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死神の隠し子  作者: 沖延龍弥


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第94話 息子

「なんで、それを……」

 煉兎が言った。隠しきれない動揺が、震える声から伝わってきた。

 祝の方は、締めあげられる痛みで朦朧もうろうしていて、まったく理解が追いつけずにいる。


「いやあ、俺もわかったときは驚いたぜ。〈疾空しっくう三日月刃みかづきば〉を使うもんだから、てっきりこいつは、おまえの隠し子でしかないとばかり思ってた。自分の親は嗛間炎袰だって言い張っても、なに言ってんだ、この馬鹿はって、あやうく聞き流すところだった。なんせ死神の隠し子ってのは普通、親にあたる死神はたった一人だ。瀬城や八尋みてえにな」

 けど、このガキだけはそうじゃなかった! と、日暈は目をぎらつかせて、嬉々(きき)として言った。

「このガキは、てめえと嗛間炎袰の二人の死神を親に持ってやがったんだ! そして、その身体に分けられた魂も一つじゃねえ。二つも持っていやがった! それがこのガキが三日月刃を使えるだけじゃない、異様な強さの秘密だったんだ!」


 煉兎は、何も答えない。図星をこれでもかと射抜かれたらしく、唇を小刻みに震わせるばかりだった。

「瀬城には、このガキはまだ殺すなって言われてんるんだか、あいつとの協力関係も、もう終いだ」 

 黒々とした妖気を全身に絡めて、日暈が祝へ向き直る。「死神殺しができねえって言うんなら、カグツチの完全復活はてめえの魂であがなってもらうぜ」


 もはや薄れゆく意識のなか、祝は諦めにも似た絶望を覚えた。

(こんな奴らに騙されていたなんて……糞以下だったのは、俺の方だ……)


「やめろ……やめてくれッ……」

 いたたまれなくほどの悲愴な声で、煉兎は必死に懇願した。「俺のことは、煮るなり焼くなり、好きにすりゃあいい。だからこいつは……こいつだけはやめてくれ!」


 ぎゃははっと日暈の高笑いが、黒闇々(こくあんあん)の夜空に轟いた。

「いやだね。おまえを殺したところで、嗛間炎袰の魂は手に入らねぇ。とてつもなく強いあの女を、瀬城ひとりでたおせるなんて思えねえし、こんな絶好の好機はまたとねえ!」

 言って下卑げひた笑みをかき消すと、もう一度祝へと向き直り、さんざん騙し続けてきたあどけない笑みを貼りつけた。

「じゃあな、祝。恨むんなら、おまえに魂を分けた死神どもを恨むがいい」

 憎らしいほどの愛らしい声で言って、がばりと口をかっ開く。

 中から覗いたのは、はしほどの太さの、黒光りする無数のとげだった。その尖端の目指す先に、苦悶くもんする祝の顔がある。


 日暈が、大きく仰け反った。そして勢いよく

上半身を前方へと倒し、口から一斉に棘が飛び出そうとするその刹那ーー


 煉兎が、ついに駆け出した。疾風はやての速さで駆け抜け、地を蹴ると、本殿の屋根へと躍り上がり、声をかぎりに絶叫した。

「俺の息子に、手ぇ出すんじゃねえーッ!!」





◇◆◇◆




 八尋と瀬城が入院している総合病院のナースステーションでは、静寂に包まれ、平和な時間が過ぎていた。

 しかし、廊下に面したカウンターで事務作業をしていた看護師は、ひとり浮かない顔だった。今いるメンバーの中でおそらくは一番の年配で、頼りになる人物あろうことは、ピンと伸びた背筋を見れば、すぐにわかった。

 けれど今は、パソコンの入力作業にも身が入らないようで、ふいに顔を上げると、ねえ、と隣にいた年若い看護師に声をかけた。

「悪いんだけど、五○七号室の個室の様子を見に行ってほしいの。そこにいる患者さん、帝徳大学付属病院の院長令嬢でね、何かあったら大変なのよ」

 

 年若い看護師は、「わかりました」とこころよく頷くと、ナースステーションをあとにした。


 しばらくすると、巡回に行っていた別の看護師が、青い顔でナースステーションへ駆け込み、声をあげた。

「た、大変です、看護師長!」

「どうしたのよ、血相変えて」

「四○五号室の瀬城夏冊さんがいないんです! トイレも廊下も全部探したんですけど、どこにもいなくて……窓だけが空いたまま、もぬけの殻なんです!」

「なんですって!?」

 またたく間に、看護師長の顔色も蒼白になった。

「あの人は、警察から絶対に外に出さないようにって言われていた患者さんなのよ!? それに……外になんて出られるはずないわ。四○五号室から一階へ下りようと思うなら、ここを通らなきゃエレベーターも階段も使えないのよ? わたし、ずっとこの廊下がわのカウンターにいたけれど、瀬城さんは通らなかったわ。だから、院内のどこかにはいるはずよ」

 ちゃんと虱潰しらみつぶしに捜してちょうだいと、追い払うようにして指示を投げると、

「は、はい」と、報告しに来た看護師は、何度もうなずきナースステーションを出て行った。


 それと入れ違いに、今度は五○七号室の様子を見に行っていた年若い看護師が、息せき切って飛び込んで来た。

「大変です、看護師長!」

「今度は、なに!?」

「五○七号室の海童八尋さんが、いないんです! 窓だけが空いたまま、どこを捜しても見当たりません!」

 看護師長は、あんぐりと口を開けて立ち尽くした。

「いったい、今夜はどうなってるの!?」


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