第3話 王太子の墓
荒涼たる紅い砂塵に覆われた広大なガラン高原。この世界の、最西端に位置している。
ファリス様の国、ガランの王都シャリシャは、水の神の恩寵に浴している。
そう。私たちのアララタ河と同じ起源を持つ水神の。
正方形の高い煉瓦の壁で区切られた都の、丁度真ん中に壮麗な王宮はある。
透き通るような水晶宮だ。回廊はどこまでも続くよう。屋根は白銀のレリーフが随所に施され、何度来ても息を呑むような美しさだ。刻み込まれた国鳥の鷹は、まるで生きているようにさえ思える。
私たちイスファの木と石の簡素な館とは大違いだ。
初めて父に連れて来られた時――母がまだ存命だった頃、私はよく迷子になったものだった。
そんな時、必ず私を見つけてくれてたのが、ファリス様とあと一人。ご長男のリウス殿下だった。
リウス様は、私よりだいぶ年上なのだが。
いつも、泣き止むのをじっと待っていてくれた。
そうして、いつも宮殿に浮かぶ碧い魔法の光を一緒に見た。
それは、私の人生の中でも、一二を争う珠玉の碧だったと思う。
◇
「――アリシャ姫殿下!? 朝食と昼食を一緒になさるおつもりですか」
「……ううん、あれ? パラディ?」
瞼が重い。とても。頭の中に梵鐘が鳴るように響く声は、老メイドのパラディだった。
こちらに来る時だけ、世話になる。ガランの人だ。
「そんなことは、どうでもいいの! 陰謀なんじゃないの?」
老婆は眼を丸くしている。眼鏡の鼻あてがずり落ちた。発言内容が、飛躍しているのは自覚している。
「なんで! あの場にリウス様がいらっしゃらないの! 高貴な方には、一通りご挨拶しました!」
「……リウス様は、ご逝去あそばされました」
天蓋付きの寝台から飛び降りる。柔らかな羽毛が少し飛んだ気がした。
「なぜ! 私たちに訃報がないのです? おかしいじゃありませんか!」
老婆は眼鏡の鼻あてに手をやって、重々しく口を開いた。
「お言葉ですが、王太子殿下ご逝去の折、貴女様方は立場を失われておられた」
――あの時か!
私たちが、ルシアの修道院に匿われていた、あの三年のどこかで、もう一人の兄君と呼べる方は命を落とされたというのか。
「今からでも構いません。せめてお墓へ案内してもらえませんか?」
「墓はございません。女王様のご意向で」
老婆は淡々と応え、白絹の羽毛布団をそそくさと片付け始めている。
「そうですか。であれば、直接お伺いしましょう。陛下ご本人に」
王宮中央の尖塔へと足を向ける。紅いベルベットの外套を翻して、彼女を背にする。
――きっと、後悔されますよ――
冷たい風に、掠れた声が聞こえた気がした。




