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第14話 双極の虎

「ライラ……。永久(とこしえ)の闇を渡り歩く太古(たいこ)の魔女。まさか、生きているとはな」


大広間の吹き抜けを、魂の群れが回遊していた。


壁も柱も、城そのものが黄金色に光り輝いている。


「渡り歩くって?」


「人から人へと憑依(ひょうい)する。そうやって命を永らえるのだと。ただの伝説だと思っていた」


兄は仕込み杖で螺旋の紋様を虚空へ描き出すと、天井に紅い(きら)めきが散った。


「吸血鬼が、私たちのことを報告しておくって……」


「乗り換え先の候補にする気か」


「それって……」


「興味がある内は殺さんということさ」


床から凄まじい光が立ち昇った。


光の波が交差する金色の空間で、次々と霊魂達が天へ昇っていく。


天蓋(てんがい)に開いた虚空の穴へと皆吸い込まれていった。


「アリシャ、帰る前にやっておきたいことがある」


兄がそう言うと、彼の背後に白いドレスに身を包んだステラがいた。


「二人ともどうしたの? 改まって……」


「吸血鬼の血を、ごく僅か垂らしたエーテルがあるのだよ。姫」


「まさか……」


銀杯に波々と満たされた魔法液から、かすかな香りが漂っていた。


手元の灯りを受け、液面が怪しく揺らめいている。


「お飲みなされ。貴女の死を遠ざけるために。化物にはならない」


「兄様は既に毒を受けておられますもの……。私も寿命を伸ばせるのね」


杯に唇を付けると一思いに飲み干した。


微かな鉄の味が喉元を下り降りていく。


するとどうだろう。


身体中から汗が噴き出してくるではないか。


「熱いよ、ステラ、兄さん」


「我慢するんだよ、アリシャ姫。熱はその内に引く」


「そんなこと、言ったって……」


瓶に汲んであった飲水をひたすら飲み続けた。


喉が焼けるようだ。


「これで十年は心配しなくていい、アリシャ」


涼しげに兄が言った。


その言い草が(しゃく)に障ったのだ。


――だが、咬まれた方が楽だっただろうとは言えなかった。


あんなに痛々しい兄の姿を間近で見たのだから。


そして何より――


兄の瞳は、蒼の父星と紅の母星だった。


私もきっとこの双極の色に染まる。


彼を追い続ける虎の星なのかもしれない。



「……ありがとう。メルキオンを止めてくれて」


螺旋階段をゆっくりと降りながら、カイゼルが現れた。


黒装束に身を包み、顔を白い仮面で覆っていた。


彼には聞きたいことがある。


「一年前、カイゼルという男は死んだとベルグが言った」


「それがどうされました? アリシャ姫」


「貴方が香炉を探しに入ったのも一年前……」


「ええ、その時、先代に血を吸われたのですよ」


――ベルグだと思っていた。

だが、本人の口から出た答えは違った。


兄が何か言いたげだった。


私はそれを制して、構わず続けた。


「香炉がない? 天下の怪盗が調査もせずに、盗みに入るわけがない。嘘つき」


「参ったね。香炉は、私が盗って、アナスタシアの親戚に持たせたんですよ」


「あの修道女の? まさか……ルシアという子じゃないでしょうね」


「ああ、イスファ出身と聞いたからね」


アナスタシアには、どこか私の友人を思わせるものがあった。


「カイゼルよ? 目的は、水神か?」


兄が痺れを切らして、割って入ってきたのだった。


「あわよくばね。水を思うがままにできるなんてさ。それより……」


「ただで手を貸した訳ではないとでも?」


「急いだ方がいいんじゃない? その娘、普通の人間だと思う?」


カイゼルが白い牙を覗かせた。


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