5.ノーストレスな休日の朝
ピピッ…と耳元でアラームが鳴る。
「おはようございます、ID: 954823。本日の起床予定時刻です。心拍数・睡眠の質ともに問題ありません」
アイの無機質な声とともに目覚める。
突然管理都市での生活が始まって数日。こういう時、「新生活にも慣れて…」なんて言葉を使うのかもしれないけれど、俺は初日からここでの生活に馴染んでしまっていた。というより、元いた世界よりもこちらの方がよっぽど俺に合っている。
「おはようアイ。今日の作業はどこ?」
「本日はリフレッシュデイです」
「お、休みか」
そう言えば元の世界での最後の記憶は虚無感の強い休日だったな、と思い出す。休日になっても「せっかくの休みだし何か有意義なことをしなきゃ」という謎の焦りや、溜まった家事の圧迫感で不完全燃焼に終わっていた。焦燥感だけはあるけれど、何がしたいかと言われると何もない。予定を立てるのも人に会うのも面倒だったからだ。
「もしかして、休日の予定も全部アイが決めてくれるのか?」
俺の問いかけにアイはピピピ…と一瞬思考し、
「本日の推奨タイムスケジュールを提示します」
と言って目の前にホログラム文字を映してきた。
08:00 起床
08:10 朝食
08:40 健康散歩
09:20 自由時間
12:00 昼食
13:00 趣味活動
15:00 休憩
17:00 入浴
18:00 夕食
19:00 娯楽
22:30 就寝
「完璧じゃん」
画面にズラリと並ぶ過密すぎず緩すぎない予定表。
「何時に起きようか」「昼何食べようか」「何して過ごそうか」という決断のストレスが一切存在しない。
(やっぱりこの世界、俺にとっては天国なんじゃないか?)
考えること、悩むこと、選ぶことが億劫な俺にとっては、全て面倒見てもらっている至れり尽くせりの世界。
「そろそろ朝食の時間です。起床し、供給口へ」
アイに促されて、俺は殺風景な寝室を後にした。
今日のパウチは優しいお粥のような味がする。
食事にもあまりこだわりが無く、前の世界でも何日も同じカップラーメンを食べ続けていたことがあるけれど、さすがの俺もたまには味変がしたくなる。
毎日コンソメスープ味のパウチと緑色の固形物だったら飽きるかも…と思っていたがそれすら杞憂に終わった。毎日異なる味の食事が、準備や片付けの労力なしで提供される生活。
「質問です。『休日くらいは自分の意思で自由に過ごしたい』という要望は出さないのですか?」
アイは時折、こんな質問を投げかけてくる。やけに人間臭いことを聞いてくる、変なシステムだ。
「え? 好きなことしていいよって言われるのが一番困るんだよ。結局スマホダラダラ見て一日終わっちゃうし、こうやって管理される方が楽」
「……意思決定に伴う脳の疲労コストを回避する思考、極めて合理的です」
これが人間相手だったら、「勿体無い」とか「自分の事を自分で決めろ」とか説教されるのかもしれないが、アイはAIだからなのか、すんなり納得してくれた。




