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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
コトリバコ
103/225

原因となる箱

「さて、二人は今日、どうしますか?」


《窓口》の問いかけに、護と透は頭が痛い。ネロは主人である《窓口》が桐敷家に泊まると言えば、二つ返事でそれに従うのだろう。


「別に俺も鍵を持ってるから、泊まるとかなら着替えの心配はないが」

「正直、僕達が帰ったところで、この家の状況は良くならないしねえ」


二人の言葉を聞いて《窓口》は「そうなんですよね」と小さく呟いた。それ以降、何かを話すでもなくテーブルに頬杖をついて、窓の外を眺めている。


「で、しぃはどうするつもりなんだ?」

「正直な話、二人がどうするかで決めようかと思っていたんですけど・・・」


《窓口》は困ったように、護と透に視線を移している。だが、その二人も彼女の意見で動くつもりだったのが、見ただけでわかったのだろう。苦笑していた。


「主が帰るにしても、すぐここに来れますしね」

「帰った方が状況が悪くなるなら、ここにいた方がいいでしょうか?」


《窓口》が、今度は誠に視線を移す。誠は少し悩んでいたようだが。さすがに、依頼人には迷惑をかけられないのは《窓口》達もわかっている。


「家の者に、確認してきても?ボクの一存では何とも言えませんので」

「そうですね、お願いします」


《窓口》は誠に頭を下げる。これでも状況に合わせて、色々な手段は考えているのだろう。



  ✡



四人は桐敷家に泊まっても良いと、誠から告げられたので、桐敷家に留まることにした。そして《窓口》は突然、透に疑問を投げかける。


「そういえば透くん、この家の人間関係って調べましたか?」

「そこは《情報屋》の亜星(あかり)ちゃんに頼んであるよ、資料は持ってきてあるから、またあとで」

「お前らって仕事上とはいえ、仲がいいな」


《窓口》と透の会話を聞いていた護は若干、呆れた様子。


「あれ?護、焼きもち?」

「ネロ、それは違う」


そんな、護の様子を見ていたネロがにっこり笑って、護をからかっている。護は否定しているけど、本当に素直じゃないねとネロは言う。


「でも、しぃ?この家の人間関係を調べて、どういう呪術かが判るのかよ?」

「そんなの、判る訳がないでしょ?」

「こういう呪術とかによる案件は、誰が恨みを持っているかを調べる必要があるんだよ」


透の言葉に《窓口》は、うんうんと頷く。例え、呪咀を加害者や《呪術師》に返すにしても、下手をすれば、無関係な人間をも巻き込んで殺しかねないという。彼女は基本的に、自分の呪術で無関係な人間を巻き込むことを嫌う。護もそういう彼女の考えは共感するが。


「それで、何か見付かったかい?《窓口》さん」

「まだ、気になったモノも様子もないですね」

「そもそも、この状況が呪具によるものなのか、呪術によるものなのかが判っていませんからね」


頬杖をつきながら、鏡を覗く《窓口》の横で、ネロもこの状態には困っているようだ。


「そうだ・・・ネロくん、少しキミに頼み事なんですが・・・いいかしら?」


《窓口》が何かを思い付いたらしく、ネロを呼び、何かを耳打ちする。


「えっと・・・」

「・・・はい、かしこまりました」


《窓口》に、にっこり笑ってネロは頷く。一体、彼女が何を指示したのかは護と透には聞こえなかったし、わからない。



  ✡



夜中。護は何か違和感を感じて目を覚ます。隣では《窓口》が小さく寝息を立てて寝ている(離れてはいるが)。


「・・・しぃ」


護が寝ている《窓口》を軽く揺する。熟睡してるのか、中々起きない。というか、彼女はなんでこんな状況で爆睡できるんだ。


──カタン


どこか遠くで物音がした。だが、それは一回だけではない。


「しぃ、起きろ」

「んぅ?・・・どうかしたんですか?」


凄く不機嫌そうに、目を擦りながら《窓口》が護を見る。そして起き上がることもせず、何事かと護の方に身体を向けた。


「今、何か物音がした」

「物音?・・・気にすることはないですよ」

「気にすることはないって、お前な」


《窓口》の言葉に護は呆れるが、危機感も何もない彼女の言葉なので、本当に大丈夫なのかわからない。ただ、不安だけが募る。


──コトン


「おい、本当に大丈夫なのかよ?」

「大丈夫ですって、きっと座敷わらしがどこかで遊んでいるんでしょう」


そういうと《窓口》は、再び布団を被る。どうも、眠気の方が勝っているらしい。


「ならいいよ、俺は少し外を見てくる」

「・・・全く、キミは仕方ないですね・・・わたしも一緒に行きます」


部屋を出ようとする護に、渋々といった感じで《窓口》は、外していた髪飾りを着けて、ベッドから出てくる。


「別に俺はお前に無理にとは言わないけど」

「キミに何かあった方が、わたしは嫌です」


《窓口》と護は静かに廊下を歩く。物音が聞こえた方向には、少し離れたところに部屋が一室あった。


「この部屋って何だろうな?何だか、隔離されてるようにも見える」

「入ってみます?」


悪戯っ子のように《窓口》が笑顔を浮かべて護を見る。《窓口》が部屋の戸に手を触れた瞬間。


「何をされているので?」


いつの間にか《窓口》と護の背後には、優月(ゆづき)がいた。


「勝手に出歩かないように、と言ったはずですけど?」

「あら、すみませんね・・・急にお腹が痛くなりまして、こんな夜中ですし、皆さんに声をかけるのは迷惑かな、と思いまして」

「そうでしたの」


とっさに《窓口》が護を庇うように、それとなく理由を言う。


「そうしたら、帰りがわからなくなってしまいましてね」

「・・・彼がいるのに、ですか?」

「彼は少し心配性でして、わたしは別についてこなくてもいいと言ったのですが」

「そりゃ、心配になりますって、いくらなんでも女の子が一人で夜中に知らない家を出歩いて、何かあったら嫌じゃないですか」


《窓口》の言葉に乗っかる形にはなったが、護も優月に説明する。それに疑問はなかったのか、優月は二人を案内すると言って、前を歩く。部屋に着くと、優月は「今度はちゃんと家の者に声をかけてからお願いします」と二人に頭をさげて、部屋のドアを閉めた。


「ふう、なんとかやり過ごせましたね」

「よく、あんな言い訳も思い付いたな」


《窓口》と護は廊下に誰もいないのを確認すると、安堵のため息をつく。それにしても、霊とかよりも優月の方が怖かった。音もなく背後にいるとは。


「でも、この短時間ですけれど、どこからこの悪い気が出てるのかがわかりました」

「原因を見付けたのか?」

「あくまでも悪い気が最も集中する場所だけです、とりあえず、それは明日にしましょう」


そして《窓口》はモソモソとベッドに潜り込む。護も、そうだなと《窓口》の隣のベッドに入る。が、それから暫くしても《窓口》は寝付けないのだろうか、モソモソと動いているようだ。


「・・・しぃ?」

「あ、起こしてしまいました?」

「寝れないのか?」

「えっとですね、少しだけ寒いかなと」


《窓口》の言葉はどこかぎこちなく、寒いというのは少し嘘が混じっているようだ。本当は別の理由で寝れなくなってしまったのだろう。無理に彼女を起こすんじゃなかったと、護は少し後悔した。


「毛布、そっちにやろうか?」

「そうしたら、護くんが寒いでしょ」

「なら、こっち来るか?」

「それはそれで・・・」


《窓口》は護に迷惑だからと言うが。


「むしろ、隣でゴソゴソとされてる方が、気になって俺が寝れない」

「えー・・・」



  ✡



朝。護は目を覚まして、一瞬だけ、今置かれている状況に驚く。だが、すぐに夜中に《窓口》を起こしたことを思い出す。結局、護と《窓口》は一緒に寝ることになった。


「・・・しぃ、起きろ」


護は静かにベッドから出て、身仕度を整えてから、寝ていた《窓口》を起こす。相変わらず熟睡する《窓口》は、揺すっても起きない。筋金入りの寝起きの悪さだと思う。


「《窓口》、仕事の時間だぞ、起きろ」

「・・・んぅ・・・あと、5分」

「あのな、今は《窓口》の仕事中だろ」


護の、その一言が効いたのか、寝惚けてはいるが《窓口》が、ムクッと起き上がる。


「おはよう、しぃ」

「・・・ん、おはようございます、護くん」


大きく伸びをする《窓口》を見て、本当に緊張感がないなと、護は呆れて何も言えない。


「それで、どうするんだ?」

「そうですね・・・まずは、ネロくんにも話を聞きたいところです」

「何か調べてもらったのか?」

「はい、夜中に、この家の中をね」


《窓口》がネロに耳打ちしていたのは、そういうことだったのか、護は少し納得。《窓口》が部屋の窓を開けると、一羽の烏が部屋に入ってきた。


「ご苦労様です、ネロくん」

「それで、何かわかったのか?」


《窓口》が手を伸ばすと、烏のネロは、いつもの人の姿に変わり、彼女の手を取った。


「僕が気になったところは見てきましたけど、特に変わった様子や呪具というのはなかったです」

「そうですか」


ネロの報告に《窓口》は不思議そうに首を傾げた。


「もしかしたら、普通の置物に紛れた呪具か・・・それとも」


何かを考え込む《窓口》は、とりあえず、誠に話を聞こうということにした。

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