6.昔の記憶
朝食の後、健康のための軽い散歩をして(勿論、ルートは完全に決められていた)自由時間も何もないと言ったらアイが全てやることを決めてくれた。
昼食をとり、13時からは趣味活動の時間だ。
「13時からの時間は趣味にお使いいただけます。何を行いますか?」
「んー……ゲーム、かな」
「ゲームのジャンル、タイトルを選択してください」
「……うーん」
難しい。
小学生くらいの頃はよく家庭用のゲーム機で遊んでいた。
あの頃は雑誌やテレビのCMで見るもの全てが面白そうに見えたし、お小遣いを貯めたり誕生日やクリスマスのプレゼントで買ってもらうだけでは足りないくらい、たくさんのゲームを遊び、それでも尚遊んでみたいゲームに溢れていたと思う。
けれど今となっては、遊びたいゲームは?と聞かれても何も浮かんでこない体たらくだ。そもそもこの世界で子供の頃に遊んでたゲームの名前を言って伝わるのだろうか。
「何でもいいや。選ぶの面倒だし」
「了解しました。あなたの脳波測定データおよび前世の記憶領域から嗜好パターンを解析。こちらのレトロアクションRPGを推奨します」
そう言ってアイが提示してきたゲームは、まさに俺が子供の頃に気に入って遊んでいたゲームだった。
基本はロールプレイングだが、アクション要素もあってなかなか奥が深い。ボリュームもあるものの、5周クリアし、仲間にできるモンスターをコンプリートするまで遊んだ事を覚えている。
中学生の多感な時期にがっつりハマってしまったので、暫くゲーム内のキャラのセリフで会話したこともある。これはちょっと黒歴史だけど。
「これ……! 中学生の時にドハマりして、やり込んだやつじゃん!! なんで知ってんの!?」
「あなたの反応から、選定が適切であったと確認しました」
アイの音声は無機質だけれど、心なしか誇らしげにも聞こえた。
あの頃は倒せなかった隠しボスも、今ならクリアできるかもしれない。
テーブルに着くと食事を出すのとは別の供給口からあの当時遊んだゲーム機が出てきた。
巨大なモニターに映る、今は存在しないメーカーのロゴ。コントローラの感触すら、懐かしい。
「17時です。ゲームを終了し、入浴を行います」
アイにそう言われて、俺はコントローラを手放す。ゲーム機は供給口から吸い込まれて消えていった。
「ご安心ください。セーブデータはバックアップ済みなので、また次回の趣味時間にプレーが可能です」
気が付いたらぶっ続けで遊んでしまっていた。おかげさまでゲームは無事クリアし、念願の隠しボス撃破も叶った。
15時くらいにはアイから補給用間食と称したチョコレート味のペーストを与えられていたが、さすがにずっとゲームに集中していたので少しお腹が減ってきた。
(決断力も要らない。後悔もない。充実感だけが残る休日。ここをディストピアなんて呼ぶ奴は、絶対に自分でスケジュール管理をしたことがない奴だ)
ずっとゲームをしていたから、さすがに疲れてはいたものの、久しぶりに俺の体を充実感だけが満たしていた。こんな休日、久しぶりかもしれない。
「ID:954823。今後のゲーム選定の参考に、好きなゲームの傾向を教えてください」
寝る前に、アイがそんなことを聞いてきた。
「うーん。特にこれと言って好きなものはないかな。アイが選んでくれればいいよ」
「……自分で選ばないんですか?」
やっぱりアイが聞いてくることはどこか人間臭い。中の人でもいるのだろうか。
「うん。選ぶの面倒だし。今日選んでくれたみたいに、また勝手に選んでくれていいよ」
「…意思を確認いたしました。今後も過去の記憶情報などを参考に、趣味を提供いたします」
そうしてほしい。俺もそれが助かるし。




