9.ディストピアらしくなってきた
「本日の特別プログラムでは、あなたと相性の良い市民との交流を予定しています」
朝食を食べている最中にアイがそんな事を言い出したので、思わずパウチの中身を吹き出しそうになった。
「……交流!?」
「模範市民に認定された市民には、生活環境をさらに最適化するためのプログラムが提供されます」
例えば、居住環境の最適化。食べ物の好みも、より俺の好む味付けへ変化した。労働の時間も減少し、アイが提供してくるゲームを遊んだり、促されて外へ散歩に出たりしている。
ちなみに、今日のパウチの中身はトマトっぽい味がする。前にいた世界で、チキンのトマト煮が好きだった事を思い出す。俺の数少ない自炊レパートリーの一つだった。今日は当たりだ。
「人間関係のサポートも、あなたの幸福度をさらに向上させるためのものです」
「知らない人と話さなきゃいけないの?」
「はい」
「……それ、俺が一番苦手なやつだぞ?」
ズボラで受動的、面倒臭がりの俺にとって、人間関係の構築と維持というのは体力・精神の両方で非常に高いコストを必要とする。簡単に話しかけられないし、一時仲良くなった相手も気づけば没交渉なんてざらだ。
「過去の記憶から分析した結果、あなたは『自分から人間関係を構築すること』を苦手としています」
「……わかってるじゃないか」
「そこで、あなたの過去の行動、記憶、性格、幸福度などを分析し、最も相性の良い市民との交流を提案します」
「それって、友達を選んでくれるってこと?……そこまでしてくれるの?」
俺の質問に、アイは「はい」と回答する。
(まあ、どうせ自分からは友達なんて作れないだろうし、楽に友達ができるんならいいか…)
俺はそれ以上聞くのをやめた。
今まで外を歩いていても、死んだ魚のような覇気のない目をした人々としかすれ違った事がない。
俺みたいにこの世界を過ごしやすいと思っている人に出会えるのだろうか。
まあ、困ったらアイが何とかしてくれるに違いない。
そして予定通りの時間。
俺たちは動く床に乗って、今まで入った事がない建物に導かれていった。
中はやっぱり白い床、白い壁の殺風景な造り。もう随分とこの管理都市の建物にも慣れてきたものだ。
「アイ、俺、ちゃんと喋れるかな」
「問題ありません。会話内容についても必要に応じてサポートします」
「それなら安心だ」
アイとそんな会話をしていると、入ってきたのとは逆側のドアが音を立てて開いた。




