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楽しかった日常


 6時45分。――枕元で目覚まし時計が鳴り響く。あぁ……目を開けるとカーテンの隙間からとてつもなく眩しい光が差し込んでくる。

――私はそれを鬱陶しいと思うのだ。起きたくない。このまま、布団の中で一生過ごしたい。

はぁ……また、新しい1日が始まっちゃう。心の中で「おはよう」と一応呟いて、私は学校に行く支度をした。


――――9時30分、1コマ目のチャイムが鳴った。「キーンコーンカーンコーン」チャイム音も私に取ったら耳障りだ……あ゙ぁぁぁ、なんて毎日残酷になってしまったのだろう?専門学生になる前は、忙しかったけど仕事終わりにはひとりでカフェに行ったりして、満喫していた。

 夢を叶える為に選んだ道なのにどうして苦しくなるんだろう……原因はいくつかある。その中でも1番大きいのは――担任だ。南田先生。30代女性。見た目は20代半ばくらいでどこか子供っぽい性格をしている。

 私はこの人を少し可哀想な人だと思っている。先生は専門の教師になる前に、7年間動物看護師として働いていたらしい。それは純粋に凄いと思う。

だけど。

 自慢げにいつも南田先生は生徒に伝える。「私、7年も看護師してたから分かるんだけどさ」と先生は少し顎をあげて、得意げに笑った。それが先生の口癖だ。

 その言葉を聞く度に私は少し胸がざらつく。

私はペンを持つ手を止めないようにしながら、そっとノートに視線を落とした。

 ……また始まった。


そう思ってしまう自分にも、少し嫌気が差してしまう。


――1コマ目がようやく終わり、10分休憩の時間になった。私はこの休憩時間も苦痛でたまらない……教室のあちこちで笑い声が重なって、頭の奥に響く。頭がガンガンと痛い。痛い。

 私はそっと耳元に手を当てるフリをし、少しだけ俯いた。窓の隙間からまた日差しがさしてくる。眩しい…目がチカチカとする。私はそっと視線を自分の手元に落とした。早く家に帰りたい。でも、家も苦痛で仕方がない。

どうして、全部がしんどく感じるんだろう。楽しかった日常はどこへ消えていってしまったのか……

 放課後、電車に揺られながら私はぼんやりと窓の外を眺めながら帰った。


 ――残酷――

 帰宅後、目の前に繰り広げられる世界は楽しそうにしている家族。「おかえり。夜ご飯できてるから食べなよ」と祖母が台所から顔を出して言った。

 私は心の中でため息をつき、無視をした。目も合わせずに、私はマグカップに水を入れレンジで温めた。チン、と鳴り響く。ゆっくりと白湯を口に運ぶ。息を吐きながらゴクリっと飲んだ。温かいはずなのに、どこか味がしなかった。

 横を通りすぎた瞬間、祖母の気配がすぐ近くにあるのを僅かながら感じた。――鬱陶しい。あぁ……そんなことを思ってしまう。もう一度、小さくため息をついた。


家族内の空気感に私はだんだんと耐えられなくなった。飲みかけの白湯を放置しながら、部屋に閉じこもった。白湯はまだ暖かかった…。


――薄暗い部屋に、私は1滴のしずくが零れ落ちた。ポタッと……

スマホを見て、何も無い通知に私は胸がキュッと…息が少ししづらくなるぐらい苦しくなった。――孤独だ。


ベッドの上で私は横になり、ポタポタと静かに涙を流しながらスマホの電源を切った。


――楽しい夢

 23歳の誕生日。ケーキのロウソクがゆらゆらと揺れ、私はそっと息を吹いた。火が消えた瞬間、部屋がキラキラと輝いていた。満面の笑みを浮かべて母が言う。「お誕生日おめでとう」それに合わせるように、海斗も微笑んだ。「睦葉、お誕生日おめでとう」っと。

 なんて、幸せなんだろう。今までで1番幸せ。胸がキュッと痛くなるぐらい嬉しい。私は口元を手で隠しながら、笑顔で「ありがとう」と言った。この幸せが永遠に続きますように……私はそっと手の平を自分の胸に当てて願った。


 海斗……海斗……。

 海斗……!!!!


私は、何かに取り憑かれたかのように目が覚めた。

――7時40分。目覚ましがチリリっと鳴る。

 大量の汗をかいたのか、びっしょりと濡れていた。ゾッと押し寄せてくる怒りと憎しみ。頭を抱えた。

 楽しかった頃の夢をみていたんだ。幸せだったあの頃は……3年前に別れた彼。夢に出てきたせいで、最悪な気持ちになった。

 手元にあったスマホの電源をつけ、通知が無いことに少しため息が出た。はぁ……。身体が怠い。重い。しんどい。朝から最悪だ。ベッドから起き上がり、急いで学校の支度をした。



 いつも駐車場の端で掃き掃除をしているおばちゃんに、ふと声をかけられた。「おはよう。今日も寒いね。気をつけて行くんだよ」手を振りながら笑顔で見送ってくれた。その笑顔に私は少し救われた気がした。冷たい風がヒューっと耳元をかすめた。でも、どこか暖かい風へと変わった気がした。スキップしながら、改札口を駆け抜けた。



 ――この時、私はまだ気づいていなかった。楽しかった日常が、ここで終わっていたことに。

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