8.特別プログラムって、何?
ようやく、通勤時に一般市民らしき死んだ目の人々を差し置いてスムーズに進んでいくことにも少し慣れてきた。よく見てみると、彼らもそれぞれのAIたちと会話したり予定を確認したりと、この管理都市の市民として指示されながら生活しているようだった。こんな楽園にいるのに何一つ楽しそうではないが、逆にここで俺ほど目を輝かせている奴も見た事がない。だからこそ模範市民に任命されたのかもしれないが。
「もしかして模範市民ってことは、もっと難しい仕事とか任されたりする?」
「いいえ。現在の業務があなたに最も適していると判断されています」
「……よかった」
今日もとにかく単純作業。けれど単純作業の種類が毎回変わるので、飽きることはない。
十分過ぎるほどの休憩も用意されている。
(向こうの世界のブラックで働いてる人たち、こっちに来たら幸せになれるんだろうなぁ)
かつての同僚たちに思いを馳せる余裕すらある。
もし俺が異世界転生してやる気に満ち溢れた主人公だったら、
「もっと重要な仕事を任せてくれ!」
と言い出したかもしれない。
だが残念。俺は30代のくたびれたサラリーマンおじさんなのだ。もうそんな気力は残っていない。
「現在の業務に対するあなたのストレス値は非常に低く、満足度も高い状態です」
「じゃあ、このままでお願いします」
俺の返答に、アイはわかってますよと言わんばかりに「承知しました」と無機質な音声を返してきた。
「明日の予定をお知らせします」
寝る前、アイが明日のスケジュールについて教えてくれる。これも模範市民になってから、毎日恒例のことだ。
ただ、この日はいつもと違う単語がスケジュールにあるのが見えた。
特別プログラム:16:00
そういえば、特別プログラムについてアイが言い出してから、もう10日くらい経つのか。
「これって、結局何なの?」
「模範市民となったあなたに、新しい生活環境をご案内します」
「生活環境?それって俺が色々決めなきゃいけなくなったりする?」
「いいえ。全てはマザーの管理のもと、佐藤忍様の行動を決定いたします。特別プログラムについては、明日改めてご説明いたします」
「まあ、アイが決めてくれるならいいか」
俺に何らかの責任がのしかかるような事だったら、喜んで模範市民の地位を返上してもいいのだけれど、アイの話を聞いている感じだとどうやらそうではないみたいだ。
「まあ、明日もよろしく。おやすみ」
俺は明日も、何も決めなくていいらしい。




