2.目が覚めたら、天国でした
ピピッ、と聞き慣れない音が耳元で響く。目覚ましの音、こんな音にしてたっけ…?
「おはようございます、ID:954823。本日の起床予定時刻です。心拍数・睡眠の質ともに良好です」
無機質な音声とともに目が覚めると、そこは俺の汚部屋…もとい、自室の景色とは全く違う光景が広がっていた。
清潔感のある真っ白な部屋。床にホコリ一つ落ちていない。綺麗すぎて、居心地悪く感じるほどだった。
目の前には、青い画面がホログラムで表示されている。まるでゲームのステータスウィンドウだ。
そこには俺の顔写真、さっきの機械音声が言っていた数字の羅列、そして恐らく俺のものと思われる、バイタルの情報。
起き上がると体調が驚くほどすっきりしている。機械音声が言うように、体調は良いのだろう。
部屋干しの臭いも埃っぽさもない。あの汚部屋がどれだけ陰のオーラを放っていたのか、今なら少しだけわかる。
「…夢?」
夢以外あり得ないのだけれど、夢にしては随分とリアリティだ。今時のVRはこんなに進化しているものなのだろうか?そもそも俺、VRなんてやった事ないけど。
「ここは、何?」
青い画面に向かって尋ねると、少々の読み込みの後、画面には「管理都市078:エデン型」という表示。
「エデンの歴史を表示しますか?」と聞かれたけれど、長くなりそうだし面倒だから丁重にお断りしておいた。
「すげえ…!」
着替えようと思い、画面に案内されるがままクローゼットらしき白い箱を開けると、全く同じデザインの機能性ウェアが数着入っているだけ。
(これは着る服を考えなくていいから、楽だ!)
ジョブズクローゼット、なんて小綺麗で地位があるからこそ良しとされるわけで、毎日よれよれのスーツを着ているサラリーマンに誰も賞賛の声なんて送らない。
ネクタイを選ぶのすら面倒なので、IT系企業に勤めていた知人を「毎日服を選ぶの面倒くさいのに、よくやるなぁ」なんて思いながら見ていた俺にとって、アイロンをかける必要もなく選ぶ余地すらない服を毎日着てもいいだなんて。
「もしかして、ここって天国…?」
最後の記憶は自室だったはずで、もしかしたら今自分は自室で孤独死して死後の世界にいるのかもしれない。
「朝食の時間です。供給口より朝食をお取りください」
画面に案内され、シンプルなテーブルと椅子だけの部屋に座ると、壁に開いた供給口の穴からトレーに乗った何かが運ばれてきた。
「本日の最適朝食パウチです」
トレーの上には、四角くて緑色の何かと、黄色い錠剤のようなものが数粒。そしてパウチ状のパッケージに入った何か。全て原材料がわからないレベルで加工されているので、何か、としか表現できない。
正体がわからない分、若干の抵抗感があった。恐る恐る緑色の物体を食べてみる。
「…え、美味い」
緑色なので野菜っぽいかと思ったけれど、パンのような柔らかいクッキーのような食感で、味も悪くない。黄色い錠剤はまさに錠剤で、何の味も匂いもなかった。
パウチの中身も啜ってみる。
「これ、美味い!」
コンソメスープみたいな味がする。本当にこれで、十分に栄養が摂れているというのだろうか。
「ID:954823の現在の体調を考慮した、最適な朝食です」
画面がまた何か細かい説明をしてこようとしたので、大丈夫だ、と断った。
食べ終わったパウチをトレーに戻すと、先ほどの供給口に静かに運ばれていく。
「献立を考える手間も、料理も、皿洗いも必要ないってこと…?それ、最高じゃん」




