第3話 吸血鬼の王統
「我並びに我が光の眷属よ、魔の偽りを顕せ、咎を穿て――」
極光が、世界を白く染め抜いた。ベルグが月の座を追われたのだろう。目と鼻の先の尖塔で両眼を抑えて身悶えしている。
何故、私には見えたんだろう。ふとした疑問が湧いた時だった。
「……並の悪鬼なら、とうに光を奪われているものを」
改めて目を凝らすと、妖精は私より少し年下ぐらいの女の子のようだった。切れ長の目は碧く、肌は透き通るように白かった。わなわなと震え、拳を握り締めている。
「過去の栄光に追い縋る俗物が、今更何のようだ? 雪女め」
「母上を殺し国を奪ったお前ら吸血鬼に言われる筋合いはない」
敵は黒衣を身に纏い、夜の風に歌っている。少女の断罪を軽く受け流していた。
気づけば、夜空の星々は、正常な運行を取り戻していた。
それでも月光に浮かぶ鬼の口元は歪んでいる。恐らく幻術は解かれたというのに。
「次の機会に。アリシャ姫」
やつはそれだけ言うと、ゆっくりと漆黒の闇夜へと溶け込んでいった。
私の膝下で、ユハルが倒れている。乳白色の満月の下、兄の首筋からむせかえるような鉄の匂いがした。
◇
「五分五分かな……」
白い少女は、名をステラと言った。白石灰で塗り固められた部屋の中央に、ユハルを横たえている。
寝台は簡素だったが、真新しい布が敷かれ清潔だった。兄は身体中に管のようなものが繋がれていた。私には何をしているのか、皆目わからなかった。
「ステラ……さん、一体何をしているの?」
「血を洗っているの。吸血鬼に咬まれてるからね。私のことはステラでいい」
「血を洗う?」
「絶命していないからね。辛うじて。この方法で助かるはずなんだ。ただ傷が深い」
天蓋から垂れた透明な膜で覆われた兄を見やる。各種薬草の充満する匂いも今はもう気にならない。
「ふう、今日の手入れはこれでいいかな。貴女、アリシャといったね。今日ここへ入れたのは特別だ。現状を分かって欲しかったからだよ」
彼女は上目遣いで私を見つめた。疑問に思っていることを単刀直入に切り出した。
「貴女とベルグの関係を教えて頂けませんか? 襲われた以上、部外者ではありませんわ」
「それもそうだね。まず、私はフロート・ディルガの長女だ」
「亡き君主の御息女ではありませんか」
「そして、アイツは傍系の血筋に当たる者だ。彼らが今この国を牛耳っている」
他国の人間が口を出して良い問題ではない。国外の政争に首を突っ込むことなどもっての他だ。私が話を切り上げようと思った。その時だった。一つの疑問が脳裏をよぎった。
――誰が、ベルグを吸血鬼にしたんだろう?




