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死神の隠し子  作者: 沖延龍弥


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第49話 脱出成功

「今だッ!」

 このときを待っていた祝は声をあげた。


 少女が慌てて振り返ると同時に、瀬城から飛び出した四体の分身が、一斉にクローゼットへと躍りかかった。

 分身は、今の瀬城同様に右腕がない。それでも感情のない分身たちは怯むこともなく、少女を中に閉じ込めようと、左手だけでクローゼットの扉に手をかけた。


 扉は勢いよく閉じられようとしたが、閉め切ることはてきなかった。クローゼットからはみ出していた白骨の巨腕が、扉の間に挟まってしまったのだ。

 しかし、少女の動きを封じるには、その方がむしろ好都合だった。後ろ手に捕らえられたような状態で彼女は今、振り向くことすらもできずにいる。


 その隙に、祝が瀬城を担いでベッドから降ろした。

 窓を見れば、すでに八尋がそれを開け放ち、長槍を二本握って待っていた。

 そのうちの一本を投げ渡されて、祝は瀬城を担いだままで跨った。

 八尋に操られた長槍は、三人を乗せて舞い上がり、窓の外へと飛び出した。




◇◆◇◆




 少女が後ろ手のままで、分身たちとの力比べに勝ったのは、祝たちが脱出したほんの数秒後のことだった。

 分身たちが、全力と全体重を扉に載せようが、白骨の巨腕の万力のような力が、容易くクローゼットを開け放った。

 勢いよく開かれた扉に弾かれて、分身たちは一斉に吹き飛び、尻餅をつく。


 少女が、クローゼットから姿を現した。常人が目の当たりにしていたなら、失禁してしまうほどの凄まじい怒気が迸っている。


 分身たちはすぐさま立ち上がり、少女へと殺到した。

「小蝿が」

 そう吐き捨てると、少女はまず右の巨腕の手刀でもって、一体目の分身を両断した。すぐさま左の巨腕が二体目の腹を突き破る。

 

 残り二体となった分身が、怯むことなく躍りかかる。

 少女は両の巨腕で難なくその二体を掴み上げると、容赦

ないまでに握りつぶして、床へと捨てた。


 再起不能となった分身たちは、すべて透明になって消え失せた。

 

 少女が、クローゼットへと踵を返す。もう、おおよそはわかってはいたが、確かめないわけにはいかなかった。

 

 布を剥ぎ取ると、中にあったのはやはりカグツチを入れた鬼灯ではなかった。鬼灯とよく似た形の鳥籠の中に、電池式のランタンが入っていただけだった。


「おのれぇぇッ!」

 少女が怒りまかせに、袖から伸びる繊手で鳥籠を上から殴りつけた。

 鉄製の鳥籠は、見るも無惨にぺちゃんこに(ひしゃ)げ、中にあったランタンは粉々になった。


 もはや、磁場をも歪ましかねない怒気を纏い、少女は開け放たれたままの窓へと歩いてゆく。

 (へり)に手を置くと、何も見えない夜闇を睨みつけ、地を這うような声で言った。

「逃げ切れるなんて思うんじゃないよ……!」




◇◆◇◆


 鳥籠の中に電池式のランタンを入れて、偽物の鬼灯用意していたのは瀬城だった。

 青鹿毛炸靭の襲撃に遭ったあと、ほかの死神にも居場所を知られている可能性があると、常に身の回りに忍ばせていたのだ。

 

 それを、祝と八尋は知っていた。だからきっと病室にもあるはずだと思い至り、瀬城が目でクローゼットを指し示したときには、絶対にあると確信した。

 そして今、祝たちはなんとか逃げ切り、八尋が操る長槍に乗って、正鹿神社へと飛んでいた。


「頑張れ先生。もう少しだ」 

 祝の背の上で、瀬城は息も絶え絶えに心身を消耗しきっていた。傷口を抉られ、神通術でさらに神経をすり減らしたのだから無理もない。真っ赤な断端包帯(だんたんほうたい)から溢れ出る血が、地上へ滴り落ちていった。


 三人が本殿の前に降り立つと、気配を察したのか、狛犬姉弟が中から扉を開けて現れた。瀬城の惨状を見るや否や、血相を変えて駆けてくる。

「いったい何があったですの!?」

「ですぞ!?」


 勢い込んて尋ねられ、話はあとだ、と祝は制した。

「確か、先生が用意していた救急バッグがあったよな? その中に鎮痛剤はなかったか?」


「あるですの。それに止血剤や包帯もあったはずですの」

「ですぞ」


「だったら、早く飲ませよう」

 祝は本殿の中へと、瀬城を運んだ。狛犬姉弟が救急バッグを引っ張り出してきて、せかせかと中を漁りはじめた。

 救急バッグは、祝と八尋が神通術の修行をしていたころに、二人の怪我を心配して、瀬城が用意してくれていたものだった。

 瀬城に鎮痛剤を飲ませると、八尋が真っ赤に染まった包帯を外して、止血パッドを貼った上から、なかなかの手際のよさで新しい包帯を巻き直した。^_^

 しばらくすると鎮痛剤が効いたのか、瀬城の真っ白だった顔に血の気が差して、虚ろだった瞳にも、かすかではあるが光が戻った。


「みんな、ありがとう。もう大丈夫だ」

 いまだ呼吸は荒く、乱れていたが、瀬城の口から久しぶりに聞いた、悲鳴や苦叫以外の声だった。それを聞いて、祝たちは一様にほっとした。


 それからすぐに、壁に寄りかかっていた瀬城が、こくりこくりと船を漕ぎだした。鎮痛剤の副作用かもしれない。

 祝と八尋が着ていたブレザーを床に敷いて、その上にそっと寝かせてやった。 

 瀬城は、ありがとう、と小さく言うと、すぐに瞼を閉じて眠りに落ちた。


「これでもう、病院には戻れなくなったですの」

「ですぞ」

狛犬姉弟が、沈んだ声でつぶやいた。

「ここだって、死神達に知られるのは時間の問題……いったいどうすればいいですの?」

「ですぞ?」


 重苦しい空気が垂れ込めて、祝たちの背中にのし掛かった。

「だけど、ここ以外に逃げ場所なんてないだろ」

 投げやりな調子で、祝は言う。「病院まで来たってことは、もう俺たちの家だってとっくに知られているはずだ。だったら、バレるまではここを根城にするしかしかない」


「でも、もしバレたときはどうするの?」

 間髪容れずに、八尋が尋ねた。「さっきみたいに死神に襲われたら、また先生を抱えて逃げ切れる?」


「だったら、ほかにどうするっていうんだよ!」

 祝は、瀬城が寝ていることも忘れて、怒鳴りたてた。「カグツチと天瑞鏡の破片を素直に死神に渡したところで、命の保証はないんだぞ? だったらもう、ここがバレる前に、残りの五人の死神をすべて殺すしかねえだろ!」


 言いながら、自分でも無謀だと思った。案の定、八尋も狛犬姉弟も賛同しない。余計に顔を曇らせてしまっただけだった。

 二人と二匹は、項垂れた。辺りの空気が、しーんと寒くなってゆく。


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