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残酷な日常

――22歳の秋。1枚の落ち葉が地面に落ちた。綺麗な紅葉が泥のようになっていた。


 「もう、いい加減にして!!!」

大声で私は、父に叫んでいた。ボロボロと泣きながら……。


 離婚してから、ひとりで一軒家に住んでいる父。

それは、まるでひっそりと隠れて暮らしている孤独のような人だ。


――プルル…スマホが震える。一通の着信があった。

 もしもし……。電話越しに微かに聞こえる父の母親。祖母の声だった。私は、少し震えながら話を聞いていた。ゾクッと背筋から寒気を感じながら。

 「睡眠薬とビールを一緒に飲んで、意識を失って病院に搬送された。」……と。私は怒りの感情を少し覚えた。は?……っと言いそうになったがグッと感情を押し殺し、目をゆっくりと瞑り落ち着いて祖母の話を聞いた。

 深夜2時頃、祖母を呼び出し罵声を祖母に浴びせたという。静かに、呆れたように父の話を聞いていた。突然、父が精神科で処方された睡眠薬を大量にビールで一気に飲み干したのだ。「今から、死んだるから見とけよ!!」と。祖母はその時、身体全身の震えが止まらず額から一滴の汗が流れたという。それを電話越しに私は聞いて思った。また、やってくれたな。怒りの感情と恐怖。頭の中が真っ白になった。思わず私はスマホを耳から遠ざけた。

「今、バイトの休憩時間だから後で連絡するね」と一言を勢いよく言うて急いで電話を切った。

 思い出したくもない記憶が鮮明に蘇る。秋の匂いと共に……

 私が小学校4年生の頃、両親が離婚した。その当時は父のことも大好きだった。まだ子供だったから父という存在がということもあやふやだった。仕事に戻り、大きなキャベツを細かく切りながらふと思う。

 大人になるにつれ、母が父に対してどんな事を思っていたのか少しずつ分かるようになった。こんな事を思いながら切るキャベツはいつも以上に細かく切りすぎたかもしれない。新鮮なキャベツな様に私の残酷な心を切り刻み、新鮮さを取り戻したい。とザクザクと切りながら思う私であった。


 ほとぼりが冷め、ひと段落した頃。

再び、精神科病院に父を送り込んだ。助手席に父がのり、私は少し緊張してハンドルを握りながら運転する。最初に口を開いたのは父だった。「睦葉、色々とごめんな。父さん、きちんと病気を治してちゃんと生きるから。」……私は何も返事をしないまま、そっとバックミラーの方向に目を向けた。

 ボロボロと子供のように泣く父がひたすら、ごめんな……。

 ごめんな……。

 最低な父親でごめんな……。

 と謝る。

 私は呆れ果て、何も思わなくなった。


病院に着き、父を送り出そうとした時

「ちゃんと病気治すから、治ったら逢いに来てくれるか?」――その言葉を聞いた瞬間だった。胸の奥で何かが静かに切れた。プツッと何かに繋がれた糸が……。

 それは、怒りでも悲しみでもない。ただ、一瞬にして――終わったと、思った。



――限界突破。

 もう無理だ。限界をとっくに超えている。これ以上、この人の人生に付き合うのはできない。縁を切ろう。そう思った瞬間、私の胸の鼓動が大きく跳ねた。

 ――ドクン、ドクン……


 私は、気持ちを切り替え大きく息を吸った。こんなに空気が美味しく感じるのは久しぶりだ。ホッとため息をつく。

 あれから、父とは連絡を取っていない。不思議なほど、日常は静かになった。




 ――1年後の冬。寒く冷たい切ない恋が始まろうとしていた。



 高校を卒業して、5年ぶりに元彼と再び出会うことになった。相変わらず、背が高くてスラッとしててクールだけど優しい所が好きだった。

 ――私は鼻歌を歌いながら、海斗の元へ走っていった。「久しぶり、元気にしてた?」と冷たい眼差しで海斗は言った。「うん、元気だよ。久しぶりだね。」と、髪を耳にそっとかけながら言った。

 海斗と過ごす毎日は素晴らしいぐらいに幸せだった。

お互いの誕生日を祝い、色んな所へお出かけをして初めてのキスをしたり。甘いくちどけだった。そんな中、ゾッと津波のように押し寄せてくる不安と戦いながら海斗と付き合っていた。


 私は実習で忙しくなり、彼に構えなくなってきたころ歯車が錆び付いてきた……。実習中、手術を見ながらふと思う。――海斗と別れた方がいいのかな?と。

 家族優先にしてしまう彼に、少し嫌気が刺した。家族思いなのは素敵。そういう彼が好き。でも、私はだんだん不安で胸が押し潰されそうになっていた。繊細な心にそっとメスを入れられた感覚。ザクッと。ふらっと一瞬目眩がして、私は一旦その場を離れた。

 ゆっくりお茶を飲み、気持ちを切替える。心の中で1.2.3.4.5……秒数えながら。

 同じ人と2回付き合うことってあんまり無いことだから、別れるという選択肢は考えたくなかった。でも、自分の身を守る為にはそうせざるを得なかった。何も入っていない胃の中から何かつっかえて出てきそうだった。慌てて、私はトイレに駆け込み便器に向かって「ごめんね。」と数滴しずくを落とし泣きながら吐いた。



――崩壊。

 別れ話をする時はメッセージだけで終わってしまった。ケンカ別れだった。


 あぁ……。もう、どうでもいいや。思いっきり、ベッドにスマホを投げつけた。投げつけたスマホが思いっきり跳ね上がり、壁にぶつかり液晶がバキバキに割れた。心の傷と一緒だ。少しだけ、気持ちがスっと落ち着いた。


 胸が痛くならない。

 苦しくもない。


 ただ、静かだった。


 その瞬間、分かってしまった。


――終わったんだ。寒く切ない恋が……

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