3.通勤すらストレスフリーな理想郷(ディストピア)
「朝食の摂取完了を確認。8:15に退出してください。本日の配置業務は区画4の『資材分類作業』です」
画面に次の案内が表示される。
「了解ですよっと。…ところで、アンタの事何て呼べばいい?画面呼ばわりもなんか変だし、呼びやすくて簡単なやつがいいんだけど」
「…私は、管理都市用AIです」
「AIか。じゃあアイって呼ぶよ」
「呼称の変更を確認」
こうして、俺は画面…もとい、アイに促されて家を出ることになった。
行く場所もやることも全部アイが決めてくれる。何時に家を出るかも悩まなくていいのは最高かもしれない。
この調子でいけば仕事とかも、きっと言われたままにこなしていけばいいタイプの仕事だ。おまけに勤務時間も管理されていることだろう。これまでの社畜生活を思い出し、鼻がツンと痛む。
扉が開くと、未来的な管理都市が広がっていた。
「アイ、どっちに行けばいい?」
「進行案内に従ってください」
よく見ると、床に青い光の矢印がくっきりと浮かび上がっている。矢印の上に乗ると、歩かずとも勝手に進み始めた。昔何かのゲームでこういう移動する床を見たことがあったけれど、リアルだとこうなるのか。
「矢印に従ってください。最短かつ最も負荷の少ないルートです」
行き先が全て管理されているからこそ、進み方もルートも全て決められたものの上に乗れば良いだけ。目的地への行き方で迷わない上に、スマホの地図アプリを見ながらウロウロする必要もないなんて……!
(やっぱりここは、楽園なんだ)
俺は移動する床の上で、静かに感動していた。
「ID:954823の感情波形に動きを観測。身体的な異常ですか?」
「いや、感激してるだけだから、気にしないで…」
「…異常なしと判断」
移動床を進んでいるうちに、他の住人らしき人とも何人かすれ違った。
通りを行き交う市民たちは、全員同じグレーの服を着て、無表情で矢印の上を一列で歩いている。まるでロボットだ。
本来なら「洗脳された哀れな人々」というディストピア描写に該当するのかもしれない。
けれど、みんな静かに整然と歩いているので、通勤ラッシュの押し合いへし合いも、急に曲がってくる歩行者もいない。
誰も話しかけてこないし、気まずい会釈もいらない。
人と関わらなくていい世界、快適すぎないか……?
この世界に来て、管理都市という名称や食事の内容から、ここはきっと所謂「ディストピア」というものに該当するのだと何となく察し始めていた。
けれど、俺にとって全て管理されて全て決められていることの方が気楽でならない。
(もしかして、俺が元いた世界の方が、よっぽどディストピアなのかも?)




