不安の的中、その原因
とある町にある、桐敷家の前。護に会うやいなや《窓口》は、やっぱりかという表情を浮かべる。
「なんで、護くんがここにいるんですかね?」
「それ、わかってるのに聞くなよ」
「あら、ばれてました?」
《窓口》の隣には透とネロがいて、護の隣には今回の依頼人の誠がいる。
「結構な荷物だな、お前」
「一応、色々と準備をね」
《窓口》は珍しくキャリーケースを持っていた。お泊まりでもする気なのかと護は思ったが、そういうつもりではないらしい。
「もしかしたら、霊とか呪術による可能性も考えて、ですよ」
「そういうことか」
「そういうのも含めて、この家の人に話が聞ければ、一番いいんだけどね」
その透の言葉に、誠が少し困ったような表情を見せたのを、護と《窓口》は見逃さなかった。
「何か話を聞くのは不都合でも?」
「いや、それが・・・ですね」
「どなたか、体調を崩されたようですね?」
《窓口》の言葉に、誠は驚く。どうやら図星のようだ。それでは思うように話は聞けそうもない。護はさっそく壁にぶち当たった気分だった。
「それならば」
《窓口》は、何かを思い付いたとでも言うように、ポケットから一つのブローチを取り出す。そのブローチは、まるで小さな鏡のようだった。
「これは?」
「もし、わたし達が、貴方のお家の方に会えず、話を聞くことができない場合の『保険』と考えていただければな、と」
「はあ、そうですか」
誠は《窓口》からブローチを受け取って、それを左胸につけた。
「できるだけ家の中を動く時は、ソレはつけたままでお願いします・・・何か言われたら魔除けの類いだと答えて頂ければそれで」
「はい、わかりました」
《窓口》の言葉に、誠は素直に応じた。今日、ここに来るのはこの四人だけらしい。
「それでは、中にご案内します」
誠に促され、四人は桐敷家の敷地内に入る。と、その瞬間から《窓口》とネロ、そして透の表情が一変する。
「《窓口》さん、気付いた?」
「あ、やはり透くんもわかりますか」
「これは魔力とは少し違いますよね?主」
《窓口》達はすぐに何かを感じたようだ。だが、護にはよくわからない。すると、突然《窓口》がポケットから、今度は一つの指輪を出した。護に近付くと、手を取りながら囁く。
「護くん、コレをつけておいてくれますか?」
「なんだコレ?指輪?」
「見た目は指輪だけど、御守り」
《窓口》が護の右手の中指に、そっとその指輪をはめた。銀の土台に無色透明な石が一つ装飾されている。
「どういう指輪なんだ?これ」
「これは『破邪の指輪』と言いましてね、御守りを指輪型にしたと考えていいわ」
《窓口》が作ったモノらしいので、効果は心配いらないだろう。いくら、護が魔力とかの影響を受けにくいとしても、保険として《窓口》がこういうモノを護に渡すということは、相当、今回は危険らしい。
「それほど状況は悪いんだな?」
護の言葉に《窓口》と透は頷く。原因までは、まだわかってはいないようではあるが。
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とりあえず、四人は誠の後について、桐敷家の屋敷の玄関までやって来た。桐敷家の屋敷は大きくて、旧い日本家屋だ。誠が玄関の戸を開けると、そこには一人の女性がいた。
「ようこそ、お越しくださいました」
「彼女は中井 優月さん、かなり長く、ここのお手伝いをしてくれてるんです」
優月に、四人もそれぞれ挨拶をする。
「お部屋にご案内させていただきますので、どうぞお上がりください」
「お邪魔します」
《窓口》達は玄関から何か気になるモノがあるか、それとなく見ている。
「玄関に何かあったか?」
誠と優月の後に続きながら、護は《窓口》に小さく尋ねる。だが、彼女は黙って目を伏せ、小さく首を横に振った。彼女達が見た所、玄関には何もなかったようだ。
「こちらでお待ちいただきたいのですけれど、勝手に屋敷内を出歩くことのないようにお願いします」
《窓口》達が通された客室は、リフォーム済みだったのか、洋室だった。それに少し拍子抜けする。
「で、部屋なんだが」
普通に考えれば《窓口》とネロ、護と透でいいと思うのだが、どういう訳か《窓口》と護が一緒になっている。
「何がどうしてこうなった」
「まぁ、いいじゃないですか」
「いいのかよ?!」
「部屋に誰といるかなんて、そんなのは大した問題ではありませんよ」
楽しそうに笑う《窓口》に、椅子に座った護は、大きなため息が出る。大した問題ではないと言うが、護には結構、大問題だ。その《窓口》は、持っていたキャリーケースを開け、中から服を出した。中身を少しだけ覗き見ると、服の他にも色々と資料やら、あとは何に使うかわからない道具があった。
「なんだ、今から着替えるのか?」
「今回は呪術とか、そういうモノだって事が判りましたし?」
「そうなのか?」
「別に、この格好のままでもいいのですが、巫女服の方が霊とかの説明をするのには、信憑性が出るでしょう?」
《窓口》の言葉に、護は「そうか?」と首をかしげた。
「まあ、これは気分の問題ですよ、あくまでも気分のね」
そう言いながら《窓口》が、着ていたセーターなどを脱ぎ始めたので、護は《窓口》から慌てて視線を外す。
「・・・前から思ってたんだけどさ、その服って作りはどうなってんだ?」
「今回のは白いワンピースに紅いスカートを上に重ねてるだけですよ、ただ、上に羽織る服の袖が、袂のようになっているってだけです」
「そうなのか」
「まあ、他にも上は和服で、下がスカート状のも持ってますけどね、和服と洋服を足して2で割ったと考えればいいかと・・・あ、もう大丈夫ですよ」
護が《窓口》の方に視線を戻すと、彼女は腰の辺りの大きなリボンを結んでいた。
「それ、結べるか?しぃ、貸して」
「え?大丈夫ですよ」
「いいから」
何だか《窓口》が、結び辛そうにリボンを結んでいる(そう見える)ので、思わず護は《窓口》の後ろに回る。
「きつくないか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
《窓口》は大人しく護にリボンを結んでもらい、終わると同時にキャリーケースから一つの鏡を取り出し、テーブルに置いた。
「鏡?」
「これで、依頼人につけてもらっているブローチから、家の様子がわかります」
脱いだ服を片付けながら、《窓口》は鏡の説明を護にする。
「あのブローチは『魔法鏡のブローチ』といって、ブローチ側からは普通のブローチのように見えるけど、こちらにある鏡からは、ブローチ側の様子がわかる道具です」
「本当に、マジックミラーみたいな道具なんだな」
片付けを終えた《窓口》が鏡に手をかざす。すると、鏡に家の中の様子が映った。
「ここは、廊下ですかね?」
「だろうな」
《窓口》と護は鏡を覗く。誠は移動をしているのか、その景色も移り変わる。《窓口》としては、家の様子が伺えて好都合だと、嬉しそうだ。
「何か気になったモノとか、気付いた事は?」
「今のところ、変わったものもありませんね」
護の言葉に《窓口》は首を横に振る。その反応に、嘘はないだろう。護が見ても、変わったものは何もない。
「呪具なら何とかできそうだが、呪術だった場合はどうするんだ?」
「その呪術が、どういう仕組みかを知る必要がありますね」
「仕組み?」
「呪術にも色々ありますからね、それこそ『丑の刻参り』だとか『憑きモノ』を憑けたりとか」
《窓口》は色々と呪術について挙げ始めたので、護は、今は説明しなくていいと、彼女の言葉を遮った。
「まぁ今現在、この家には『座敷わらし』がいるんですけれどね?」
「でも『座敷わらし』って善い霊とかなんじゃ?」
「そうですね、座敷わらしは住んでいる家に、幸福をもたらします」
「それならなんで、不幸な事(それほど大きくない)が起きているっていうんだ?」
「座敷わらしがもたらす幸福よりも、呪術などによるモノの力が上回っているのでしょう」
《窓口》の言葉に護は納得する。座敷わらしが居なくなったとか、そういう事ではないらしい。
「うーん・・・なんというか、これは今日中に原因が見付からないような気がしてきました」
「お前が言うと、本当にそうなりそうだから、やめてくれ」
《窓口》の言葉に護は、底知れぬ不安を覚えた。だが、その不安が的中することになろうとは。
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暫くして、透とネロが、後から誠が部屋を訪ねてきた。どうも、今日は誠の父親の体調が優れず、話を聞くのは無理そうであるという。思わず護は《窓口》を見るが、その《窓口》はそっぽを向いた。
「こちらとしても原因は早めに見付けたいんですけどね?」
「すみません、実は母も部屋に籠りがちになってしまっていて・・・」
「なんでまた、そんなことに?」
護の言葉に、どこか誠は躊躇っていたのだが、そっぽを向いていた《窓口》が、誠の方を向き、静かに口を開いた。
「もしかして『座敷わらし』が関係してます?」
本当に《窓口》は、どこまで事情を解っていて言っているのだろう。誠は驚きを隠せていないので、彼女のその言葉が図星なのはわかるが。
「貴女は、どこまでこの家の事を視ていらっしゃるんですか?」
ネロの言葉に《窓口》は苦笑して答えない。きっと、それは《窓口》本人にしかわからないだろう。それに答えるとしたら「ほぼ全部」というのが目に見えている。
「とりあえず、わたしの質問に答えていただけますか?」
《窓口》の言葉に誠は、頷く。最近の出来事から、家の者は座敷わらしが、家から居なくなってしまったのではないか、という噂をするようになったのだという。
「つまり、最近の出来事は、座敷わらしが居なくなったからだと、皆さんはお考えなんですね?」
「はい、ですが・・・母は『そんな事はない』と意地なのか、ボクにはわかりませんが」
誠の言葉に《窓口》はやれやれという表情をする。彼女は誠に、どう説明するかも悩んでいるようで、透に話を振る。
「透くんはどう思いますか?」
「座敷わらしの事かい?さっき、僕は部屋から外にいるのを視たけど?」
「・・・え?」
「ちゃんと居ますよね、座敷わらし」
《窓口》と透の会話を、誠は信じられないといった様子で聞いている。もちろん、それはあまり霊の類いが見えない護も同じなのだが、透と《窓口》が見えているのは、事実なのを知っているので、別に驚くことはなかった。
「だから、貴方のお母さんに『座敷わらしはちゃんと居る』と伝えておいてください、あと家の人達にもね」
「あ、はい・・・わかりました」
《窓口》の言葉に戸惑いながらも、誠は頷いた。




