の持つ護符から、大きな黒い犬が二匹現れる。
「無月、朔、この二人なんだけれど」
透が二匹に情報の書かれた紙を見せる。犬神達は頷いてどこかへ駆けていった。《光里家》は憑き物持ちの家系である。勿論、透にも憑いている。透の母が犬神を持っていたので、その子どもである透も犬神憑きだ。ちなみに、従姉妹の影谷 霊夜は管使い。元々は《光里家》が管憑きだったのだが、透の叔母に管狐が憑いて、そのまま嫁に行った結果らしい。
「ぱっと見だと、無月ちゃんと朔くんの見分けが、全く出来ないですね」
「よく見ればわかるんだけどね、無月は目が紫黒色、朔は目が灰色だしね」
二匹の犬神が走り去った方向を眺めていた《窓口》に、透はそろそろ帰ると言って石段を降りていく。《窓口》はそれも、ただ眺めるように見送る。
「・・・さて、わたしも帰りますかね」
大きな伸びをして《窓口》も石段を降りていった。




