第2話 白い髪の少女
「……その刀、綺麗ね。まるで夢から踊り出て来たみたい」
「ほぉ? 見覚えがお有りのようですなぁ」
細身の刀は優美な弧を描き、鍔には精緻な銀細工があしらわれていた。
夢で見た刀と同じだ。だが――
「かなり高価な物よ。どこで手に入れたの? カルラ」
「ほぉほぉ、昔、わしの曾祖父様が質草として預かったものじゃよ、姫様」
俄には信じがたい話だった。値が張るどころの話ではない。
借金の質草にするには、あまりにも過ぎた逸品である。
「……納めてくれないかしら? それが凄いのは分かったから」
「これはこれは。不安にさせましたのう」
朱い鞘は緩やかに湾曲し、微細な紅玉が薔薇の紋様を描いていた。
王家に仕えるとは言え、一介の薬師が持つに不相応な代物であろう。
カルラがゆっくりと納刀する。手つきが滑らかだ。剣術の心得でもあるのだろうか。
だが、彼女に害意があるなら、とうに私は毒殺されているだろう。
ならば、なぜこの刀を私に見せた?
その理由に、どうしても思い至らない。
「……剣舞奉納。わしも昔は、舞手でしたわい」
宙を見つめる目はどこか遠かった。昔日に思いを馳せているのだろうか。
「貴女が? 水神様を御慰めするあの剣舞の?」
「若い頃は、王都の美姫と持て囃されましてな。折良くこの刀を手にしたこともありまして……」
水神の儀式には、毎年、容姿に秀でた娘が一人選ばれる。
身分は問われない。それゆえ、選ばれることは大変な名誉とされた。
――学院を卒業する年、ルシアが選ばれたはずだ。
「カルラ、ごめんなさい。ルシアという子が舞わなかったかな?」
「ほぉ。あの娘は辞退致しましたぞ? 前代未聞の出来事。覚えておられないのですかえ?」
「……あの年のことはよく覚えていないの。病でずっと城に閉じこもっていたから」
――ふと、違和感を覚えた。私はいつから、カルラを薬師だと思っていたのだろう?
「茶番はこれぐらいでいいかね? お姫様。わしの質草になってくれるかえ?」
しなびた手が私の額へかざされた瞬間、視界がぐにゃりと歪んでいく。
そのまま私は黒い水底のような世界へ沈んでいく気がした。
◇
「……久し振りだね、アリシャ」
「ルシア? ルシアなの?」
目尻をやや跳ね上げている。円らな目元が、切れ長に見えた。それよりも驚くべきは、白い髪だ。
「再会を喜ぶより、立場を弁えるべきだね。君は」
ピチャピチャと水の滴り落ちる仄暗い洞穴だった。手足を鎖で縛られ、吊るされている。
「――なら、要件は何?」
「その掌の火傷、治らないだろう?」
「……」
「魔道を使ったね! イスファの王族が。重罪だよ?」
「私が、女王になったら……杓子定規な考えは改めさせるわ」
ランプで照らされた彼女の顔に酷薄な笑みが浮かんだ。
「私が言ったこと、もう忘れてるのね。いい御身分だこと……」
身分差のない国を作るとルシアは言った。けれど――
「王家を壊す真似なんてさせない」
「……王家?」
ランプの灯りの下で、ルシアは薄く笑った。
「誰の王家を壊すつもりなの?」
「――これでも私は、ジルーフ家の嫡流たる娘なんだけどねぇ」
「え……?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「この髪の毛、気になるだろう?」
――その瞬間だった。
脳裏に兄の姿が過ぎった。
ユハルと、同じ白い髪――




