7.模範市民になったようです
朝がまたやって来る。
アラームと、無機質なアイの声。名前ではなく、IDで呼ばれて…
「おはようございます、佐藤忍さん。本日より、あなたは『模範市民』に認定されました」
「えっ!?」
思わず飛び起きた。アイに名前で呼ばれたのは初めてだ。
「……模範市民?」
なんだか、以前そんなことを言われたような気がするけれど、適当に流していた。
(何か、アップグレードでもされるのかな。別に意思決定が必要なければ、何でもいいんだけど)
蓋を開けてみればアップグレードなんてものではなかった。
まず、食事が変わった。
いや、変わったといっても謎の固形物とパウチなことには変わりないのだけど。
けれど、味付けが全部俺好みになった。味がしないとか、匂いが変だとか、そういうものも一切ない。
おまけに、(今日は甘いものが食べたい気分だな)と思っていると、必ず甘い味付けのものが出てくる。
この間は山盛りのラーメンの事を考えていたら、食感まで懐かしいワシワシとしたものが入ったパウチになって出てきた。これで完全栄養食だというのだから、飽きるまで毎日でも食べていたい。
さらに、趣味に充当できる時間も長くなった。この間のRPGはクリアしてしまったので、アイに言ってまた楽しそうなゲームを選んでもらった。
通勤も、ただ動く床に乗っているだけなのだが、他の人たちを差し置いてスムーズに通行できるようになった。これは逆に気まずいので、アイにほどほどにしてくれと頼んだ。
アイの健康管理もさらに細かい項目まで教えてくれるようになった。
「……模範市民って、昇進みたいなものなのか?」
今日の仕事も単純作業。積まれている紙束の表紙に、ずっとスタンプを押し続けるだけ。無心で過ごしていたら、あっという間に日が暮れていた。
「はい。市民生活における適応度、幸福度、健康状態、社会貢献度などを総合的に判断した結果です」
夕食を食べながら発した俺の問いかけに、アイが答える。今日のパウチの中身はちょっとピリ辛で、前の世界で食べていた辛いラーメンの事を思い出す。
「じゃあ、いいことなんだ」
「はい。あなたにとっては、より快適な生活が提供されます」
(どんどん最高な世界になっていくな)
幸い、今まで窮屈さや息苦しささえ感じていない。自分にとって楽園なのに、自分に良いように振る舞うだけでどんどん昇進していくとしたら、願ったり叶ったりだ。
(もう一生、ここにいたい)
「模範市民には一部の特別プログラムへの参加資格が付与されます。佐藤忍様のプログラム実施日は、12日後を予定しています」
「特別プログラム?」
アイから発せられた、不穏な単語。
何でもいいが、面倒ごとが増えるのだけは避けたい。俺は今の生活に満足しているのだ。
「あなたの適性を最大限に活用するためのプログラムです」
「仕事が増えるとか?」
「いいえ。あなたの負担を増やすものではありません」
「ならいいか」
アイの返答に安心して、俺は就寝時間通りにベッドに横になった。




