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死神の隠し子  作者: 沖延龍弥


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第88話 模倣と模倣

 夏冊と、狛犬姉弟もとい魂喰夜叉は、いちど鳥居から少し離れた場所で長槍から降りた。

 二匹は、鳥居がある以上、神社の奥へは侵入できない。

 だからその根本へ、夏冊が三日月刃を放ってへし折ってやって、もう一度長槍にまたがり奥へと進んだ。


 本殿は、山の頂上にひっそりとある。荒れ放題で廃れきってはいるものの、森厳しんげんたるおもむきを充分に残した佇まいで、なるほど、人ならざるものがねぐらにするには丁度いい。

 

 そんなやしろの屋根の上で、日照雨煌侍郎はおぼろな月明かりに照らされて、呑気に寝息をかいていた。

 それを見つけて、夏冊は霊力を目一杯に滾らせ、長槍からその傍らへと降り立った。


 十七年ぶりに見る煌侍郎の姿は、あのころと何ひとつ変わらなかった。むしろ子供のころはあんなにいかつくておっさんくさいなとすら思っていた顔立ちが、自身が心身ともに歳を重ねたせいか、以外と若々しかったんだなと、少しショックを覚えるくらいだった。

 そのうえ、呑気にもゆっくりと目を開けて、  

 「夏冊」と、あのころとまったく変わらない調子で呼びかけてくるものだから、懐かしさに胸が締めつけられた。

 こちらの気配にはとっくに気づいていたらしく、煌侍郎の顔に驚きの色は見当たらない。なんなら寝そべったままで、長くて深いため息をついて、

「こんなところまで、何しに来た。帰れ」

 と言いざま、しっし、と追い払うような手振りまでされた。


 夏冊のなかで、黒い炎が火柱を立てて燃えあがる。

「おまえを殺しに来たんだ」

 重々しく告げた声が、地を這った。

それでも煌悟は鼻で笑って、立ち上がろうとする気配すらない。


 苛立たしさに、夏冊のこめかみがずきずきと痛んだ。

「おまえだけじゃない。十人の死神全員を殺して、天瑞鏡を手に入れる」

 重ねて言えば、煌悟の片眉がぴくりと上がった。半身を起こして、

「誰から天瑞鏡のことを聞いたんだ」

とがめるような目を投げてきた。


「誰だっていいだろう」と夏冊は、冷然とその視線を撥ね返す。

「十七年前ーーおまえがお母さんを殺したあの日に、僕は心に決めたんだ。おまえも、おまえ以外の死神も、すべて殺して天瑞鏡を手に入れると。そして必ずお母さんを生き返らせると。それだけが僕の生き甲斐だった。おまえだけを憎み、ずっと修行を続けてきたんだ」

 だから今の僕は、おまえの知ってる僕じゃないーーと両手に霊力を傾注させると、

「死ねッ! 死神•日照雨煌侍郎!!」

 右腕を横殴りに振り払い、三条の三日月刃を撃ち放った。


 煌侍郎は、ひざを伸ばした反動だけで素早く跳ね起き、すぐさま迎撃の三日月刃を疾らせた。

 三条の三日月刃と三条の三日月刃が、鏘然しょうぜんたる響きと火花を散らしてかち合った。

 しかし、ほんの数瞬の鬩ぎ合いはあったものの、すぐに煌侍郎が放った刃が、夏冊の刃を噛み砕き、光の粒に変えて消し去った。


 夏冊が、幾十いくその長槍を投じれば、煌侍郎は緋緋色金ひひいろがねで濡らした両手で払い除け、ときには豪快に掴み取っては放り捨てる。


 夏冊が、ポケットから取り出した水鉄炮で、緋緋色を撃ちまくれば、煌侍郎は袖すら掠らせず、それを躱す。そのうえ流れる風のように間合いを詰めて夏冊へと迫ると、強烈な拳を繰り出し、鳩尾を抉った。


 夏冊は、「がはっ」と呻いて二メートルほど吹き飛び、屋根を少しへこませて尻餅をついた。

 煌侍郎が立ち上がってから、まだ一分すらも経っていない。けれど、死神の強さはやはり圧倒的であると

思い知るには充分だった。


 しかし、夏冊は引かなかった。片手を軽く持ち上げると、本殿を取り囲む雑木林から武装した二十機余りのぬいぐるみと人形を喚び寄せ、煌侍郎へと殺到させた。


 舌打ちを鳴らし、煌侍郎は屋根から地上へと飛び降りた。

 それを追うぬいぐるみが、煌侍郎に向かって斧や星球せいきゅう鉄槌てっついを振り回し、後方に控えていた人形が、口から光線砲を猛射する。


 煌侍郎はそれを掻い潜りつつ片手を挙げた。すると、本殿の扉が勢いよく開け放たれて、中から武器を持った古めかしい縫いぐるみや人形が飛び出した。煌侍郎の操る人形兵器だ。

 夏冊の操る人形と、煌悟の操る人形が、刃を振り回し、切り結ぶ。


 夏冊も屋根から地上へと降り立つと、空中戦を繰り広げる人形たちの真下で、煌侍郎との神通術戦が再開した。

 とはいえ、薄笑いさえ浮かべる煌侍郎に、夏冊は遊ばれているようなものだった。なんど三日月刃を放とうが、迎え撃つ三日月刃に容易く砕かれ、どれほど長槍を繰り出そうが、羽のような身ごなしで躱される。


 ふと目を降ろせば、夏冊が操るぬいぐるみや人形はすべて地面に転がされ、動かぬガラクタとなっていた。そのうえ煌侍郎の操るぬいぐるみが、空中で夏冊を取り囲み、ガラス玉やボタンでできた目玉で、じっと狙いを澄ましていた。

 こちらに操れるぬいぐるみや人形は、もういない。負け惜しみとばかりに、きっと煌侍郎を睨みつけると、一切の表情を削ぎ落とした死神が、じっとこちらを見つめていた。

 

 光線砲で焼け焦げた草と土の匂いが、鼻を突く。

 煌侍郎が、軽く右手を持ち上げた。

 ぬいぐるみに殺到され、夏冊はぎゅっと目をつむった。


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