表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の隠し子  作者: 沖延龍弥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/120

第44話 最高傑作

(さすがは、アタシの最高傑作。往生際の悪さも、ほか()たちとは段違いね。)

 

 首だけとなったお龍の嘔吐を我慢しているかのような形相に、炉慈丸は勝利を確信した。

 そして、祝と呼ばれた少年の血の気の引いた顔を見て、ニンマリと口の端を吊り上げた。

(ホントに馬鹿な坊やね。このアタシをおっさん呼ばわりなんてするからよ)


 しかし、少年の愕然とする顔を見ていると、滾っていた狂憤が冷めると同時に、僅かばかりの同情を催してしまった。


 少年は、自分が死神の隠し子であることを知らなかった。死神の隠し子が、何なのかすらも知らなかった。

 だったら、やっぱり全てを話してやればよかったかしらーーと炉慈丸の中にあるらしい、乙女心がかすかに疼いた。

(ここでは手を下さず、〈父親〉に引き渡してやればよかったかしら。あの三日月刃が、なによりの証拠ーーまさかあの色男が、隠し子をねぇ)

 と、その男の顔が脳裏をよぎった。それと同時に、

(こんなかたちで我が子を喪う破目になるとはね……)

 と憐憫(れんびん)の念が、チクリと針のように胸を刺した。


 だが、それもほんの束の間。でもまあ、今さら遅いわね、 と炉慈丸はすぐにその針をへし折った。

(もはや、首だけになったお龍を制御するのは、アタシでも不可能。っていうか、あの子が突然キレだして、ひとの話を聞かないから悪いんじゃない。ましてや、死神殺しは絶対に赦されない。それになにより……乙女をおっさん呼ばわりするなんて、万死に値する大罪よ!)


 そんなさまざまな考えが、お龍の首が打ち上げられてからほんの数瞬のあいだに渦巻いたものの、結局はおっさんと呼ばれた記憶とともに、怒りを再燃させただけだった。


 そして、今まさにお龍の顔が、少年へと正対しようとするその直前、炉慈丸は会心の笑みを浮かべて雄々しく叫んだ。

「ぶちかませッ! お龍!!」


 しかし、その残響をかき消すかのように、

「うあああぁぁぁあああーー!!」

 少年が咆哮をあげて、左腕を死に物狂いとばかりに振り上げた。


 何事かと、炉慈丸が少年へと目を転じて唖然とする。

 

 左手が荒ぶる獣のごとく振り下ろされると、現れた三日月刃が、お龍の首へと飛び翔けた。


 お龍の目が、迫り来る三日月刃に円くなる。


 しかし、三日月刃はお龍の顔を両断するかと思いきや、なぜか目前で右に逸て、耳すら掠めることなく流れていった。


(外したわッ!)

 炉慈丸がニヤリと笑おうとした。が、次の転瞬ーー

 カンッと音を立てて、三日月刃がお龍の髷に挿さる簪の一本を弾き飛ばした。その(はず)みで、お龍の首がぐるんぐるんと回転する。

 そして、ピタリと止まったそのときだった。


「え?」と、炉慈丸が間の抜けた声をあげた。

 バッチリと向かい合ってしまったのだ。

 自身の最高傑作と。


 それが今、耐えきれなくなって嘔吐するように、口から怒涛の光をぶちまけた。


「うそ……」

 炉慈丸の口から絶望が零れる。


 お龍の口から、本日最大の烈光の渦が迸る。

 炉慈丸の死相が、自身の最高傑作の最終兵器に照らされた。

 そして凄まじい速度で差し迫り、あっという間に呑み込まれた。




◇◆◇◆





 炉慈丸は、一塊の血肉も残さずに消滅し、一片の灰すら残らずに散ってしまった。しかし、最期に立っていた場所には魂が浮かび、地面には天瑞鏡の破片が転がっていた。


 魂は、鬼灯を開けて待ち構えていたカグツチの元へと飛んでいき、天瑞鏡の破片は、駆けつけた祝が拾い上げた。


 光線砲が炉慈丸に直撃したのは、偶然だった。

 祝は、お龍の首を両断するつもりで、腕を無我夢中で振り上げた。が、振り下ろさんとする直前、あの首が両断されたら、口内で溜め込まれた光線砲はどうなるんだ? という疑問が湧いた。もしかしたら四方八方に暴発して、直撃は免れても余計に躱しきれなくなるのではーーという冷たい予感が駆け巡り、ためらいが生じて、つい腕が右に逸れただけだった。

 そこから飛び出した三日月刃が、たまたま簪の一本を弾き飛ばし、さらに偶然が重なって、光線砲が吐き出される最後の最後に、炉慈丸とお龍の首がピタリと対面してくれただけだった。


 万に一つーーいや、億に一つの僥倖に、祝は唖然としつつも次第に込み上げてくる勝利の喜悦に、独りニンマリと笑み崩れずにはいられなかった。誰もいなければ、手に入れた天瑞鏡の破片に、頬擦りしてやりたいくらいである。

 しかし後方から、

「ほーりッ!」

 と、八尋の切羽詰まった声がして、ハッと勝利の陶酔から目が醒めた。そうだ! と思い出すと、途端に冷や汗が噴き出して、つんのめるようにして八尋たちの元へと駆けつける。


「先生は!?」

 顔出しパネルの裏で、瀬城は日暈に膝枕をされて横たわっていた。激痛に全身が痙攣し、左手が、わなわなと空を掻いている。


「大丈夫、まだ生きているですの。だけど、もう時間がないですの」

「ですぞ」

 狛犬姉弟の答えに、祝は震える顎を引いてうなずいた。

「病院へ急ごう。八尋、長槍を頼む」

 言われて、八尋が力強くうなずいた。一挙に三十本ほどの長槍を発現させると、それを隙間なく並べて地面に寝かせた。

「ここに先生を乗せましょ」


 おお! と狛犬姉弟が歓声をあげた。自分が瀬城を担いでやるしかないと思っていた祝も、思わず感嘆の息を漏らす。

 そうして、すぐさま空飛ぶ絨毯ならぬ空飛ぶ筏に瀬城を乗せた。道中振り落とされないよう、筏の隙間に祝のブレザーの袖を通し、瀬城の腹の上で縛って身体を固定してやった。


 八尋が、祝と狛犬姉弟へ両手の人差し指をクイッの向けた。すると、目の前に二本の長槍が現れて、祝と狛犬姉弟がそれを受け取る。行きしな同様、鬼灯は祝が片手で抱え、狛犬姉弟は二匹で一本の長槍に跨った。

 それを確認すると、すでに長槍に横座りして待っていた八尋が、全員を夜空へと舞い上げた。

「全速力で行くからね。全員しっかり掴まってて!」

 

 宣言どおり、気を抜いてると仰け反ってしまうほどの速度で長槍は飛んだ。

 途中、祝が上空から小さな診療所を見つけて指差したが、狛犬姉弟は渋い顔でかぶりを振った。小さな診療所で、片腕を失うほどの深傷を治療できるとは思えないし、何より警察を喚ばれては不都合だ、と。帝徳大学病院へと戻った方が、医療体制は万全であろうし、瀬城がとりなしてくれれば、警察沙汰にはならずに済むと二匹はさらに訴え、祝は素直にそれに従った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ