表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/21

第1話 瞬光・閃

――黒い牙が、兄の胸を貫いた。


刹那、撃鉄が脳裏に閃く。


圧縮する。


己の時間を、限界まで。


例え命が尽きようとも。


私は、賊の懐に潜り込み、()(さき)を喉元へと突き立てた。


血飛沫!血飛沫!唸り声!


けれども、敵の膂力(りょりょく)はなお強靭で、奴の太い右腕は、私の頬を掠めた。


眼前の敵は、青黒い巨体の鬼だった。身体中から白い蒸気を噴き出している。


――異形など、思慮の外!


下段から切り上げ、宙を舞う。そして脳天を、深く貫いた。


だが、眼には未だに強い光が宿っていた。


素早く愛刀を引き抜き、頭を蹴って背面(はいめん)に回り込んだ。


大きく胸を膨らませ、呼吸を止めた。時間が止まる。


――『瞬光・閃』――



奥義が、炸裂する瞬間のことだった。


誰かに手首を掴まれた。


「アリシャ! 俺は、生きてる。刀を納めるんだ」


「え……? 兄様? 心臓を貫かれたではありませんか!」


兄の胸に縋り付いて泣きじゃくった。みっともないことこの上ない。


「それは、俺の身代わりの人形だよ。少しばかり精巧に出来すぎた」


「兄様? あとでキツく、お仕置きですわ……」


ユハルの顔から血の気が引いていた。いい気味だ。もう少しいじめてやりたい。


「あれ以上はやらせない。敵は恐ろしい魔道具の使い手だ」


妙だ。宰相補佐(さいしょうほさ)の口振りではない。


ここは隣国ガランの王宮、その「歓待の間」だというのに。


そうだ。おかしい。


気づけば、人の気配がしない。


不審に思い、大広間を見渡す。


襲撃を受ける前、私達は国賓(こくひん)として遇されていた。


煌びやかなシャンデリアは、見るも無惨に打ち砕かれ、敷き詰められた真紅の絨毯(じゅうたん)を、ガラスの破片が覆い尽くさんばかりだった。


踏みつけないように、ゆっくり部屋の中を歩いて回る。


テーブルクロスは、ひっくり返っていた。


食べかけの料理がそこら中に散らばっている。


霜降り肉、ムニエル、白パンなど。


そして豪華なドレスや紳士服が脱ぎ捨てられていた。


「あそこね……」


私はそっと、突き破られた遥か高い天窓(てんまど)を指さした。


白い月から淡い光の粒子が降り注ぐ。


今この場所と、不釣り合いなぐらいに綺麗だ。


「残念ながら。ファリス女王陛下の結界を持ってしても、あの場所を破られたようだ」


「……最初から知っていたわね? 敵の襲撃を」


棘のある言葉で尋ねる。


返答次第では、容赦しない。


兄の顔を見据えた。


「おや? 何を根拠に……」


「この服はなんです? 着ていた人は?」


敵意をむき出しにした。


服だけが残っているというのはおかしいではないか。


兄の表情から笑みが消えた。


碧い瞳が冷たく輝く。


彼が、私の背後に視線を移す。


その時――


遠くの扉から、乾いたノックの音が聞こえた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ