↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/37

第10話 新月夜の急襲

青と赤の光跡(こうせき)が、雲間(くもま)を縫うように交錯(こうさく)していた。


大地を震わせる(とき)の声が、戦場に轟いている。


急いで宿屋の天井を伝って屋根に()い出た。


「――おかしいよ、何で白の一族が真っ黒なの?」


「耐性をつけたからだろう。アリシャ姫、吸血鬼の力を利用している」


「二人とも、星は見るなよ? 今日は新月だからな。遠眼鏡を使って」


空に瞬く(きら)めきは、星のそれではない。


瞳の色だった。


そして、高貴な青は、次第に濁り始めている。


「ステラ――」


青白い白亜の宮殿が、夜の戦場に浮かび上がっている。


尖塔(せんとう)の群れを、二つの光芒が何度も(かす)めていた。


鶴翼(かくよく)に展開した白の一族の軍勢は、今まさに宮殿に迫らんとしていた。


その中央に彼女がいる。


銀製の三叉槍(さんさそう)を携え、単身で敵陣へ突撃せんとしていた。


だが――


『おやおや、旧王家の人間が随分と、無粋ですね』


夜の風に血染めの修道服が翻っていた。


間違いない。


あの女はアナスタシアだ。


その背から、黒い羽根がゆっくりとせり出していた。


『そうかい? 背教者の分際で何をぬかすのさ』


稲妻の如き突きが闇に閃いた。


ステラの穂先(ほさき)が、絶え間なく女の胸元を穿(うが)つ。


だが、闇を切り裂く金属音は、まるで優雅な和音を奏でているようだった。


アナスタシアは長柄(ながえ)の鎌を自在に操り、その(ことごと)くを弾き返している。


銀の穂先が閃くたび、甲高い音が夜空に連なった。


「ねえ、カイゼル……」


「なんだい。アリシャ姫?」


「アレのどこが大物じゃないの? ベルグの他は出払ってるんでしょう?」


「せいぜい、中堅かな。彼女は。ベルグのお気に入りだよ。色んな意味で」


――お気に入り?


その意味を問いただそうとした瞬間のことであった。


白亜の宮殿が、真っ赤な血の色に染まり、青い光の一群が、瞬く間にその光彩を失っていく。


鈍い音がした。


ステラは、宮殿の中庭へと落ちていく。


上空より、漆黒の翼で舞い降りる者がいた。


『ベルグ様……お戻りになられましたか』


『手こずったな。アナスタシア』


彼女の頬が微かに緩んだ。


『暇を潰すには、良い相手でしたわ。首魁を討てたことですし……』


その瞳は、戦場に向けていたものとは明らかに異なっていた。


ベルグを見上げるアナスタシアの顔には、陶然(とうぜん)とした微笑が浮かんでいる。


あれほど激しい戦いをしていた者とは到底思えない。


『それよりも……』


アナスタシアが、こちらへ視線を向けた!


あの紅い瞳が、(はる)か遠くにいるはずの私を射抜(いぬ)くではないか。


『ベルグ様、あの方を、私に下さいませんか』



「気付かれた! 兄さん、カイゼル! どうしよう?」


「俺がベルグを。お前はあの修道女を。残りの吸血鬼は、カイゼル。頼めるか?」


兄は、予期していたかのように平然と指示を出した。


カイゼルは任してくれと言わんばかりに胸を叩いている。


良かったな、当たりくじだよ。


ああ確か私を囮にするんだったな。予定通りだね。とはいえ、私は頭を抱えた。


「首を切って死なないんですよ。どうすればいいんだ、あんな奴」


弱音を吐いた。絶望と、あの女に対する生理的な嫌悪で、心が黒く染まった気がした時、兄が言った。


「アリシャ、地の刀は斬るものじゃないよ?」


――兄さん?


雷光のように閃く予感が脳裏(のうり)を掠めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。